|
誰もが認める世界最高のギタリスト かのエアロスミスがビッグになり、ライブでベック時代のヤードバーズの曲「トレン・ケプト・ア・ローリン(ストロール・オン)」を演奏したとき、ベックが急遽ゲストでステージに上がるや、ジョー・ペリー(g)は感動で涙を流しながらその場に立ちつくした。 常識を超えた職人芸的プレイ 1944年6月24日生まれ、イギリスのサリー州ウェリントン出身のジェフ・ベックは、18歳の頃からバンドを結成し、主にジーン・ヴィンセントやエディ・コクランなどの曲をレパートリーにしていたという。またその頃、妹の紹介でジミー・ペイジ(g)とも出逢っている。63年にはオール・スターズというバンドに参加し、ニッキー・ホプキンス(key)らに混じって初レコーディングを体験した。その直後、トライデンツというバンドを結成し、ジミー・ペイジやロン・ウッドのバンドの前座を務めたこともある。また、この頃にはすでにフィード・バック奏法を編み出したり、レス・ポールから影響を受けたと思われるトリッキーなプレイで、かなり評判になっていた。 フュージョン・サウンドの先駆者 75年、付いて来るメンバーがいなくなったのか、はたまた付いて来られるメンバーが見つからなかったのか、ベックはついにソロとなり、全面インストゥルメンタル(=インスト。唄なし)のアルバム「ギター殺人者の凱旋(Blow By Blow)」をリリースした。今ではロック・ギタリストのインスト・アルバムなど珍しくもないが、当時はまだ前例があまり無く、かなり衝撃的なものだった。内容的にも、ジャズ寄りのミュージシャンを従え、ロックとジャズの融合を図った斬新なものだった。
|
Wired Epic/Sony |
Jeff Beck With The Jan Hammer Group Live Epic/Sony |
There And Back Epic/Sony |
Flash Epic/Sony |
Jeff Beck's Guitar Shop Epic/Sony |
ディスコ・グラフィー 1975年 Blow By
Blow(ギター殺人者の凱旋)*世界中で大ヒットしたクロスオーヴァー・インストゥルメンタル・サウンドの極めつけ的アルバム |
Frankie's House Epic/Sony |
Crazy Legs Epic/Sony |
Who Else! Epic/Sony |
You Had It Coming Epic/Sony |
Jeff Epic/Sony |
Blow By Blow Jeff Beck |
SIDE-A 1.分かってくれるかい 2.シーズ・ア・ウーマン 3.コンスティペイテッド・ダック 4.エアー・ブロウ 5.スキャッター・ブレイン |
SIDE-B 1.哀しみの恋人達 2.セロニアス 3.フリーウェイ・ジャム 4.ダイヤモンド・ダスト |
70年代はロックが隆盛を極め、音楽界の主流となっていた時代だ。劣性に回った他ジャンルの音楽も積極的にロック取り入れ、なんとか活路を見い出そうとしていた。クラシック音楽の分野ではイージー・リスニングと呼ばれる、ポピュラー音楽(もちろんロックも含まれる)を取り入れたオーケストラ演奏が盛んに行われ、ポール・モーリア、パーシー・フェイス、レイモン・ルフェーブルといったスターを生んだ。ジャズ界でも、こうした現象は70年代初頭から起こり、ハービ-・ハンコック、マイルス・デイビス、チック・コリアなどがロック的アプローチを始め、ロックとのクロス・オーヴァーを試みていた。 しかしながら、時代背景的にこれらはまだまだマイナーな存在で、あくまで一部の関心を引くだけのものでしかなかった。 しかし、ロック界の大スター、ジェフ・ベックが、このアルバムでロックとジャズの融合サウンドを完成させたことで、一気に人気が爆発。瞬く間に一般リスナー層へもクロス・オーヴァー・サウンドが浸透し、一大ブームを巻き起こすのであった。 また、このアルバムは、それまでのロック系のアルバムとしてはかなり珍しい、全面インストゥルメンタルとしたことで、ギタリストがソロでも充分にやっていけるという実績を作った。最近ではスーパー・ギタリストのソロ・アルバムなど珍しいことではないが、おそらくこのアルバムの成功がなければ、レコード会社からまったく相手にされず、現在のようにソロとして単独で活動し続けることすら許されなかっただろう。そういう意味でも、この「Blow By Blow」は歴史的価値の高い名盤と言える。 さて、その内容だが、一言で言うと、まさにフュージョン・サウンドである。バック・ミュージシャンはもちろんのこと、ベック自身もかなりジャズっぽいフレーズを多用し、雰囲気を出している。だが、ビートと、かなり歪ませたギターの音色はあくまでもロック。このへんが、それまでのジャズ・ロックとは一線を画すところだ。特に注目すべきところをピックアップすると、まずA-2、この曲はご存じビートルズ初期の作品だが、ここではレゲエのリズムを用い、一風変わったアレンジを施している。メロディ・ラインは普通のギター音とトーキング・モジュレーターの音とのユニゾンで、ところどころピッキング・ハーモニクス奏法を駆使している。また曲の最後に飛び出すオクターヴ奏法(注1)とハーモニクス奏法の複合技は圧巻だ。 A-4は軽快なギターのリズム・カッティングから始まる。この手法は今ではフュージョンのスタンダードと化している。この曲ではトレモロ・アームを微妙にコントロールさせ、キーボードのビブラートに近い音を作り出している。このあたりは次作「ワイアード」で多用されているが、その前兆と言えよう。 そしてA面のハイライトA-5では、前半JAZZYなスロー・テンポから後半はスピード感あふれる変則リズムの曲へとドラマティックな展開をみせる。 この後半でのベックのプレイは驚異的!よく聞くと、メイン・フレーズの繰り返し部分を1回目は普通にピッキングとハマリング・オンを組み合わせて弾き、2回目はすべての音をピッキング。中間部分ではディストーションなしで弾いたり、左手だけで弾いたりと自由自在にギターを操り、ニュアンスを変えている。しかも指がつりそうなくらいの難しいフレーズなのだ。ちなみにライブではこの曲をさらに1.5倍ぐらいの速いテンポで弾いている(^_^; B面に移ると、A-5でのサイボーグのようなプレイが一変、ギターが乗り移ったのではないかと思うほど感情豊かなプレイをみせる。B-1とB-2は、ともにスティーヴィー・ワンダーがベックのために新たに書き起こしたナンバーだが、曲調はバラードとファンキー・ナンバーというようにまったく違う。 そのB-1は、おそらくベックのギタリスト人生の中でも最高のプレイと思われる。あらゆるテクニックをさりげなく駆使しながら、感情を最大限に表したフレーズ。むせび泣くような音色。故コージー・パウエル曰く「世界で最もギターに感情を込められる人」の言葉通り、まさにギターと体が一体化しているようなスーパー・プレイだ。 この他にもオクターヴァー(注2)とトーキング・モジュレーターのかけ合いや、ハーモニクス+トレモロ・アームの新しい表現、斬新なワウワウ・ペダルの使い方など、ユニークなアイデアと人間離れしたテクニックで前編スリリングで緊張感のある素晴らしいアルバムに仕上がっている。(HINE) |
注1.ジャズでよく使われる手法で、文字通り1オクターヴ離れた音を同時に弾く奏法。 注2.ギター・アタッチメントの一つで、弾いている音より1オクターヴ低い音を出す装置。元のギター音と同時に出したり、エフェクトされた低音のみを出したり自由に調整できるので、1人でギターとベースを同時に弾いているような効果を得ることも出来る。 |