Written by HINE

DOWN TO EARTH 1979年発売 Polydoor/Universal
ダウン・トゥ・アース/レインボー

Graham bonnet(vo), Ritchie Blackmore(g), Don Airey(Key), Roger Glover(b), Cozy Powell(ds)

Produced By Roger Glover

 リッチーと組んだヴォーカリストたちは、ディープ・パープル時代から、ロッド・エヴァンス、イアン・ギラン、デイヴィッド・カヴァーデイル、ロニー・ジェイムス・ディオと、素晴らしい声の持ち主ばかりだが、皆それぞれはっきりとした個性があり、独自のオーラを放つ人たちばかりであった。それ故、後釜となるヴォーカリストが同じタイプでは、どうしても比較され、こき下ろされる可能性が高い。そこでリッチーは、いつもまったく違ったタイプを後釜に据えてきたのではないだろうか。
 特に歴代ヴォーカリストの中でも、リッチーが最も気に入っていたと思われるロニーの後釜ともなると、相当違う個性が必要であったのだと推測できる。またレインボーは、もともとロニーという名ヴォーカリストを起用したいがためにリッチーが結成したバンドと言っても過言ではない。それまでほとんど無名であったロニーにしても、すっかり「レインボーの声」としてのイメージが定着していた。これを突き崩すのは並大抵のことではなく、今でもロニー=(イコール)レインボーというイメージを抱く方はたくさんいることだろう。
 しかし、レインボーは=(イコール)ロニーではない。グラハムの声もレインボーであり、ジョーの声もレインボーだと思えるはずだ。それはこのアルバム「ダウン・トゥ・アース」のサウンドとグラハムの強烈な声によって、今までのレインボーのイメージが完全に打ち砕かれたからに他ならない。もし、グラハムがいなかったなら、ジョーはもっともっとロニーの亡霊に苦しめられていただろうし、酷評も受けていたことだろう。
 唐突だが、個人的にはロジャー・グローバーのプロデュース能力については、今も昔もほとんど評価していない。ディープ・パープル2期のスタジオ・レコーディングでも、ロリー・ギャラガー、ナザレス、ストラップス、MSGなどのものでも、音がペラペラで深みがない。言い換えればストレートでシンプルなサウンドということにもなるが、特にドラムの音に迫力がなく、このアルバムにおいても、偉大なる名ドラマー、コージー様が存在をも忘れてしまうくらい影が薄くなってしまっている。だが、何故リッチーがいつもプロデュースをロジャーに任せるのかを考えた場合、リッチーはあまりプロデュースに感心がないか、もしくは、下手にあれこれ口出しされるよりは、黙って自分の言うことを聞いてくれるタイプの方が良いと思っているのかもしれない。おそらく後者が当たらずとも遠からずといったところか!?
 アメリカ市場を狙ったと言われる本作「ダウン・トゥ・アース」の内容全体は、一聴して分かるほど、今までになくポップでストレートなサウンドに変化している。とにかくグラハムの、ハスキーというよりはダミ声に近い独特のヴォーカルに圧倒され、最初はまったく違うバンドを聞いているような印象だった。実は「バビロンの城門」の頃からアメリカ市場を視野に入れていたと言われているが、リッチーの考えた「アメリカの音」というのが、この時点でもまだ、この程度のものだったのだろう。先にも触れたロジャーのプロデュースも、しゃがれ声の割に粘りがなく乾いたグラハムの声も、確かにストレートさを出すためには有効だったかもしれないが、アメリカ市場もさすがにそれほど単純ではない。特にこの時期のアメリカでは、カンサスボストンスティクスジャーニーなどが次々と大ヒットを連発していたことでも分かるように、少々複雑な曲構成(プログレ的要素)やAOR的センスも要求されていたのだ。そういったサウンドは、後日ジョー・リン・ターナーという逸材を得ることによって完成するわけだが、このグラハム期ではまだ発展途上といった印象は否めない。
 ここまで悲観的なことばかり言っているので、このアルバムの内容は悪いのではないかと誤解を受けそうだが、実際はそんなことはない。個人的には、このアルバムはかなり好きで、「不完全な魅力」とでも言えばよいのだろうか、中堅ロック好きの者としては、こういった初期アメリカン・ハード的なサウンドや超個性的なヴォーカル・スタイルにたまらない魅力を感じるのだ。得てして熱心なハードロック・ファンとはそういったもので、他にもこのアルバムの隠れたファンは意外と多いのではなかろうか!?

<炎のヴォーカリスト グラハム・ボネット>
 およそハードロッカーには見えない外見を持つグラハムだが、もともとはポップス系のヴォーカリストとして、60年代から活動していたイギリスのベテラン・ミュージシャンだ。1968年ビージーズのギブス兄弟のいとこの紹介で、マーブルスというバンドへ加入した頃から頭角を現す。同年にはマーブルスで放ったシングル「オンリー・ワン・ウーマン」がベスト5に入るヒットを記録したこともある。その後、ソロへ転向したあと、サザン・コンフォートというフォーク・ロック・グループへ加入するがすぐに脱退。一時は低迷し、ミュージシャン活動を休止していたという。
 77年突如として元キング・クリムゾンのマイケル・ジャイルズ(ds)や、元ホワイトスネイクのミッキー・ムーディ(g)、ジェフ・ベックとの仕事などで有名なトニー・ハイマス(key)らをゲストにしたアルバム「スーパー・ニヒリズム」をリンゴ・スター所有のレーベルRing Oからリリースし、ソロ復帰。79年マーブルス時代のグラハムを覚えていたリッチーからの誘いがあり、レインボーへ加入することとなる。
 グラハムは、3オクターブの声域を持つ実力派で、強烈なハスキーヴォイスによるシャウトと、深いビブラートを使わないストレートな歌唱法が特徴だ。彼は自らを「もともと僕はスティーヴィー・ワンダーやビーチ・ボーイズ風の声質なんだ」と語るように、普通に唄えば、それこそAORのスローバラードまで唄いこなせる巧いヴォーカリストに違いない(実際にそういった曲を歌っているのを聞いたことはないが)。レインボーでは、あえてダーティーに唄うことを強要されていたらしく、それが脱退の原因にもつながってしまったようだ。そういった事から考えても、彼のこの強烈なシャウトは常に無理をして出しているのだと思われる。だが、一度付いてしまったイメージは、そう簡単に拭いきれるものではない。以降周囲からは「レインボーでのグラハムの声」を期待されるので、止めるに止められない。現に自分も彼の「あのシャウト」が聞きたくて、MSGアルカトラス、インペリテリと、次々に彼の参加したアルバムを購入している。
 ノドへの負担は相当なものだろう。それでも尚、今も気合いでシャウトし続ける彼の姿には敬服する他ない。今は声以上に彼の生き様自体がロックンローラーなのだ。グラハムには、いつまでも燃え続ける魂のロックンローラーでいて欲しい。

1. All Night Long オール・ナイト・ロング

 まずこの1曲目のイントロでの「ウォウウ〜ウォウウ〜ウォ〜♪」という雄叫びを聞いただけで、度肝を抜かされる。何という声なんだ!もはやレインボー歴代最高の腕前と囁かれる新加入ドン・エイリーのキーボードも、ロック界最強ドラマー・コージーの音も、リッチーのギターさえも聞こえない。最初は聞き慣れない声に、「なんだこりゃ」と違和感を覚えるリスナーも多いことだろう。だが、一度聞くと忘れられないその独特の声は、一度覚えると止められない麻薬のように、あなたの中枢神経をすでに冒しているかもしれない。
 アップテンポでメロディーもキャッチーで覚えやすい、トップへ持って来るにはピッタリの曲。

2. Eyes Of The World アイズ・オブ・ザ・ワールド

 この曲でのスライド・ギターも交えた長いギターソロで、やっとリッチーの存在が確認できる。コージーも頑張っちゃいるのだが、プロデュースのまずさによりほとんど目立たないのがかわいそうだ。グラハムはミディアム・テンポのこの曲でも快調にシャウトしまくる。

3. No Time To Lose ノー・タイム・ルーズ

 グラハムが最も得意とするストレートなロックンロール・タイプの曲。それまでのレインボーにはみられなかったバックコーラスがめずらしい。ピアノを使ったドン・エイリーの演奏もなかなか決まっていて、彼の器用さが表れている。

4. Makin' Love メイキン・ラヴ

 一転して、じっくり聞かせる少しスローでおとなしめのナンバー。普通に唄うかと思いきや、ここでもグラハムはシャウトだ!目立たないが、よく聞くと、コージーの巧みなドラムさばきも堪能できる。

5. Since You Been Gone シンス・ユー・ビーン・ゴーン

 これが賛否両論を巻き起こした一番問題のポップ・ナンバーであり、全英4位を記録した大ヒット曲でもある。アルバム中唯一のカヴァー・ソングで、原曲は英シンガー・ソング・ライターのRuss Ballardが76年に発表したセカンド・アルバム収録の曲。アメリカを意識したつもりが、イギリスで大ヒットとは皮肉なものだ。リッチーも苦笑いしていたに違いない。

6. Love's No Friend ラヴズ・ノー・フレンド

 リッチー流ブルース・ナンバーとでもいうような重苦しいタイプの曲だが、どうもこのプロデュースでは軽く聞こえる。しかし、リッチーのギターは久しぶりに彼らしいソロを聞かせてくれて嬉しい。

7. Danger Zone デインジャー・ゾーン

 出だしは一瞬「スティル・アイム・サッド」にも似ているが、意外な展開をみせ、曲の中間部から強引にリッチー得意の中世ヨーロッパ風(アラビア風?)フレーズへ持って行く。

8. Lost In Hollywood ロスト・イン・ハリウッド

 
このアルバム中、最も今までのレインボー・サウンドに近い曲。なんだかんだ言っても、やっぱりこういう曲調が安心する。もう最後の曲だというのに、ここではじめてイントロからコージーのパワフル・ドラミングが炸裂し、やっとリッチー、コージー、グラハムの3者が全身全霊腕で競い合うような緊張感が生まれている。メロディやギターリフも良く、この曲が収録されているがために、このアルバムはオールド・ファンからもある程度の支持を受けることができたのだろうと想像できる。

(HINE) 2004.12