Written by RICK

DIFFICULT TO CURE 1981年発売 Polydoor/Universal
治療不可(アイ・サレンダー)/レインボー

Joe LynnTurner(vo), Ritchie Blackmore(g), Don Airey(Key), Roger Glover(b), Bob Rondinelli(ds)

Produced By Roger Glover Cover Art By Hypgnosis

<第六期スタート!>
 コージー・パウエルとグラハム・ボネットが脱退し、第六期レインボーがスタートした。この時グラハムとコージーに代わってメンバー入りを果たしたのは、元ファンダンゴのジョー・リン・ターナーとボブ・ロンディネリである。
 ジョーはアイドルばりのルックスと、グラハムやロニーとは全く異なったタイプの歌唱法を持つボーカリストで、アメリカ進出を狙うレインボーにとっては絶好の人材である。彼の最大の持ち味は、母音を長く伸ばしたときのヴィブラートの美しさだと思う。そして彼の武器は、ルックスと彼の持つ声質だろう。女性ファンからみると、おそらく彼のルックスであのような声で歌われたらもう「カッコイイ」としかいいようがない!・・・と、ウチの母親が言っていた(笑)
 彼は、適度にハスキーで聴きやすい声質を持ち、適度な高音も出せるという、全く私の好みにピッタリのボーカルなのである。ズバリ欠点はというと、このアルバムの時点ではまだ見当たらない。しかし後になって致命的な欠点が生まれてしまう。これは後で話すことにして・・・次は新ドラマー、ボブ・ロンディネリについて。
 彼はコージーのラスト・ライヴで、コソコソと歩いていたところをコージーに見つかりレインボーに入ったという、なんともかわいそう(?)なドラマーである。コージーの後釜ということで、ものすごい大役を任されたロンディネリだが、私は彼を評価したい。
 まず、リッチーが言うところの、「毎回ドラムの同じところを叩く正確さ、そしてパワフルなドラミングをする。」ということ。これは全くその通りだと思う。曲を聴いていて気が付くのだが、とても安定していて、サウンドにバラつきが少ない。そして一音一音がとても重くしっかりとした音で上手い。このアルバム収録の「スポットライト・キッド」「キャント・ハプン・ヒア」では、彼の持ち味が十二分に生かされている。また、シンバルの使い方が非常にカッコイイ。気になった人は「ファイナル・カット」に収録されている、「アイ・サレンダー」のプロモを見てほしい。指先でスティックを回転させてからヒットさせるというものと、シンバルを乱れ打ちにするものだ。
 そしてドラムソロ。これは見ていて飽きない。まず最初は普通にスティックで叩く。そして次にはいきなり素手で叩きはじめる(私がスタジオでマネしたとき死ぬほど痛かった・・・笑)。そして、ステッィクをシンバルにヒットさせながら飛ばし始め、最後に銅鑼に一撃。・・・と、視覚的にかなり楽しませてくれる。この様子は「ライヴ・ビトイーン・ザ・アイズ」に収録されているので、一見の価値アリだ。
 逆に、彼の欠点はといえば、なんといってもシャッフル・ビートでの不安定さである。元々彼はレインボーに入るまで、シャッフルをあまり練習したことがないらしく、苦手としていたらしい。シャッフルが得意なリッチーとしては、人材の選択ミスであったと思う。初期の「ロング・リヴ・ロックンロール」、また「治療不可」、パープルの「レイジー」など、ライヴでは欠かせないシャッフルの曲があったため練習を重ねたそうだが、なんともいえない違和感が残る。唯一の欠点を挙げるとすればこれだ。また、人間関係にも少し問題があったらしい。入った直後からドン・エイリーに物凄く嫌われ、一度も話してくれなかったという。ジョー曰く「地獄」だったらしい。むむむ。
 ここで私の話を少し・・・(笑)
実は私が初めて買ったスタジオ・アルバムはこれだった。私の父が「ライヴ・ビトイーン・ザ・アイズ」のLD(レーザー・ディスク)を持っていて、初めて見たとき、「スポットライト・キッド」のカッコよさに感動して、すぐに札幌でCDを購入したのだった。当時ヴォーカルが交代しているなどとは全然知らず、「レインボーって、結構ポップ&ハードなんだなぁ」と、勝手にこれをレインボー・サウンドだと認識してしまい、今のジョー好きに至っているわけだ。
 この後、ロニーやグラハムを聴いて、一度がっかりしてしまったこともあった(笑)
 さて、アルバム全体はどうかというと・・・とても楽曲がバリエーションに富んでいる。バラード、疾走曲、ジョーのポップセンス溢れる曲、見事なインスト、ジミ・ヘンドリックスを想わせる曲、最後にクラシックのカヴァーと、こんなに様々なタイプの楽曲がそろっているのにも関わらず、全曲が素晴らしいデキだ。1枚通して聴いても全然飽きない。少し実験的な要素もあり、緊迫した空気もあるのだが、このほどよい緊張感が、このアルバムの醍醐味なのだ。そしてこのアルバムは、レインボー史上最もリッチーのギタープレイが目立っている作品だと私は思っている。お得意の遊びフレーズもかなり入っていて、非常にメロディアスで展開も素晴らしいソロが多く、また曲にも非常にマッチしている。サウンドもこれから先のものとは違い、リッチーらしい荒々しさと勢いが非常によく現れていて素晴らしい。自分で駄曲といった「ノー・リリース」でさえ、気合い入りすぎの素晴らしいソロである。
 また、こんなソロはリッチー史上2つとないのではないかというソロがある。「マジック」である。初めて聴いたとき、なんとなくニール・ショーン(Journey/g)とかブライアン・メイ(Queen/g)っぽい印象を受けた。ん?ゲスト?って思ったほどだ(笑)
 詳しい解説は下でしたいと思うが、リッチーの珍しい一面もみられるアルバムだ。全体的にブリティッシュな雰囲気がまだあって、おそらくジョーが加入する前にトラックが完成していて、ジョーが歌メロを作ったのだろう。とりあえず、私的なレインボー・ベストアルバムであり。素晴らしいアルバムであることに間違いはない。ただ、初期の頃のレインボーからそのままのイメージで聴くと、疑問を感じたり、不満に思ったりするかもしれない。できれば完全に別のバンドと考えて素直に楽曲の良さと演奏を楽しんでほしい。

<ゴールデン・ボーイ ジョー・リン・ターナー>
 ロニーやグラハムと比較され、ボロボロに批判されてしまうことが多いジョー。そしてその批判は、82年〜84年のライヴパフォーマンス、作曲センスについてのものが多い。確かに82年〜84年は悲しいほどに声が出ていないし、ポップ過ぎる楽曲がオールド・ファンを無視していることも確かだ。じゃあなぜリッチーは彼のことを「ゴールデン・ボーイ」と呼んでいたのか。ズバリ一言で言うと、リッチーとの作曲面での相性が非常に良いからだ。上にも書いたが、アメリカ進出を狙うレインボーには、ポップな曲を歌えて書けるシンガーが必要だった。彼はレインボー史上で最もポップな曲をクールに、女性にもウケるように歌えるシンガーで、リッチーはようやく探していたシンガーに出逢えたと話している。今までのリッチーは「共演したいシンガーは?」と聞かれたら、「ポール・ロジャース」としか言わなかったが、彼を発見してからは「ジョー・リン・ターナー(笑)」というようになったという。なぜ最後笑うかは不明だが・・・(笑)
 それはさておき、彼の長所、短所をズバズバっと言いたいと思う。まず、長所について、最大の武器は上でも書いたとおり、適度にハスキーで高すぎず、低すぎずの聴きやすい声。これが最大の持ち味。唯一無二の声質だと思う。最近では高音が衰えてハスキーさが増してきているが・・・また、これをさらに生かす美しいヴィブラートで多くの女性ファンを魅了している。
 この高音ヴィブラートは、発音を犠牲にして美しく高い声を出すという技で、ドリーム・シアターのジェイムス・ラブリエが多用しているのと同様だ。ジョーの場合は、あくまで母音だけにこのヴィブラートをかけているため、発音がさほど犠牲にならず、尚素晴らしい。81年時点では、ライヴでもスタジオでも全力で歌えていて、本当に素晴らしい歌唱だった。なんといってもグラハム時代の曲を、普通に苦しげなく、彼らしく歌えているのは素晴らしいとしか言いようがない。ただ、さすがにロニー時代の曲ではキーを下げているらしく、フェイクも多い。ロニーの歌を人間が歌えというのに無理があるのだ(笑)
 もうひとつの長所は、ポップな作曲センス。彼は歌メロをメロディアスにするのが非常に上手い。「マジック」では本当に素晴らしい。もはやこれはジョーとドンの曲と言っても過言ではない。リッチーも良いと思うのだが、2人の存在感に完全につぶされている。さらに「キャント・ハプン・ヒア」ではもう歴代ボーカルの中で、こんなメロディをつけられるのはジョー以外はいないというほどカッコイイ。後にドゥギー・ホワイトが、「キャント・ハプン・ヒアに代わる一曲を」と、「トゥー・レイト・フォー・ティアーズ」を書いたが、実力差は歴然である。一回曲名を見たらスグ歌えそうなキャッチーさと、適度なハードさは文句のつけようがない。それが彼のセンスあふれる作曲法なのだ。
 なんとなくだが、ジョー時代の曲(インストは除く)で、曲名が歌詞に出てこない曲は、ほとんどないんじゃないかと思っている。KISSの「ロックン・ロール・オールナイト」も、曲名が歌詞にたくさん出てくるおかげで、聴いてる人が分かりやすく、一聴してスグ歌えるパーティソングにもなっているわけだ。言葉に出すことによって記憶に残りやすくなり、「あの曲また聴きたいな」と思うのではないか。そして、その「非常に分かりやすい」というおかげで、ライヴに行っても大合唱が起きる。ポップな曲を作るには、曲名をたくさん歌詞に入れて、聴く人により分かりやすい曲にすることが大切なのだ。
 またジョーは、ジョン・レノンからかなりの影響を受けている。似たような単語を歌詞中に入れてヒネりを出すのは、まさにジョンからの影響だろう。結構わけのわからない歌詞を書くこともあるのだが、「デス・アレイ・ドライヴァー」は、自分の哲学を歌った曲で、「なるほど。確かに」と納得させられるところもある。コンセプトは「人生は死とのレース」であるというものだ。
 そしてもう1つの長所は、楽曲をカヴァーして完全に自分のモノにしてしまう、アレンジの上手さ。彼はいろんな曲をカヴァーしている。「アンダー・カヴァー」と「アンダー・カヴァー2」という彼のソロアルバムがある。ジミヘンやUFOGFRクリームホワイトスネイクまでカヴァーしている。全曲彼が1人で歌っており、「コレ・・・原曲よりカッコイイんじゃない?」と思うものもある。またイングヴェイの「インスピレーション」では、パープルの「ピクチャーズ・オブ・ホーム」「デイモンズ・アイ」をカヴァーしていて、特に「デイモンズ・アイ」は素晴らしい。多少ギランを意識しているところもあるが、私は原曲よりこちらのほうが好きだ。その他では、いろいろなトリビュート・アルバムでも彼の歌声を聴くことができる。なぜか名曲をまかされることが多く、AC/DCの「バック・イン・ブラック」MR.BIGの「ダディ・ブラザー・ラヴァー・リトル・ボーイ」なども歌っている。どの曲でも彼らしさが出ていて見事な歌唱だ。
 一方、短所はというと、やはり最大の欠点は体調管理。麻薬をやったり、カゼをスグひいたりと、結構テキトーな体調管理らしい。最近では、まともにやってるらしいが。。。
 リッチーは、よく仲間とサッカーをするのだが、ジョーはほとんど「お前は部屋で寝てろ!」と怒られていたたらしい。やはりプロのミュージシャンである限り、体調管理は最低限のことではないかと思う。これがエスカレートしたのが82年〜84年で、もうボロボロ。批判されても文句は言えないかなという感じだ。ロニー時代やグラハム時代を歌いこなせないのはまだ分かるが、せめて自分の書いた曲は歌いこなして欲しい。
 そしてもう一つ、これはレインボー時代ではあまりなかったことなのだが、曲の歌詞を覚えていないということ。これはグラハムも同じで、たまに適当にごまかしていることがある(84年のオール・ナイト・ロングがいい例)。この欠点がもろに出ていたのが、彼がディープ・パープルに在籍していた1991年のフィラデルフィア公演。超名曲の「紫の炎」を彼が歌った音源を2つ聴いたことがある。リッチーのギターは、最高に冴えていて素晴らしいのだが、ジョーは、どう聴いてもその場で適当に歌詞を作って歌ってるなぁ?という感じで、彼らしいといえば彼らしい(笑)。興味があったら聴いていただきたい。
 ちょっと話がずれてしまったが(笑)また話も元に戻してっと(笑) もう1つの短所は、ロニー、グラハムの2人に比べての音域の狭さだろう。前の2人が広すぎたのが悪いとも思うのだが(笑)。狭いといっても、普通に評価すれば広いのだ。前の2人と比べてしまうと、誰でもキツイものがあると思うのだが・・・確かに明らかなフェイクでごまかしすぎの「銀嶺の覇者」や、ちょっと苦しそうな「キャッチ・ザ・レインボー」では、物足りなさが残る。それなのに「ラヴズ・ノー・フレンド」「オール・ナイト・ロング」「ロスト・イン・ハリウッド」などのグラハム時代の曲は、苦しげでもなく普通に歌っている。彼は高音をキープするのが苦手なのかもしれない。そのため音階の変化が激しいグラハム時代は歌えて、高音をキープし続けることの多いロニー時代は歌えないのだろうか!?グラハム時代を歌えるといっても絶好調の時だけなのだが・・・やはり、やや不調でも高いキーが出る前の2人には及ばないのかもしれない。
 そして今は、「ゴールデン・ボーイ」ではなく「ゴールデン・おじさん」(笑)になってるわけだが、スタジオでは何の衰えも知らない素晴らしい歌唱を聴かせてくれる。むしろ以前よりパワーアップしてるくらいだ。最近ではグレン・ヒューズとのコンビ「ヒューズ・ターナー・プロジェクト」で、たまに来日しており、ライヴアルバムも発売された。とてもハスキーで昔の彼とは似つかないところもあるが、「ストリート・オブ・ドリームス」は、ハスキーな方が哀愁が増して良い気がする。
 こうして彼はいまだに現役でロックしていて、最近では体調管理もしっかりやっている。自分のファンのためにボイス・トレーニングをしたり、声を大切にするために大騒ぎなどはしなくなったという。さすがに高齢なので昔のように高音が出なくなってきてはいるが、私は彼に「ゴールデン・おじいさん」になっても、「ゴールデン・長老」になっても、一生ロッカーとして生きてほしいと願う。
1. I Surrender アイ・サレンダー
 
いきなりポップなナンバー。この曲はヘッドフォンで聴くとドン・エイリーの仕事の素晴らしさがわかる。バッキングをしっかりサポートして、ちょっとでもスキが入るとキレの良いフレーズを繰り出す。特にサード・ギターソロでの彼は本当にいい仕事をしている。よく聴くと、泣きの哀愁メロディがギターとキーボードのダブルできている。素晴らしい!!!当然ながらギターはリッチー、イントロからダブル・チョーキング、バッキングはいかにもというカンジで、終始パワーコード、ソロは泣きのフレーズを連発。一部「あらら・・・手癖が出ちゃったのね」というところがあるが、そこも含めて素晴らしい。サード・ソロなんかは「これでもか!」というくらいに良いサウンドと良いフレーズで泣かせまくっている。しかし、上の2人以上に、これはもうジョーの曲といっても過言ではない。多分自分が最も歌いやすいキーなので、声質もすごくキレイで得意の高音ヴィヴラートも非常に多く、バッチリキマっているのだろう。感情を込めた歌いまわしはライヴでも変わらず、曲をさらに美しくしている。この曲はレインボーのヴォーカリスト4代の中ではジョーにしか唄えない歌だろう。さすがは「ゴールデン・ボーイ」。そしてリズム・セクションもいい仕事をしている。この手のベースはやはりロジャーが上手い。目立ちすぎず、控えめで堅実なプレイでしっかりとサポートしている。そして、さりげなくリッチーのソロの裏でメロディアスなフレーズを弾いていたりもする。ロンディネリのドラミングは間の取り方が非常に上手い。しかもオカズもバッチリハマってる。真剣にドラムだけを聴くと「お?」と彼の遊び心を発見できたりもする。この曲はラス・バラード作のナンバーで、その選曲センスも素晴らしい。・・・上手い曲見つけたなぁ
 ライヴでは、ドン・エイリーがイントロに遊びを加え、さらにカッコよくなっている。やはり彼のセンスはズバ抜けていると実感させられる。

2. Spotlight Kid スポットライト・キッド
 
リッチーのトリッキーなギターで始まる後期流疾走曲。この曲のリフは一聴するとあまり難しいようには聴こえないが、実際に弾いてみるとかなりの難しさだ。6弦7フレットの音を正確に刻むのが難しく、この辺がいかにもリッチーらしいところだ。イントロから弾きまくっているリッチーは、終始素晴らしいプレイを披露している。リッチーは、なんとなく歌中のバッキングをサボるというイメージがあるのだが、この曲では見事なバッキングだ。コードとしてはカンタンなのだが、ブラッシングを多用し、複雑でトリッキーなピッキングをしている。コピーしてバッチリ決まっていたらカッコイイだろう。ソロは、前半が開放弦を使っていかにもリッチーというカンジに弾いている。そして少し荒っぽいところが、疾走感をより強くしているような気がする。荒さまでを曲の表現として使える彼は素晴らしい。
 中盤ではネックを一気に駆け上がるフレーズから、いきなりボトルネック奏法になる。その後、つなぎのフレーズからあのロシアン(?)風のソロでキメる。私はこの曲のソロはリッチーの弾いたソロの中で、個人的に5本の指に入るほどすごいと思う。是非聴いてもらいたい。そして他のパートはというと、やはり目立つのはロンディネリのドラムだろう。パワフルなツーバス連打はコージーのことを意識したのでは・・・と思わせる。スタジオではそこまで重たいドラミングではないのだが、ライヴになるとやたらにヘヴィで実にカッコよかったりする。これはチャック・バーギでは出来ないだろう。そしてやっぱりさりげなく良いフレーズをちょこちょこと入れてくるドンのセンス。サウンドメイクにおいても、フレージングにおいても、素晴らしいとしか言いようがない。キーボード・ソロはなんとなく宇宙的で、ちょっと攻撃的でもある。ロンディネリの音を消そうとしたのでは・・・。そして、どう聴いても鼻声のジョー(笑)、歌詞はおそらく自分のことを書いたのではないか。鼻声とは言っても、あのヴィブラートはバッチリ決まっているので安心(?)だ。これは私の推測だが、この曲はレコーディングに入って最初の頃に、「キャント・ハプン・ヒア」と一緒に録音されたのではないだろうか。「アイ・サレンダー」や「マジック」「ノー・リリース」は、カゼが治ってきた後半か!? どうもアルバム中で声質が安定していない。

3. No Release ノー・リリース
 
怪しげな雰囲気から始まる曲。このリフは中毒性があるような気がする。聴いてから少したつと、頭の中をグルグル回っていて、また聴きたくなることが私にはしょっちゅうある。リッチーは捨て曲と言っていたが、私的にはそこまで悪い曲だとは思わない。ギターソロも気合いが入っていて素晴らしい。特に後半の早くなるところでのソロはカッコイイではないか、捨て曲だなんてとんでもない。そしてなぜか前半、力み気味のジョー(笑)。この曲は歌メロがつけにくかったのだろうか。だが、そのシンプルさが意外と良かったりする。サビの部分で曲名を何回も言うところはいかにもジョーらしいし、ブレイクが入ってもかなり単純なのもジョーらしい。このような緊張感の少し解けた曲がたまにあるからこそ、このアルバムは良いと思えるのではないだろうか。

4. Magic マジック
 
リッチー通の人がこの曲を聴いたら「おいおい」と言うだろう。彼の全キャリアの中でもかなりの異色作。レインボーというバンドでなかったら、かなりの名曲になっていたかもしれない。とてもポップで、ちょっとマイナーなメロディなので、ジャーニーなどが演奏してもおかしくない曲だ。私はポップさを全く嫌わないので、この曲はかなり好きだ。サビのメロディも素晴らしいし、ジョーの歌も申し分ない。そしてリッチーらしからぬプレイだが、ギターソロもかなり素晴らしい完成度だ。そして、ドンのセンス溢れるキーボードが、そのメロディをさらに良くしている。この曲はドンとジョーのポップセンスからできた曲だろう。是非聴いて欲しい曲の1つでもある。

5. Vielleicht Das Nachste Mal(Maybe Next Time) メイビー・ネクスト・タイム
 
この曲は開始5秒で10人中8〜9人をノックアウトできるほどの名曲だ。ギターが泣いている。楽譜を見るとボトルネック奏法でのプレイなのだが、音がとてもキレイ。よくここまでノイズを抑えることが可能だなと、リッチーのボトルネック奏法の素晴らしさを改めて実感した曲でもある。フレージングは本当に美しいフレーズの連発だ。そして終盤に「あらら・・・手癖かい?」と思うようなアップテンポなフレーズが入るところもリッチーらしいではないか。この曲ではリッチー以外はバックに徹している。私はなんとなく、この曲でこのアルバムの第一部が終わるのでは?と思っている。このアルバムが2部構成のような気がするからだ。

6. Can't Happen Here キャント・ハプン・ヒア
 
リッチーお得意のリフ・パターンの曲。そしてなんといっても歌メロがカッコイイ!私的には、「やっぱりこういう曲では、ジョーに勝るものなしだな」と勝手に思っている。サビの歌メロのつけかたは、パープルを意識したのではないのだろうか。パープルはこういう曲がよくあるような気がする(レディ・ダブル・ディーラー等)。ライヴでも定番の曲で、ライヴではイントロでジョーがシャウトをかましてから曲に入ることがほとんどだ。非常にライヴ映えする曲で、バッキングでのリッチー、ロジャーの暴れっぷりは、他の曲ではあまり見ることがないだろう。ギターソロの完成度もかなり高く、起承転結がしっかりとした良いソロだ。ところが、ライヴではスライドだったりするところが、リッチーらしいといえばリッチーらしい。

7. Freedom Fighter フリーダム・ファイター
 
何かリズムが独特な曲。このアルバムの中ではかなりヘンな曲だろう。歌メロはまぁまぁのデキだが、サビはカッコイイ。このサビのメロディラインもなかなか中毒性がある。このようにインパクトがあるメロディを作るのが、ジョーのすごいところである。サビの前のクラシカルなキーボードも印象的だ。転調したあとのギター・ソロは、かなり気合いが入っている。とても弾きづらそうなリズムなのに・・・このリズムは一体・・・。しかし、変わったリズムだなぁ。。。

8. Midtown Tunnel Vision ミッドタウン・トンネル・ヴィジョン
 
いかにもジミヘーンというカンジの曲。ギターサウンドまでもジミヘンっぽいのは気のせいか。雰囲気がちょっとパープル・ヘイズっぽい。ジミヘンからの影響が大きいだけあって、この手の曲でのリッチーはやはりすごい。スタジオで勢いのある良いソロを弾いているため、もしライヴでこの曲をやったら、もっと長いソロになって弾きまくっているリッチーの姿が目に浮かぶ。 ところで私はちょっとこの曲の題名に疑問がある。意味がどうこうではなくて、非常に言いづらいではないか。どうせ曲名をサビに入れるなら言いやすい題名がいいと思うのだが・・・そして、ちょっとメロディも弱い気がする。このような曲は難しいのかな。

9. Difficult To Cure(Beethoven's Ninth) 治療不可
 
誰もが知っているベートーヴェンの第九のフレーズを用いたクラシカルな曲だ。イントロでものすごい緊張感を出せるリッチーはすごい。私なんぞがやっても全然緊張感がでない(笑)。曲の前半から半ばにかけては、かなりハードなシャッフルのリズムで進んでいくのだが、後半のドンのソロは少しファンキーだ。リッチーのバッキングは、ほぼボトルネック奏法で弾かれており、先の「メイビー・ネクスト・タイム」と合わせて素晴らしいボトルネック奏法を聴かせてくれる。また、2コーラス目に入ると、本当は3弦上から4弦上までポジションを大きく動かして弾かなければならない音がメインのフレーズに出てくるのだが、そこは面倒なのか、開放弦をバーンと鳴らして飛ばしてしまうのもリッチーらしい。ギターソロは作曲されたものではないと思うが、このアルバム中トップクラスの完成度を持っている。途中に出てくるキメのフレーズは非常にカッコよく、私もギターを持つとついつい弾いてしまう(笑)。キメのフレーズからブレイクをはさむとドンのソロ。これがドンのラストプレイになってしまうのだが、これは本当に素晴らしい。展開からフレーズまでもが非常に美しく、とてもメロディアスである。このソロは、マイケル・シェンカー(UFO時代)のロック・ボトムのようなもので、この曲にはこれ以外のソロは当てはまらないと思うほどだ。ドンもライヴではほとんど完全コピーをしている。リッチーとドンのソロ合戦が終わると、またメインのフレーズに戻る。そして最後にユニゾンで駆け上がるようなフレーズから最後を迎える。レインボー・シンフォニーはここで幕を閉じるのだ。そして最後には謎の笑い声が・・・


(RICK) 2004.12