鮮烈なるデビュー!第一期ヴァン・ヘイレン!
マイナーレーベルからの契約話をことごとく断り、ヴァン・ヘイレンは1978年にようやくワーナーからデビューを果たした。彼ら最大の武器は、エドワード・ヴァン・ヘイレン(以下エディ)のライト・ハンド奏法と呼ばれる、左手トリルと右手によるハマリング・オン、プリング・オフを繰り返すという技である。今でこそ多くのギタリストが当たり前のように、このライト・ハンド奏法を使用しているが、当時のギター・テクとしては革命的なものであった。
「炎の導火線」と題された1st.アルバムでデビューしたギターの革命児ことエディは、「弾きすぎ」と言われるほどこのアルバムで活躍し、そのテクニックを広く世に知らしめた。このアルバムのギター・サウンドは今の本人を持ってしても超えられない、非常にクォリティの高いアルバムである。しかし、このクォリティの高さを生み出しているのは、彼だけの力によるものではない。初代ヴォーカリスト、デイヴィッド・リー・ロス(以下デイヴ)、ベーシストのマイケル・アンソニー(以下マイキー)、ドラムスのアレックス・ヴァン・ヘイレン(以下アル)の貢献もあったからこそである。
デイヴの、ちょっと力を抜いた歌い回しでシャウトを多様する独特の歌唱法。マイキーのバックに徹したベースと重厚なコーラス。アルのシンバルを多用した地味ながらも攻撃的なドラム。この4つが合わさり、お互いを刺激し合ったことで名盤といわれるほどのクォリティになったのである。全米9位というセールスを記録したこのアルバムを携えて、彼らはいきなりツアーに出て、初来日も果たしている。
翌年、非常に短い期間で制作された2nd.アルバム「伝説の爆撃機」。1st.の勢いをそのままに制作されたようなこのアルバムは、全米6位を記録。1st.の陰に隠れがちなこのアルバムだが、実は非常に良い曲ばかりで、実にカッコイイ! かなりマイキーがコーラスでも活躍していて、ハーモニーも実にキレイ。メンバー全員がかなりフリー に演奏しているような雰囲気がある。
翌年リリースの3rd.アルバム「暗黒の掟」(しかしヴァン・ヘイレンの邦題にはロクなモノがない)は、とてもヘヴィな曲がそろっていて地味な印象がある。私は唯一このアルバムが好きではない。しかし、ライヴ映えする曲もあり、当時のライヴでは相当盛り上がったらしい。そして、この頃のライヴからアルのドラ ミングが狂い始める。しかし、マイキーが必死に首を振ってリズムを戻そうとしている姿は涙モノだ。彼こそヴァン・ヘイレン陰の最大功労者であろう。
さらに翌年、エディ・フリークならたまらないであろう4th.アルバム「戒厳令」を発表する。このアルバムでは終始エディが主役で、1曲目のミーン・ストリートから新テク「スラッピング」等で大活躍! もうこれも名盤としか言いようがない出来だ。ちなみに全米5位を記録。
エディが4th.で活躍しすぎたため、デイヴのテンションが下がり気味になっていた4th.から一転、5th.「ダイヴァー・ダウン」では、デイヴ節炸裂! もはや彼の趣味としか言いようのないようなカヴァーソングも入っており、実に面白い作品である。また、ライヴでこのアルバムの曲を演奏しているときは、何故かみんなかなりハイテンションである。エディに関しては、曲が始まってから終わるまでステージを走ったりスライディングしたりでもうハチャメチャ。それでもきちんと演奏しているからスゴイ。
さて、前々から少しづつ見え隠れしていた「ポップ化」が、次のアルバムで一気に姿をあらわす。6th.アルバム「1984」のリリースだ。かつてない楽曲のキャッチーさで全米2位を獲得! まさに捨て曲なしの名曲ぞろい。各メンバーがちょうど良いバランスで活躍している。このアルバムといえば、やはり超名曲「ジャンプ」だが、この曲のせいでデイヴが脱退することになってしまう。エディがあまりに素晴らしいギタリストだったために「オレはお前がキーボードを弾く姿なんてみたくない!」と発言し、バンドを去っていった。
エディVSサミー!第二期ヴァン・ヘイレン
「ヴァン・ヘイレンといえばデイヴ」という人がほとんどだと思う。しかし、私はサミー・ヘイガー(以下サミー)が加入してからのヴァン・ヘイレンこそ真の「ハード・ロック・バンド」だと思う。それはなぜかというと、デイヴは確かにパフォーマンスもすごいし、人気も爆発的に高いが、音楽的にバンド内でバトルを繰り広げられるほど、デイヴの歌唱力はすごいものかな?と疑問に思うからだ。確かに彼の歌唱法は独特で素晴らしいとは思う。サミーでは「アイム・ザ・ワン」や「ホット・フォー・ザ・ティーチャー」を歌いこなすことは無理だと思うし、ヘタと言われているが実際はヘタじゃないだろう。だが、サミーはデイヴ以上に素晴らしい歌唱力を持っている。エディのギターと対等に渡り合えるほどのボーカリストであることは間違いない。
そのサミーが加入してからの最初のアルバムが「5150」である。意味はロス警察の暗号で「犯罪を犯しそうな狂人」、たしかにヤバイくらいのパワーを秘めたアルバムである。サミーの「Hello!Baby!!」という強力なシャウトから始まるこの作品は全米1位を獲得!だが、このアルバムは賛否両論で、「ポップ過ぎる」との声が多い。しかし、このポップさこそが本当のヴァン・ヘイレンだと私は思う。その理由・・・それはサミーの音域に関係している。私は第一期のヴァン・ヘイレンはデイヴの音域があまり広くないために、エディが本気で作曲できていなかったと思っている。証拠に、第一期はカヴァーが多い。それもデイヴの好きそうな曲で日ごろから彼が歌っていた曲だった。第二期はカヴァーは1曲だけ(両方ともライヴでは結構やっている)、これはサミーの圧倒的な歌唱力のおかげで、エディが思いっきり自由に作曲できているからだろう。まさにこのポップさこそがエディの本当にやりたかった音楽であり、本来のヴァン・ヘイレンなのだと私は思っている。
アルバム「5150」を聴くと、エディが笑顔でギターを弾きまくっている様子が頭に浮かんでくる。本当に楽しそうだ。このアルバムでのもうひとつの変化はキーボードの使用率だ。これはサミーがリード・ギターも弾けるほど器用な人間だったために出来たことである。そのおかげで出来た超名曲「ドリームス」、私の中ではヴァン・ヘイレン最高の曲! これこそ「バンド」という感じの曲で、全員が曲の中で闘っている感じがする。最初から最後まで聴き入ってしまうほど、完成度は高い。1秒たりとも聴き流す場所がない名演だ!是非聴いてほしい!
このアルバムのあと、「ライヴ・ウィズ・アウト・ア・ネット」がリリースされる。これは買わなきゃ損をするビデオ(最近DVDにもなった)なので、買ってみてはどうだろうか?最初から最後までテンションが高すぎ!意外とビックリするのがサミーのギターの上手さである。「ラヴ・ウォークス・イン」などはエディより良いソロを弾いている。このときのライヴは最高で、もうアルがリズムを崩すことはないし、むしろパワフルになってとても良い、サミーも安定したボーカルを聴かせている。ただ、1つ残念なことは、エディのインプロ的なソロがなく、スタジオ盤と全く同じようになってしまったことである。楽曲のクオリティを保つためには仕方がなかったのであろうが・・・。
1988年リリースの「OU812」、意味は「Oh! YOU Ate One Too?」「おお!お前もそれ食ったのか!?」で、これだけでは意味がわからないだろう。実はこれと同時期に、デイヴが「Eat'em And Smile」「笑顔(エディ)を食え!」というアルバムをリリースしていた。つまりデイヴに対しての返答(?)だったのである。一般的に地味な印象を持たれがちなアルバムだが、私は名作だと思う。このアルバムはヴァン・ヘイレンにしては珍しく全体的に落ち着いた感じがある。また、このアルバムには捨て曲がない。どれもいい曲で、私は特に「フィニッシュ・ホワット・ヤ・スターテッド」がお気に入りである。ライヴで盛り上がる曲が多く、「マイン・オール・マイン」「カボ・ワボ」「ホエン・イッツ・ラヴ」などはハイライトであろう。
この頃のライヴだが、サミーがもっとパワーアップしている感じがある。この頃の彼は本当に凄い・・・血管が切れそうになるようなキーを笑顔で歌うのだ。さすがは「ヴォイス・オブ・アメリカ」といったところか。
1991年リリースのアルバムFOR UNLAWFUL CARNAL KNOWLEDGE(頭文字をとると・・・?)
このアルバムは全曲シングルカットされてもいいような完成度で、当然全米1位獲得!このアルバムを持っていないならスグにでもCDショップへ走るべきだ!こんなことさえ言えてしまうほど、このアルバムはすごい。サミーは全編に渡って、ものすごいボーカルを聴かせてくれる。正直、最近の彼では、このアルバムの曲を歌いこなすことは難しいだろう。それほど全盛期の彼はすごいのだ。クリーンに伸びてとても聴きやすい声、まさにハード・ロックを歌うためにあるような声である。私的にだが、エディはこのアルバムの「ライト・ナウ」で、第二期ヴァン・ヘイレン最高のギター・ソロを披露していると思う。元々彼のソロは「起・承・転・結」がしっかりしているのだが、この展開は特に素晴らしい。それにこのソロには、彼の得意技のタッピングが用いられていないのだ。タッピングをしないことで、よりシンプルに、より斬新に聞こえる。さらに、曲にも見事にマッチしており、哀愁までも加えている。
そしてこのアルバム、影の功労者はマイキーである。とても完成度が高く、まとまっている感じのアルバム、これはマイキーの生み出すグルーヴのおかげであると言っても過言ではない。特に「パウンド・ケーキ」でのグルーヴは天下一品で、正確なリズムで音を刻み続けている。聴く機会があれば是非注目してほしい。そして、あまり知られていないが、この時期のライヴを収めたアルバム「RIGHT HERE RIGHT NOW」からは、5人目のメンバーとして、元モントローズ〜ナイト・レンジャーのキーボーディスト、アラン・フィッツジェラルドが参加している。このときがヴァン・ヘイレンの最盛期ではないだろうか。
1995年にリリースされたアルバム「BALANCE」、当然のように全米1位を獲得した。だが、このアルバム私的にはあまり好きではない。前半には良い曲がたくさん入っているのだが、後半少しだれるところがある。今までのアルバムは全編通して聴ける内容だったために残念だ。このように前半、後半のクオリティが違っているアルバムはヴァン・ヘイレンの中では珍しい。とは言え、後半の曲だって捨てたものではない。「フィーリン」のサミーの超高音ボーカル。「クロッシン・オーヴァー」は過去のテープから再録音した珍しい曲だ。そして「パルチテリウム」、これが一番の問題曲だと思う。インストゥルメンタル(ボーカル抜きの曲)はヴァン・ヘイレンでは珍しいことではないが、この曲はワケが違う。今までのインストは楽器のソロばかりだったために問題はなかった。だが、これはサミー抜きということだ。私はこの曲が後の脱退劇を生み出す一因だと思う。後半ばかり語ってしまったが、前半はというと、かなり素晴らしいデキだ。ダークな「セヴンズ・シール」、この曲はマイキーのグルーヴがすごい。キャッチーな「キャント・ストップ・ラヴィン・ユー」、エディのジャズ風なソロが聴ける「ビッグ・ファット・マネー」、超本格的バラード「ノット・イナフ」など名曲ぞろいだ。このアルバム、全曲通して言えることは、ボーカルのキーが異常に高いことだ。当時のライヴではサミーはかなり苦しそうで、おまけにこの頃太りだしたために、ますます声が出なかったのである。だが、買って損はしないアルバムだろう。当時のライヴはかなりボロボロで、エディも腰を怪我していたし、アルは首を痛めていたし、サミーは麻薬と酒と太りで声が出ていなかった。このときの「ドント・テル・ミー」や「キャント・ストップ・ラヴィン・ユー」はひどいデキだ。前のアルバムの時のライヴがあまりに凄まじかったので、このときのライヴは余計にひどく聴こえてしまう。1996年に映画「ツイスター」のサントラ盤からシングルカットされた「HUMANSBEING」、これが最大の問題作でこのシングルを最後にサミーは脱退。確かにボーカリストとして、これだけ声をいじられたのではたまったものではない。BALANCEの頃からだんだんと仲が悪くなっていたらしいが、ついに決裂、最強の第二期ヴァン・ヘイレンが終焉を迎えた。
揺れるヴァン・ヘイレン、デイヴの復帰、そしてゲイリーの加入、サミーの復帰。
サミーが脱退してしまったヴァン・ヘイレン、次のボーカルはというと・・・なんとデイヴが復帰してしまった。ファンにとってはとてもありがたいことだ。だが、復帰といっても「GREATEST HITS VOL.1」に入っている、「キャント・ゲット・スタッフ・ノー・モア」と「ミー・ワイズ・マジック」の2曲だけで、結局デイヴは脱退。またボーカリスト不在となるが、ここで実力派、元エクストリームのゲイリー・シェローン(以下ゲイリー)が加入する。満を持して1998年にリリースされた「VAN HALEN III」は、全体的に長い曲が多く、エディのギターが冴えているアルバムだ。このアルバム、1回聴いただけでは良さがイマイチわからないと思う。何回も何回も聴くとしだいに良さが伝わってくる。「ワンス」は私のお気に入りでで、とても良いバラードだ。「ウィズアウト・ユー」はどこなくエクストリームっぽい気がするが、エディのバッキングが冴え渡るカッコイイ曲だ。「ハウ・メニィ・セイ・アイ」はエディがリード・ボーカルを務めている。この当時のライヴでは、デイヴ時代からサミー時代まで、いろいろな曲をやっていて面白い。ゲイリーもさすがにサミーまでとはいかないが、素晴らしい歌を聴かせているし、パフォ−マンスもなかなかで見事にフロント・マンを務めた。だが、ツアーが終わるとゲイリーは脱退。エディの癌の発病等もあり、しばらくヴァン・ヘイレンは活動停止となる。
この間にサミーとデイヴ(実際にはゲイリーも一時加わった)はダブル・ヘッダー・ツアーを行い、ゲストにマイキーを迎えるなど、大盛況であった。衰えがひどいデイヴに対し、昔と大して変わらない歌唱をするサミーはさすがだ。
そして2004年、待ちに待った活動再開、サミーの復帰である。ベストアルバム「BEST OF BOTH WORLDS」には、新曲「イッツ・アバウト・タイム」「ラーニング・トゥ・シー」「アップ・フォー・ブレックファスト」の3曲が録音された。これに伴いでアメリカ中をツアーしているのだが、BALANCEの曲は「セヴンズ・シール」しか演奏されていない。嫌な思い出があるそうだ。だが、「ヒューマンズ・ビーイング」は演奏されていたりする。
エディは、まだリハビリ中といったところで、少し荒いところがある。マイキーも声に衰えを感じる。だが、サミーは、いまだ昔のような超高音で曲を歌いこなしているからすごい。アルも衰えるどころか、むしろ上手くなっているほどだ。
最近、またサミーとヴァン・ヘイレン兄弟の仲が悪くなっているらしい。できればもうケンカはしてほしくないが・・・・・
(RICK)2004.10
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