○レビュー内容
これは大変完成度の高いアルバムである。私が「ハートの最高傑作は?」と聞かれたとき、このアルバムを推すであろう。
本作は彼女たちの最高傑作であるばかりでなく、80年代産業ロック(あまり個人的に好きな表現ではないが)の最後を飾るのにふさわしい名盤ともいえる。ハードロック、バラード、ポップロック、さまざまなタイプの曲があるが、散漫な印象がなく、ヘビーさとポップさのバランスが見事にとれ、アルバムとしてコンパクトにまとまっている。捨て曲がまったくなく佳曲ぞろいである。13曲もあるのに捨て曲がないアルバムなどそうそうあるものでない。(このアルバムのために25曲用意したということである)
また、前2作と比べるとハードロック色が強いのも特色である。ハードロックファンがはじめてハートのアルバムを聴く場合に特にお勧めである。具体的にはシンセサイザーも使用されているが隠し味程度でギターが前面に出ている。デニー・カーマッシのドラムの非常にタイトで力強い。
やはり、デビューして15年、さすが円熟味も感じられる。演奏も安定し、シンセサイザーを隠し味に使ったギターソロの出し方などは、新人バンドにはマネの出来ないところであろう。ちなみにデニー・カーマッシがサミー・ヘイガーとぺンをとっている曲が2曲ある。彼がハートの中で優遇されていたことが想像される。
また、プロデュースも見事で、音質も大変よく、ハートがこのアルバム作成にかける意気込みが伝わってくる。このアルバムは全米3位を記録し、3作連続の全米TOP3以内という偉業を成し遂げた。
このように完成度の高いアルバムであるが、気になる点を揚げるとすれば、ややオーバープロデュース気味かなという所とサミー・ヘイガーが作曲に参加している曲もあわせて自作の曲が5曲しかなく、しかもメンバー全員の共作の曲が一番弱いことである。
○曲紹介
1.WILD CHILD
アルバムの冒頭にふさわしいアップテンポのハードロックナンバー。今までのハードロックナンバーとは趣が異なり、やや暗さを感じさせる。シンプルだが、なにか洗練された感じである。ギターのエフェクトの使い方もうまく、アンのヴォーカルもパワフル。円熟を感じさせ、さすが15年選手だなっと思ってしまう。
2.ALL I WANNA DO IS MAKE LOVE TO YOU
マッドランジ作のミディアム・ポップ・バラード。なかなかいい曲である。この曲が好きだという人も多い。曲やアンのヴォーカルのさることながら、バックコーラスもよく、さびのコーラスとアンのボーカルの掛け合いは見事である。チャートでは全米2位まで上昇した。ちなみに当時の1位はマドンナの曲である。まさに、アンはマドンナとヴォーカルの女王の地位をめぐって覇権をあらそっていたといえよう。ちなみにこの曲のアコースティックヴァージョン(「ザ・ロード・ホーム」に収録)がトヨタの「RAV
4」のCMに使われた。また、歌詞がエッチな曲として、イギリスで放送禁止となったいわくつきの曲でもある。
3.SECRET
これは、「アローン」や「ジーズドリーム」にも勝るとも劣らない名バラードである。ファンの間ではなぜかベスト盤に入らない名曲として有名である。この曲を聴きたいがために、このアルバムを買っても良いであろう。メロディが本当に素敵でアンが切々と歌っている。またさびのナンシーとのコーラスハーモニーも見事だ。中低音部のアンと高音部のナンシーとのツインボーカルという見方もできる。
4.TALL, DARK, HANDSOME STRANGER
ホーンセクションをフィーチャーしたハードロックナンバー。アンのアグレッシブなヴォーカルもなかなかよい。やはりこの人、なにを歌わせてもかっこいい。コンサート向けの曲なので、アンが挑発的に歌い、観客がノリノリになっている姿が想像される。
5.I DIDN'T WANT TO NEED YOU
ハートが得意とするドラマチック・バラード。盛り上りかたに荘厳さすら感じる。2NDシングルとしてカットされ全米23位となった。ダイアン・ウォーレン作
6.THE NIGHT
アコーステックギターのイントロから始まるハードロックナンバー。このアルバム中では最もハードロックしている。アンの力強いヴォーカルもとより、ギターワークもソリッドで、デニー・カーマッシのドラムもかっこいい。ウイルソン姉妹とデニー・カーマッシとサミー・ヘイガーとの共作。
7.FALLEN FROM GRACE
いきなりコーラスではじまる曲。コーラスが美しく、ハードな中にも洗練されたものがある。
デニー・カーマッシとサミー・ヘイガーのペンによる。
8.UNDER THE SKY
アコースティックをフィーチャーしたバラードナンバー。本当に美しい曲で、心が洗われる。「空の下で」とのタイトルどおり、湿り気がなく健康的で心が癒される。自然の美しい野外でゆったりきくのに向いている曲。
この曲はウイルソン姉妹のペンによるもので、やっぱりウイルソン姉妹ってきれいな曲が書けるのだなと改めて感心する。やはりハートファンとしては、たとえ売れ筋でなくても、ウイルソン姉妹のペンによる曲をメインにやってほしいと願う。
9.CRUEL NIGHT
ダイアン・ウォーレンの作曲。いかにもその時代あったキーボードをフィーチャーしたキャッチーなポップバラード。
10.STRANDED
ナンシーがリードヴォーカルをとるバラード。ドリーミーな雰囲気な曲で、ナンシーのヴォーカルもアンとは違った魅力がある。3RDシングルとしてカットされ、全米13位となった。
11.CALL OF THE WILD
メンバー全員の共作によるハードロックナンバー。この曲が当アルバムの中で一番イマイチの曲だというのは寂しい。
12.I WANT YOUR WORLD TO TURN
これも、その時代にあったミディアムテンポのポップバラード。なにか哀愁がただようところが良い。
13.I LOVE YOU
タイトルどおりアルバム最後を飾るにふさわしいバラード。ウイルソン姉妹のペンによる曲。メロディの優しさとアンのハートウォーミングな歌い方がGOOD。
○初回限定版について
私は、このアルバムを中古で初回限定版を購入した。赤いスエード地の箱入りというのが、いかにも上品でノーブルで華やかなハートらしいなということで気に入った。2000円と中古としては高かったが、女王様の名作に敬意を表する意味で購入した。
豪華なブックレットもついていて、その内容はハートの栄光と苦難の歴史が書かれていた。印象に残ったのは、80年代前半の低迷期、イギリスツアーでティアーズ・フォー・フィアーズの前座扱いをされていたということだ。そこまで人気が落ちていたのに85年の復活は本当に感激ものだ。またハワードとナンシーのギターコレクションのことも書かれていた。特にハワードのギターコレクションは話には聞いていたが、ユニークな形のギターがたくさんあった。またボーナスシングルもはいっていたが、その曲の説明は割愛させていただく。(まっちゃん)
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