HEART ハート


<文・まっちゃん ページ作成HINE

(1)はじめに

ハートは美人姉妹アン&ナンシー・ウィルソン率いるハード・ロック・バンドであり、また75年のデビューから95年までは活動を20年間行い、それからは活動を停止していたが、今年の6月から活動を始めたいわいる「老舗バンド」でもある。
数々の名曲、名作を出しているが、日本での人気は今ひとつという感じがする(日本語サイトがないみたいだし)。いままで掲示板にハートについて書き込んでいたわけだが、管理人さんのすすめで今回アーチスト紹介の文章を作成することにした。上品でノーブルで華やかなバンド、ハートをもっといろいろな方に知ってほしいと思う。

(2)ハートの歴史

1) 71年〜75年 結成〜デビュー
 ハートの歴史は以外と古い。66年にロジャー・フィッシャー、スティーヴ・フォッスンが中心となって結成された、「ジ・アーミー」がハートの母体である。71年にアン・ウイルソンが加入し、ホーカス・ポーカスと名乗り、地味なライブサーキットをおこなう。72年ハートと改名し、ロジャーの兄のマイケルとアンが恋仲であったこともあり、活動の拠点をバンクーバーに移す。そして、レッド・ツェッペリンのカバーを主力にクラブ主体のライブサーキットを精力的におこなった努力が実り、マッシュルームレコードとの契約となる。75年「ドリーム・ボート・アニー」でレコードデビューを行う。
メンバーは
Ann Wilson アン・ウイルソン(vo)
Nancy Wilson ナンシー・ウイルソン(g/vo)
Roger Fisher  ロジャー・フィッシャー(g)
Steve Fossen スティーヴ・フォッスン(b)
Howard Leese  ハワード・リーズ(g/key)
(デビュー直後に正式メンバーになる)
Michael DeRosier  マイク・ディロジェ(dr) (デビュー直後に正式メンバーになる)

2)75年〜79年 デビュー〜第一期黄金時代
 「ドリーム・ボート・アニー」がチャートの7位を記録するなど、順調な売れ行きをみせた。76年に2nd.の「マガジン」のレコーディングに取り掛かったが、マッシュルームレコードの運営方針に疑問を持ち、作業半ばで契約を破棄、ポートレートへ移籍する。そこでも「リトル・クイーン」のアルバムヒット(9位)と「バラクーダー」のシングルヒット(11位)で第一期黄金時代を築く。
このころは音楽的にはレッド・ツェッペリンの影響が色濃く感じられるハードロックやアコースティックサウンドがメインであった。また、メルヘンチックで叙情的なハート独自の世界を感じさせる曲も多い。
まさに、ウイルソン姉妹は森と湖の妖精といった感じであろうか。いまだ、このころのハートが一番よいと言う人もかなりいる。また、当時はロジャーが音楽やアルバムのコンセプトを考えていた。しかし「ドッグ・アンド・バタフライ」の発表後、79年にロジャーが脱退してしまう。それをきっかけとして80年代前半の低迷期となってしまうのである。

3)80年〜84年 低迷時代
 ロジャー・フィッシャーが脱退し、人気も下降の一途をたどり、アルバムセールスも今ひとつとなった。また、ハートとしての音楽コセンプト、方向性にも迷いが感じられ、ハートとしてのオリジナリティが作品にでていないのである。
また、82年のアルバム「プライベート・オーディション」のレコーディング後に、スティーヴ・フォッスン、マイク・ディロジェが脱退し、ハートは苦境にたたされた。その後ベースの
Mark Andes マーク・アンデス(元ファイヤー・フォール)、ドラマーのDenny Carmassi デニー・カーマッシ(元モントローズ)というベテランのミュージシャンが加入し、83年「パッション・ワークス」を発表するが、これも残念ながら不発となる。

4)85年〜90年 第二期黄金時代
 そこで、ハートは奮起するため、かなりの構造改革をおこなった。まず、レコード会社をキャピトルに変えて、またプロデューサーに当時売れっ子のロン・ネヴィソンを起用して、今までの自作自演にこだわる方針から外部の売れっ子ライターが作曲した曲をメインに取り上げ、サウンドをよりポップでメロディアスにした。
85年、セルフ・タイトル「ハート」(初の第1位)を発表し、シングルも「ホワット・アバウト・ラブ」(10位)、「ネバー」(4位)でロックシーンの表舞台に復帰した。このハートの復活は感動的ですらある。
出すシングルはすべてヒットチャートに入り(特に名バラード「ジーズ・ドリーム」「アローン」はいずれも全米1位)、3枚のアルバムも連続全米3位以内という快挙を成し遂げた。当時MTVが大流行していて、ウィルソン姉妹の美貌がレコードセールスに好影響を与えたのはいうまでもない。
またライブ・ツアーは大がかりでアリーナクラスの会場を中心にまわったため、「アリーナ・バンド」としての評価が固まり、ビッグネームの仲間入りをはたした。
普通、ハートの全盛期というのはこの時期をさす。
メンバーは
Ann Wilson アン・ウイルソン(vo)
Nancy Wilson ナンシー・ウイルソン(g/vo)
Howard Leese ハワード・リーズ(g/key)
Mark Andes マーク・アンデス(b)
Denny Carmassi デニー・カーマッシ(dr)

5)91年〜95年 ハートの原点への復帰
 91年に入ると、当時のグランジ/オルタナブームのあおりを受け、人気が下降してきた。それとともに、ハート自身もヒットを狙わず、ハートの原点であるアコースティックサウンドをメインに行うようになっていった。また、ライブ会場も「アリーナ・クラス」でなく「クラブ・クラス」がメインとなった。
 さらにこの時期、メンバーのハート以外での活動も目立ち始めた。ウイルソン姉妹は「ラブモンガーズ」という別プロジェクトを発足させ、デニーは有名プロジェクト「カヴァーデイル/ペイジ」に参加する。そのような状態を反映してか93年の現時点の最終スタジオアルバム「デザイヤー・ウォークス・オン」は不発(米48位)となった。
また、メンバーの脱退も相次いだ。92年にマークが脱退。94年にデニーが脱退し、ホワイトスネイクに加入している。95年にアンプラグド・ライブ・アルバム「ザ・ロード・ホーム」発表後、ハートとしての活動を休止した。
 
6)96年〜01年 活動休止期
 この時期はハートとしての活動を休止している。ウイルソン姉妹は「ラブモンガーズ」の活動をメインに、並行してソロ活動を行う。アンは舞台での活動をメインに最近ではビートルズのトリビュートバンド「アビーロード」(このメンツがまたすごい)に参加し、来日公演もおこなっている。ナンシーはソロ・アルバムを発表し、夫であるキャメロン・クロウが映画監督をつとめる映画の音楽の作詞、作曲も担当している。ハワードはハートとしての仕事がないのでスタジオ・ミュージシャンをやっているようだ。

7)02年6月 ハート再始動
 02年6月ハートとしての活動を再開した。6月から8月のサマーツアーをはじめ、現在はシアトルで新作のレコーディング中である。発表は来年の春ごろらしい。ハートの完全復活を期待するところだ。

(3)アルバム・リスト(水色のタイトルには解説があります)

1) オリジナル盤

1975年 DREAMBOAT ANNIE(ドリームボート・アニー)
1977年 LITTLE QUEEN(リトル・クイーン)
1978年 MAGAZINE(マガジン) 
1978年 DOG AND BUTTERFLY(ドッグ・アンド・バタフライ)
1980年 BEBE LE STRANGE(ベベ・レ・ストレインジ)
1982年 PRIVETE AUDITION(プライベート・オーディション)
1983年 PASSION WORKS(パッション・ワークス)
1985年 HEART(ハート)
1987年 BAD ANIMALS(バッド・アニマルズ)
1990年 BRIGADE(ブリゲイド)
1991年 ROCK THE HOUSE LIVE !(ロック・ザ・ハウス・ライブ)
1993年 DESIRE WALKS ON(デザイヤー・ウォークス・オン)
1995年 THE ROAD HOME(ザ・ロード・ホーム)

2)ベスト盤

1980年 GREATEST HITS, LIVE(グレイテスト ヒッツ、ライブ)
1997年 THESE DREAMS-HEART'S GREATEST HITS(ジーズ・ドリームス−ハート グレイテスト ヒッツ) 
1998年 GREATEST HITS(グレイテスト ヒッツ)
2000年 GREATEST HITS 1985-1995(グレイテスト ヒッツ 1985-1995)

(4)CD購入ガイド

1)オリジナル盤
 オリジナル盤でおすすめなのは、「ドリームボート・アニー」、「ハート」、「ブリゲイド」、「ザ・ロード・ホーム」。
「ハート」、「ブリゲイド」は彼女らの最高傑作であるばかりでなく、いわゆる80年代のメロディアス・ロックの名盤の一つともいえる。ハードロックと美しいバラードとがバランスよく選曲され、アルバムとしてのまとまりもよく、佳曲ぞろいで捨て曲は見あたらない。
この2枚を抜きにしてハートは語れないだろう。
 また、「ザ・ロード・ホーム」は全編アンプラグドのライブ・アルバムだ。往年の名曲をアコースティックでしっとり聴かせてくれる。アンプラグドが好きな人や90年代から洋楽を聴き始めた人にとっては、むしろ一番のお勧めだろう。
 70年代の初期のハートのアルバムに関しては「リトル・クイーン」と「ドッグ・アンド・バタフライ」もお勧めだが、残念ながら日本では廃盤となっている。入手しやすさという点で「ドリームボート・アニー」に軍配があがる。

2)ベスト盤
 ハートを初めて聴く人にとっては、とりあえずベスト盤から聴いてみようということも考えられるので、べスト盤についても紹介しておこう。とりあえず、1枚のCDでハートの全期の代表曲ということであれば、「ジーズ・ドリームス−ハート グレイテスト ヒッツ」がとりあえず全期間、バランスよく網羅されている。
 CDを2枚買う余裕のある人は「グレイテスト ヒッツ」、「グレイテスト ヒッツ 1985−1995」の組み合わせがお勧め。「グレイテスト ヒッツ」はデビューから1983年ぐらいまでの曲に絞って選曲されている。(初期のころのオリジナル版は日本ではほとんど廃盤になっている。この面でもこのベスト盤はお勧めだ)
「グレイテスト ヒッツ 1985−1995」はタイトルどおりキャピトル移籍後の1985年からの曲に絞って選曲されている。この2枚でハートの代表曲はほとんどが網羅されているだろう。
 
(5)代表曲リスト

MAGIC MAN(マジック・マン) (1975年/全米9位)
CRAZY ON YOU(クレイジー・オン・ユー) (1975年/全米35位)
BARRCUDA(バラクーダ) (1977年/全米11位)
STRAIGHT ON(ストレート・オン) (1978年/全米15位)
WHAT ABOUT LOVE(ホワット・アバウト・ラブ)(1985年/全米10位)
NEVER(ネバー)(1985年/全米4位)
THESE DREAMS(ジース・ドリームス)(1985年/全米1位)
ALONE(アローン) (1987年/全米1位)
ALL I WANNA DO IS MAKE LOVE TO YOU(愛していたい)(1990年/全米2位)

(6)ハートの音楽性の変遷と特徴

 ハートの音楽性は一言で言って「多種多様、緩急自在」ということであろう。ハードロック・ナンバーもやるし、ポップ・バラードもやるし、アコースティック・サウンドもこなす。このことは、レッド・ツェッペリンの影響と、デビュー前のライブ・サーキットで客のリクエストに応じ、いろいろな曲を演奏していたことに起因すると思う。そのことはハートの魅力の1つでもあると思うが、それがかえってハートの音楽性への理解をさまたげている面がある。
 また時代の流れとともに音楽性が変化している。この変遷を簡単に述べると、いわゆる70年代の初期ハートはレッド・ツェッペリンの影響が色濃く感じられるハードロックやアコースティックサウンドがメインであるが、それだけにとらわれず、いわゆるヨーロッパ世界とアメリカ世界の融合という感じで、ハート独自の世界を作っていた。リズムやギターリフはアメリカ的なゴツゴツした感じだが、その上でヨーロッパ的な繊細さ、叙情性、メルヘンチックさを醸し出している。このころのハートはオリジナリティがあり一番良いと言う人もかなりいる。80年代以降はオリジナリティがなくつまらないバンドになってしまったというのがその人たちの言い分である。ロジャー・フィッシャー脱退後、ハートのサウンドは並みの「中堅バンド」の音になってしまった。しかし、70年代とくらべアンのヴォーカルが前面に出ている。このころのアンのヴォーカルはパワフルである。
 そして、85年「ハート」で復活を遂げた後は以前とかなり音楽性が変わっている。外部の売れっ子ライターが作曲した曲を多く取り上げ、ポップでメロディアスとなり、ハードロック色が薄くなった。
 また、それまではなるべくキーボードを使わないような、シンプルなサウンドがメインであったが、シンセサイザーが大幅に導入されるようになった。プロデュースにも力をいれ、全体的にサウンドとして洗練されてきた。それが、当時の売れ筋のサウンドとなっていて、実際よく売れたため、いわゆる「産業ロック」と烙印を押されることもあった。しかし、私は、バラードの曲が美しく、またサウンド面でも、より円熟し完成度が高くなってきたと思う。ギターやシンセの隠し味としての使い方がうまく、またアンとナンシーのコーラス・ハーモニーも美しい。また、デニー・カーマッシのドラムもタイトで力強い。
 90年代に入ると、ハートの原点復帰ということで、サウンドもよりシンプル、地味となり、アコースティック色が強くなったきた。
 以上のように、時代の流れとともに音楽性も変化してきが、ハードロック、ポップ・バラード、アコースティック・サウンド、いずれも普遍的な音楽である。そういった意味では正統派である。
 ハートが好不調の波をくりかえしながらも20年以上生き残ってこれたのは、こういった普遍的な音楽を追求し、それを自分たちものとして吸収することによって、ハート独自の音楽をつくりだし、時代によって的確に表現できたからに他ならない。全期にわたって、アンのヴォーカルを核としたメロディ志向の音楽を追求したという面では"不変"でもある。
 また、ハートの音楽は「女性や大人向けのロック」というとらえかたもできる。確かに10代の若い男性にとっては、パワー的な面で物足りないかも知れない。しかし、上品で美しいメロディアスなバラード、適度にハードで適度にポップなロックサウンドは、女性や成人にとって心地よいものである。アンの唄う上質なバラードは21世紀の今聴いても古さをまったく感じさせない。普遍的な名曲というのは時代がたっても色あせないものである。ビートルズの名曲がそうであるように…。

(7)ウイルソン姉妹について

1)アーティストとしてのウイルソン姉妹
 ハートの各曲にウイルソン姉妹の女性としてのやさしさや情感、繊細さなどが出ている。とくにバラードはそうである。これは男性には出せない味であろう。女性らしさの出かたも、変に女をちらつかせた感じではなく、自然に適度にでているのである。また母性的な優しさや芯の強さも出ている。
 また、アンは世界一の女性ロックヴォーカリストである。声量、パワー、表現力、情感、あらゆる面において彼女以上のヴォーカリストはいないと思う。また年代がたつにつれてますます円熟して、パワーも衰えないのがうれしい。以上のことで、特に女性ファンにはかなり支持されている。また後世の女性ロックアーティストへ与えた影響も大きく、尊敬する女性ロックアーティストとしてアンの名前を揚げる女性ロックアーティストも多い。たとえば、最近のメロディアス・ロックでヘイヴンという新人バンドがあるが、そこの女性ヴォーカリストのパムはアンからかなり影響をうけたと言っている。(実際にCDを購入して確かめたが、バラードナンバーはハートの影響がかなり感じられた)
 日本でも、女性ロックボーカリストの浜田麻里もアンのことを尊敬しているし(実際、ホワット・アバウト・ラブをカバーで歌っている)、85年のハート復活は、レベッカやプリンセス・プリンセスにも影響をあたえている。
 ナンシーのほうはアコースティック・ギターの名手である。たしかにリードギターはロジャーやハワードなどの男性メンバーがとっていたが、アコースティック・ギターといえばナンシーである。また彼女が「ジーズ・ドリーム」のようにリード・ヴォーカルをとっている曲もある。高音部がきれいである。中低音部を担当するアンと高音部を担当するナンシーとのツイン・ボーカルということも言える。 また、アンとナンシーのコーラス・ハーモニーもすばらしい。姉妹だからこのような味がでるのであろう。ただし、アーティストとして惜しい点は作詞作曲の能力がもう少しあればな、と思ってしまう。80年代後半以降の外部ライターによる曲とウィルソン姉妹自身のペンによる曲と比べれば、前者の方が曲自身のクオリティが上なのである。80年代後半のヒット曲はほとんど外部ライターの曲である。それを考えるとさびしくなってしまう。

2)女性としてのウイルソン姉妹
 ウイルソン姉妹は70年代の20代のころは清楚な美人姉妹として誉れが高かった。また80年代後半は、華やかな成熟した大人の女性に成長してる。当時全盛だったMTVの画像をみて、あまりの美しさにクラクラっときた人もいるかと思う。現在ではアンのほうは残念ながら太ってしまい、雪だるまのようになってしまったが、ナンシーのほうは相変わらず、美しくかっこいい。
 またウイルソン姉妹は「恋多き女性」でもあった(まあ、あれだけの美貌の女性、男性がほっとかないだろう)。
70年代にアンはロジャーの兄マイケルと、ナンシーはロジャーとそれぞれ恋仲であった。その後ナンシーは82年ごろ、キャメロン・クロウが関連する映画のチョイ役として出演し、キャメロンと恋仲になり、結婚までこぎつける。あれだけの素晴らしい熱唱ができるのも、良い恋愛をたくさん経験してきたことが影響していると思う。また、男性メンバーに対して、母親のように包み込むような優しさがあり、面倒見がよかったと思われる。ハートは男性メンバーにとっても居心地がよかったバンドだったのではないだろうか。
 ハートは一般的にみてメンバーチェンジの多いバンドというイメージをもたれていると思うが、大きくみて、ほぼ10年周期でリズム・セクションが入れ替わっているだけである。実際にはメンバーチェンジも少ないほうであろう。途中から加入した、マークやデニーにとっても10年と一番在籍期間が長かったバンドであることを考えても。

(8)男性メンバーについて

 ハートといえば「ウィルソン姉妹のバンド」というイメージが強く、男性メンバーの存在感が希薄である。ハートってウィルソン姉妹による「女性デュオ」とばかり思っていた・・・と指摘されて、そういえば他にメンバーが居たっけとか。確かにウィルソン姉妹は魅力的で、とくにアンは世界一の女性ロックボーカリストだが、バンドとしてはピンとこないという人もいる。しかし、彼ら男性メンバーのサポートなしにハートは成り立っていかない。彼らだって、ハートに貢献しているので、もっと注目してほしいと思う。かれらに共通しているのは、@演奏テクニックが確かで、どのようなタイプの曲も弾きこなす。Aドラッグや酒をのんでの喧嘩騒ぎの話をきいたことがない。ロック・ミュージシャンとしては紳士的な部類である。Bヴォーカリストのバックに徹するというある意味でのプロ意識がある。
ハートをはなれても、スタジオ・ミュージシャンとして重宝されるといえよう。
 また男性にとってはどうでもいいことかも知れないが、みんなわりとルックスがいい。上品でノーブルなバンドのイメージに一役かっているわけである。また、普段はウイルソン姉妹をバンドの顔としてたてて、自分の役割を確実にこなしてきたが、要所要所でウイルソン姉妹がはっとするような男らしさを発揮している。
 それでは、とくにハートに貢献した主要な男性メンバー三名のプロフィールを紹介しよう。
1)Roger Fisher ロジャー・フィッシャー
2)
Howard Leese ハワード・リーズ
3)
Denny Carmassi デニー・カーマッシ

(9)ハートをどのように評価するか

 ハートの魅力は一言でいって、美人姉妹がメインのバンドならではの上品さ、ノーブルさ、華やかさであろう。
 また女性メインならではの美しさ、情感、やさしさが曲に出ていることである。すなわち他の大物アーチストにはない、ハート独自の魅力に惹かれるわけである。
  私は、70年代後半からロックを聴き始めたので、当然ストーンズや70年代ハードロックが好きである。
  彼らには、不良性、ロック・スピリット、サウンドの厚み、ギターテクニックなどで惹かれていたわけだが、ハートにはそのようなことは一切求めないのである。そのような意味で、他のバンドと比較すること自体がおかしく、一流バンドか二流バンドかを論ずること自体が無意味であろう。

 しかし、もう一面で、ウィルソン姉妹の美貌、アンのヴォーカリストとしての歌唱力、確かな演奏テクニックに裏ずけられた良質なサウンド、数々の名曲、ライブ演奏のよさの割りには認知度がイマイチかなと思ってしまうことが時々ある。キャリアの長さの割りに「大物バンド」とか「ビッグネーム」と呼ばれることが少ないのが多少気がかりである。
 その理由について、いろいろな方の意見を聞きながら自分なりまとめてみた。
@ウイルソン姉妹が前面に出すぎて、ハートは「女性デュオ」という感じで、バンドといわれてもピンとこない。したがってバンドとしての評価が出にくい。(これは、かなりの人が指摘していた)
Aウイルソン姉妹が美人なので、アイドル的なイメージが先行しがちである。80年代の売れ筋ロック(産業ロック)のイメージも強い。
 女性がメインで上品で優等生的なバンドゆえに軟弱と見られることもある。そのことが正当な音楽性への理解のさまたげになっていることも考えられる。
Bポップもやり、アコースティックもやり、ハードロックもやるという音楽的な多様性そのものが理解されにくい
 ハードロックファンからみれば「ハードロックだけやってくれ」またバラードファンからみれば「バラードだけやってくれ」となる。とくにハードロックファンにしたら物足りなさを感じるのだろう。 
Cハートは好不調の波がはげしい、それを反映してアルバムもあたりはずれがある。
 とくに、79年のロジャー・フィシャーが脱退した直後のハートはそうである。長い低迷時代となり、そのころ離れていったファンも多い。
Dハートがロック・シーンにあたえた影響が少ない(名曲の多さや歌唱力や演奏テクニックに関係なく)
 ロックの歴史上におけるメインの流れやムーブメントにおいて、影響をあたえた先駆者であったとか、それを代表するバンドではなかったと言う意味で・・・。
Eレコード会社があまり宣伝やサポートを熱心にやっていなかったのではないかと思う。
 また、ハートはロック・シーンにどのような影響をあたえてきたか、それは何といっても、ウィルソン姉妹が女性ロックアーティストの草分け的な存在であり、女性ロックアーティストがロック界でそれなりに認知されることに貢献し、後世の女性ロックアーティストへ大きな影響を与えてきたことだろう。
 また、メロディアスで聴きやすい音楽が、MTVでのウィルソン姉妹の魅力もプラスに効果して、ロックのファン層の拡大(特に女性に対して)にかなり貢献していると思う。

(10)番外編コラム 僕とハートの思い出

1)中学高校時代
 中学高校時代、野郎連中はハードロック(レインボウがメイン、他にブラックサバスやエアロスミス)、女の子はベイ・シティ・ローラーズに代表されるアイドル・バンドと完全に分かれていた。
私も野郎連中にまじってハードロックを聴いていた。ハートとの出会いは日本でのデビュー「リトル・クイーン」であった。まずジャケットや宣伝用の写真をみて、中世ヨーロッパのようないでたちで、お姫さまとそれを取り囲むナイトという感じで、ロック・アーティストには似つかわしくない、上品で清楚でノーブルさにひかれた。
 また実際にサウンドを聴いてみると、ギンギンのハードでもない、かといってまったくのポップでもない。なにかメルヘンのような独自のものを感じたが、野郎連中にも女の子にもすすめることはできなかった。
野郎連中からみれば・・・
「ハートってあのアンとかナンシーとかいうかわいこちゃんのいるバンドだろう。お前も意外とミーハーだな」
「女ゼップというふれこみだったから、聴いてみたけどたいしたことなかったぞ。音はスカスカだし、リフはB級バンドのノリだし、あれじゃ女連中がキャーキャー騒いでいるイモバンドとかわらないぞ。そんなことより、サバスの新作"ヘブン・アンド・ヘル"を聴こうぜ、ロニーのヴォーカルも哀愁があってなかなかいいぞ」とか言われそうだった。
女の子からみれば・・・
「ねー、ハートの"ドリーム・ボート・アニー"のジャケットみた?セクシー路線で売ろうというのが見え見え。ヤーネー」
「女性がメインのバンドだっていうんで聴いてみたけど、何か荒削りでゴツゴツした感じだったわ。それにひきかえマックのほうが洗練されてて、おしゃれという感じよね」
という感じで、一人で隠れファンをやっていたわけである。

2)大学時代
 実はそのころ、生まれて初めて燃えるような恋をしたわけである。強烈な片思いであった。その人は美人であった。
そのもんもんとしたところに、「ジーズ・ドリーム」のビデオクリップをみた。なにかとても心が癒されるものを感じた。
なにかハートもポップになってしまったと言われていたが、このような曲のほうがウイルソン姉妹の女性らしさがでていて本当のハートらしいと直感的に思った。メロディがなぜか頭から離れないのだ。
 まもなく、その人にふられた。それで、その人とぼくとの共通の友人ある女の子がいた。その子はいろいろ相談にのってくれ、いろいろとりもってくれ、またいろいろ慰めてくれた。お世辞にも美人といえないが、いわいる「母性的な優しさ」をもった女の子だった。やがて、その女の子にも恋愛感情をもってしまった。
で、向こうがそれに気がつき、しだいに気まずくなった。
そのとき「アローン」と出会った。「アローン」をきいた夜、涙がぽろぽろ出てきた。。。

(11)終わりに

 長文になってしまったが、私としては「バンドしてのハート」にこだわりたかったため、男性メンバーの記述にかなりの量をさいたつもりだ。また、アルバム紹介のところでは、ウイルソン姉妹による別プロジェクト「ラブモンガーズ」やアンやナンシーのソロアルバムの記述は省略させていただいた。
最後に、ハート・ファンを代表し、ここに執筆する機会を与えていただいた事に感謝します。
≪2002年11月 まっちゃん