MARILLION マリリオン


詩人Fishとネオ・プログレッシブの旗手たち

70年代前半に全盛を極めたプログレッシヴ・ロックは、70年代も後半にさしかかると大物バンドであるキング・クリムゾンEL&Pの解体やイエスジェネシスからの看板プレイヤー脱退によって急激に衰退していった。
唯一頑張っていたのは、独自路線を突き進むピンク・フロイドぐらいなもので、その勢いの下降ぶりはハードロック以上だった。
もう1つプログレが衰退した理由に、“ポップ化”というキーワードもあげられる。
80年代になると、プログレ界のみならず、すべてのロックがポップ化し、コンパクトな曲でシングル・ヒットを狙うような路線へ変更していった。好きな呼び方ではないが、いわゆる“産業ロック”化というやつだ。
そういった流れの中で、ハードロックはうまく歩調を合わせ、ジャーニーTOTOヴァンヘイレンのようにシングル・ヒットを連発しながらアルバムでも大成功し、驚異的なセールスを記録するバンドがたくさん出現したが、プログレ界では一部キャラヴァンのような例外はあるものの、たいていの場合は1発屋(スーパートランプやイエスなど)に成り下がるか、うまく馴染めず方向性を見失い(ルネッサンスキャメルなど)、迷走してしまうという厳しい状況に追い込まれていった(スーパートランプのロジャー・ホジソン(vo)はイエスに入る予定もあったというから、この二つのバンドは同じ方向へ向かっていたのかも知れない)。
それらのサウンドは聞いていても、何か不自然で苦しいものがあり、往年のファンにとっては聞くに堪えないものであったのだろう。カリスマ性が薄れ、どんどん人気は下降していった。ビッグ・ヒットを放った代償はあまりにも大きかったのだ。
そういった意味では、まだエイジアフォリナーのような完全なポップ・ロック・バンドになってしまった方が、いさぎよく好感も持てた。
このようなプログレ不毛状態の中、突如70年代黄金期のサウンドをひっさげ登場したイギリスの異色バンドがマリリオンだった。
特にデビュー当時は、全盛期のジェネシスにも似た戯曲的な曲で、往年のプログレ・ファンを魅了。加えてハードにディストーション(歪ませる)を効かせたギターが、HM/HRファンからの支持も集めた。
また、ヴォーカルのフィッシュの構想を忠実に再現したと言われるアルバム・ジャケットもオールド・ロック・ファン達の心をつかみ、昔のようにアルバムを所有することの喜びを与えてくれた。(左のジャケットは中でもよくできているファーストのもの)
自分などもその1人で、まず初期3枚のジャケットを気に入り、サウンドを聞かないうちから、すでにファンになっていたようなものである(実際、ちゃんと聞き始めたのは最近のこと)。

1978年イギリスのエールズベリーで結成されたSilmarillionが彼らの母胎となる。
80年には、そのメンバーであった
Doug Irvineダグ・アーバイン(b/vo)とMick Pointerミック・ポインター(ds)にSteve Rotheryスティーヴ・ロザリー(g)、Brian Jellimanブライアン・ジェリマン(key)が加わってマリリオンを名のるようになる。
その後アーバインが脱退すると、ヴォーカリストに
Fishフィッシュ、ベーシストにDiz Minnettディズ・ミネットを迎え、82年にシングル「Market Square Heroes」でレコード・デビューする。
しかし直後にまたメンバー交代があり、キーボードが
Mark Kellyマーク・ケリー、ベースがPete Trewavasピート・トレワヴァスになっている。このメンバーで83年ファースト・アルバム「独り芝居の道化師」(Script For A Jester's Tear)をリリースした。
アルバム・デビュー時のメンバーを整理しておくと、
Fish(Drek Dick) フィッシュ(本名デレク・ディック)/ヴォーカル
Steve Rothery スティーヴ・ロザリー/ギター
Mick Pointer ミック・ポインター/ドラムス
Mark Kelly マーク・ケリー/キーボード
Pete Trewavas ピート・トレワヴァス/ベース・ギター
という顔ぶれだ。
このデビュー・アルバムは、ピーター・ガブリエル(vo)在籍時のジェネシス・サウンドを彷彿とさせる完成度の高いもので、ヨーロッパではかなり話題になるとともに、その類似性に賛否両論がわき起こった。しかし、大方は好意的に受け取られ、プログレ・ファンから熱狂的な支持を集めていくようになる。
このマリリオンの成功によって、にわかに同じ頃デビューしたプログレ系のバンドも注目されはじめ、それらを総称してネオ・プログレッシヴと呼ぶようになっていった。
ちなみにマリリオンのメンバー達は70年代回帰をやっているつもりはなく、最近ではネオ・プログレッシヴと呼ばれることを嫌っている。プログレのニューウェイヴまたは、プログレから派生してたどりついた新しいロックという意味で「ポンプ・ロック」という呼び方のほうが、今では相応しいだろう。
84年になるとオリジナル・メンバーであったドラムのミック・ポインターが抜け、ウルフ、トレースなどのバンドを転々としていたベテラン・ドラマー
Ian Mosleyイアン・モズレーに代わった。そして、この年少しハード・ロック寄りのセカンド・スタジオ・アルバム「破滅の形容詞」(Fugazi)も発表する。折しもイギリスではヘヴィメタ・ブームが盛り上がっていた頃、このハードさは時代をとらえたものとなり、ますます彼らの人気は一般へも拡がってゆくのだった。
同年、イギリスとカナダでのツアーを収めたライブ・アルバム「リアル・トゥ・リール」も発表。もともとライブでの演奏も定評があったが、このライブ・アルバムでの演奏も、噂に違わぬすばらしい内容であった。
そして、極めつけは85年発表のサードアルバム「過ち色の記憶」(Misplaaced Childhood)だ。フィッシュの少年時代の経験を反映したコンセプト・アルバムということだが、それだけにフィッシュ独特の語り口調ヴォーカルが冴え渡る。自分など英語が分からない人達にも充分説得力を感じさせる唄、演奏、曲構成、どれをとってもすばらしい。
また、このアルバムからのシングル「追憶のケイリー」は全英2位(一部のチャートでは1位)の大ヒットとなり、彼らはヨーロッパでの人気を不動のものとした。それとともにアメリカでもこのアルバムは評判を呼び 、全米47位まであがるヒットを記録した。
早くも大物の貫禄か!?次のアルバム「旅路の果て」は2年のインターバルをおいた後リリース。酒とドラッグをテーマにしたということで、かなりダークな雰囲気に戸惑いを覚えたが、サウンド的にはモダンな方向性も試みられた意欲作だった。
順調に見えたマリリオンに転換期が訪れたのは、この後88年のこと。フィッシュが突然脱退を表明し、この年発表するライブ・アルバムを最後にソロへ転向するのだった。
以降マリリオンお得意のイラスト・ジャケットはフィッシュのソロ・アルバムの方へと引き継がれていった。
(左は89年発表のフィッシュ名義のファースト)

ポンプ・ロックと呼ぶに相応しいホガース&マリリオンのカメレオン・サウンド

看板ヴォーカリスト、フィッシュの脱退により、解散が危ぶまれたマリリオンであったが、89年には新しいヴォーカリスト、Steve Hogarthスティーブ・ホガースを迎えて再スタートを切った。
ホガースはほとんど無名であったが、新しいスタイルのマリリオンにうまくはまり、フィッシュとはまたひと味違った魅力を発揮した。フィッシュが「詩人」と呼ばれたのに対し、ホガースはあくまでシンガーとして各曲を丹念に唄い込んでいった。詩をJohn Helmerに依頼したのもホガースをヴォーカルに専念させるための配慮だろう。
ホガースが入って初めてのアルバム「美しき季節の終焉」では、ジャケットもCGを駆使したモダンなものに変えイメージ一新を図ったが、サウンド的にはフィッシュ時代末期の変化をさらに押し進めたものであった。
このアルバム、内容的には良かったものの周囲の反応は厳しく、セールス的にもまったくふるわなかった。そこで、彼らはサウンド自体もまったく新しくする必要に迫られたのだ。
91年、つづく新生マリリオン2作目のアルバム「楽園への憧憬」では、ホガースを中心にじっくりと時間をかけて制作され、ホガースが以前在籍していたバンドのレパートリーも加えるなど、ポップでキャッチーな面が強調された分かりやすいサウンドに変化していた。
狙い通り、このアルバムからは「Cover My Eyes」「No One Can」「Dry Land」とシングル・ヒットを連発。少しU2に似ている曲があるような気もするが、個人的にもかなり聞きやすいと思うアルバムだ。
これで再び息を吹き返した感のあるマリリオンだが、次なる作品ではまたもやイメージを一新。周囲をアッと言わせるコンセプト・アルバムで、ホガースの才能が一気に開花する。この94年リリースの「ブレイブ」では、記憶喪失になった少女が橋で発見されるというニュースを聞いたホガースが、それをヒントに空想を広げて作り上げたものだという。非常にダークでリアリティのある、新しいプログレの形態を生み出した。これこそプログレのニュー・ウェイヴと呼ぶにふさわしい出来映えだ。当初このアルバムは、あまり期待されていなかったため、プレス枚数も控えめだったが、あまりの好評ぶりにあっという間に在庫がなくなり、一時は品薄状態でプレミアムがついたほどらしい。
翌年、この路線でもう1枚「アフレイド・オブ・サンライト」というコンセプト・アルバムを出すが、これも内容は悪くないものの前作ほど話題にはならなかった。
この後、EMIとの契約切れでポニー・キャニオンへ移籍。2枚のアルバムをリリースするが、アコースティックになったり、オルタナティブ・サウンドになったりと、めまぐるしくサウンドを変え、コアなファン以外ついて来れないような状態に陥ってきた。
一方、96年にはギターのロザリーが別プロジェクトでウィッシング・トゥリーというバンドを結成。「カーニバル・オブ・ソウルズ」というアルバムを1枚だけリリースしている。このプロジェクト・バンドは、紅一点ハンナ・ストバートのヴォーカルが不思議な魅力を醸し出し、なかなか人気があったが、それ以降の活動記録は無い。つづいて、98年ホガースもソロ・アルバム「Ice Cream Genius」をリリースした。(右写真はThe Wishing Tree/Carnival Of Souls)
こんな状況で、ついには契約する会社もなくなり、99年には自主制作でアルバム「Marillion.com」を制作することになる。だがこれもパッとせず、資金も底をついて、ファン・クラブからお金を募りやっと2001年にニュー・アルバム「Anoraknophobia
を完成させた。しかし、このアルバムは古巣EMIから発売されることが決まり、一筋の光明が見えてきたところだ。
最新作では2001年にファン・クラブ・リリースの4曲入りCDS「Between You And Me」がある。ぜひ今後の奮起に期待したいものだ。
(HINE) 
2004.5

資料&音源提供協力:「FUMI-TAN'S WEB SITE」Fumi_tanさん
音源提供協力:オーマン氏



Script For A Jester's Tear
EMI/東芝EMI

Fugazi
EMI/東芝EMI

Misplaaced Childhood
EMI/東芝EMI

Clutching At Straws
EMI/東芝EMI

The Thieving Magpie〜La Gazza Ladra
EMI/東芝EMI

B'Sides Themselves
EMI Records

Seasons End
EMI/東芝EMI

ディスコグラフィー

1983年 Script For A Jester's Tear(独り芝居の道化師)*ファーストにして既にかなりの完成度をもった純プログレ・アルバム
1984年 Fugazi(破滅の形容詞)
*サウンドが少しハードになったが、基本的には同路線。ドラムがイアン・モズレーに交代
1984年 Real To Reel(リアル・トゥ・リール)
*84年のイギリスとカナダでのライヴ。
1985年 Misplaaced Childhood(過ち色の記憶)
*FISH時代の最高傑作。コンセプト・アルバムでありながら「追憶のケイリー」が全英2位の大ヒット
1987年 Clutching At Straws(旅路の果て)
*FISH在籍最後の作品。コンパクトな曲で構成されたコンセプト・アルバム
1988年 The Thieving Magpie〜La Gazza Ladra(伝説への序章)
*2枚組のライブ盤。以前からライブでは定評があっが、その評判に違わぬ内容
1988年 B'Sides Themselves *再発のボーナス・トラックにも入っていないシングルB面集。ニュー・アルバムといっても通用するぐらいのクオリティーだ
1989年 Seasons End(美しき季節の終焉)
*新ヴォーカリストにほとんど無名のスティーヴ・ホガースを迎えて初のアルバム
1991年 Holidays In Eden(楽園への憧憬)
*ホガースのマリリオン加入前の曲なども入れた異色のポップ・アルバムだが、なかなか名曲揃い
1994年 Brave(ブレイヴ)
*ホガース時代の最高傑作といわれる、実際に起こった事件をもとに脚色を加えたコンセプト・アルバム
1995年 Afraid Of Sunlight(アフレイド・オブ・サンライト)
*ポップなコンセプト・アルバムだが、内容が難解すぎてあまり受け入れられなかった
1997年 This Strange Engine(ディス・ストレンジ・エンジン 〜遠い記憶に)
*EMIと契約切で自主制作を強いられた作品
1998年 Radiation(レイディエーション)
*自主制作第2弾。ホガース加入直後の原点に還ったようなサウンド。かなり聞きやすい。
1999年 Marillion.com 

2001年 Anoraknophobia 
*ファン・クラブから援助を受けて制作され、販売はEMIに復帰した
2001年 Between You And Me *ファン・クラブからリリースした4曲入りCDS。1曲はライヴらしい
2004年 Marbles *彼ら初のスタジオ2枚組CDだが、北米とヨーロッパ盤には1枚に編集されたアルバムも存在するようだ



Holidays In Eden
EMI/東芝EMI

Brave
EMI/東芝EMI

Afraid Of Sunlight
EMI/東芝EMI

This Strange Engine
Castle/Pony Canyon

Radiation
Velvel/Pony Canyon

Marillion.Com
Sanctuary/Never

Anoraknophobia
Liberty/EMI