RORY GALLAGHER ロリー・ギャラガー


アイルランドの熱血ギタリスト

ぼろぼろに塗装が剥げたストラトキャスター、チェックのダンガリーシャツに色の落ちたジーパン、エフェクターをまったく使わないギター一本の演奏スタイル・・・すべてがソリッドな男だった。
ブルースをこよなく愛し、ライブでこそ、その本領を発揮する本物のギタリストでもあったロリー・ギャラガー。彼は1949年3月2日アイルランドのバリー・シャノンで生まれ、コークで育った。
9歳でギターをはじめ、15歳のときにはすでにダンス・ホールのバンドの一員としてヨーロッパ中を演奏して回っていた彼は、65年頃にはロックンロールから当時エリック・クラプトンなどの大活躍によってブームとなっていたブルースに転向することとなる。
そして、66年には自ら「テイスト」を結成し、モダン・ブルースからカントリー・ブルースまで幅広いブルースサウンドを聞かせるバンドとしてハンブルグを拠点に活動した。

第1期テイスト(1966〜1968)

Rory Gallagher ロリー・ギャラガー/ギター、ブルースハープ*、ヴォーカル
Eric Kitteringham エリック・キットゥリンガム/ベース・ギター
Norman Damery ノーマン・ダメリー/ドラムス
彼らは67年数曲のレコーディングをしたあと、音楽的な意見の相違から68年には解散。
この時レコーディングされた曲は74年になって「インザ・ビギニング」というアルバムとなって日の目を見ている。またデモ・テイクを集めた「Take It Easy Baby」というアルバムも本国アイルランドでは発売されたらしいが、詳細は不明だ。

第2期テイスト(1968〜1970)

Rory Gallagher ロリー・ギャラガー/ギター、ブルースハープ*、ヴォーカル
Richard McCracken リチャード・マックラケン/ベース・ギター
John Wilson ジョンウィルソン/ドラムス
第1期テイスト解散後ロリーはイギリスに拠点を移し、すぐさま第2期テイストを結成する。彼らはポリドールと契約し、69年アルバム「テイスト」でデビュー。
ちょうどイギリスでは、さきのクラプトンによるクリームブルース・ブレイカーズ、フリートウッド・マックなどブルース・ロック人気が頂点に達しており、さらに彼らはトリオ編成だったことから“ポスト・クリーム”として一躍注目を集めることになる。
特にライブでは圧倒的な人気を誇り、ジミ・ヘンドリックスらと共に出演した70年のワイト島フェスティバルでは各音楽誌ともトップ扱いだったという。
しかしマネジメント上の問題やメンバー間のいざこざにより第2期テイストもこの年には解散。彼らはライブ盤2枚とスタジオ盤2枚のアルバムをリリースしたが、現在ではいずれも入手困難、後から出されたベスト盤のみ今でも簡単に手に入る。

記憶に残るギタリスト、ロリー・ギャラガー

テイスト解散後ソロ名義になったロリーであったが、実際のところ、トリオ編成のバンド形式を保っており、第3期テイストといった感じで71年にソロ・アルバム・デビューを果たしている。ベースはジェリー・マッカヴォイ、ドラムスはウィンガー・キャンベル。
その後セカンド・アルバムもリリースし、テイスト人気の影響もあって2枚のアルバムともスマッシュ・ヒットはしていたが、なんといっても72年にリリースされたライブ・アルバム「ライブ・イン・ヨーロッパ」の成功(全英9位)が彼の名を一躍有名にした。
ごまかしのきかないライブでこそ本領を発揮する、本物のギタリストならではの魅力がいっぱい詰まった作品でもあった。
73年になると、ドラムをロッド・ディアスに代え、さらに固定メンバーとしては初めてキーボード・プレイヤー、ルー・マーティンを起用して、アルバム「ブループリント」をリリース。これも見事全英12位のヒットを記録した。
しかし、彼の代表作としてファン達の心の中に深くロリーの存在を植え付けたのは、この後発表された2つのアルバムであろう。
その1つは、スタジオ録音盤の最高傑作「タトゥー」。
これは73年のうちに2枚目のアルバムとしてリリースされ、「いれずみの女」「100万マイルも離れて」「クレイドル・ロック」そして個人的にもいち押しの「フーズ・ザット・カミング」などロリーの代表曲がずらりと並ぶ名盤。
「フーズ・ザット〜」はあのボトルネックを使ったアコースティック・ギターから同じフレーズをエレクトリック・ギターでつなぐイントロ部分がメチャクチャかっこいい!
そして、もう1つの名盤はライブの最高傑作「ライブ・イン・アイルランド」。
これは翌74年にリリースされ、内容はアイルランド紛争中にその中心地であったベルファストで行ったコンサートでの演奏を2枚組LPにしたもの。
ロリーはこの中で平和への願いと紛争への怒りを込め名演を披露。しかも発表直後の「タトゥー」からの選曲が多く、名曲揃いの内容で文句のつけようがない。
この2作、当時はその前の2作ほどセールス的にはのびなかったが、ファンに聞くとほとんどがこの2作をロリーの代表作にあげるはずだ。
それは、ロリー・ギャラガーという人自体が、全米何位だ、全英何位だといった記録よりも、「すごい奴だった・・・」という人々の記憶の中に残るギタリストだったことと重なっている。
また、この74年には来日も果たし、例の剥げ落ちたストラト**に着古したチェックのダンガリー・シャツ、洗い晒しのジーパンという出で立ちで中野サンプラザや芝郵便貯金ホールなどで熱演を繰り広げた。

その後、クリサリス・レーベルへ移籍した彼は、よりポップでハードな方向へとサウンドを変化を見せる。中でも76年リリースのアルバム「コーリング・カード」では、ディープ・パープルのロジャー・グローバー(b)をプロデューサーに迎え、ハード・ロックに挑戦した曲「ムーンチャイルド」などで話題を呼んだ。
また、78年にはバンド自体もトリオ編成に戻し、ドラムには後にマイケル・シェンカー・グループに入るテッド・マッケンナを起用して以前のようなサウンドへ戻す。
しかし、82年にアルバム「ジンクス」を発表後、長い沈黙期に入ってしまう。
彼が再びロック・シーンへ戻ってきたのは、それから6年も経った88年、突然自分の会社Capoを設立し、そこからアルバム「ディフェンダー」を発表し、ポリドールとクリサリス時代の作品の権利もすべて買い取って再発売した。
再び精力的にライブ活動を始めたロリーは、91年には再び来日し、同年ニュー・アルバム「フレッシュ・エヴィデンス」もリリースするが、その直後またもや沈黙に入ってしまう。
再び彼のニュースが入ってきたのは95年、肝臓移植による合併症により他界という、あまりにも悲しい知らせであった・・・。

*ブルースハープ…ブルース・ミュージックで主に使われるハーモニカの一種
**ストラト…フェンダー社のストラトキャスター・モデルというエレクトリック・ギター

(HINE) 2001.3




Taste
Polydor/ポリドール

On The Boards
Polydor/ポリドール

Live At Isle Of Wight
Polydor/ポリドール

Rory Gallagher
Polydor/アルファ

Deuce
Polydor/アルファ

Live In Europe
Polydor/アルファ

Blue Print
Polydor/アルファ

ディスコ・グラフィー

<TASTE>

1969年 Taste(テイスト)*第2期テイストのデビューアルバム
1970年 On The Boards(オン・ザ・ボーズ)
*ギャラガーがブルース・ハープやアルト・サックスまで吹いている力作
1971年 Live Taste(ライヴ・テイスト)
*ギャラガーが既にソロ・デビューしてから発売されたモントレーでのライブ音源
1972年 Live At Isle Of Wight(ワイト島のテイスト)
*ジミ・ヘンドリクス等と共に出演したワイト島フェスティバルでのライブ音源
1974年 Take It Easy Baby *1967年にdemo テイクとして録られた第1期テイストの音源
1974年 In The Beginning *これも67年にレコーディングされた第1期テイストのもの
1994年 The Best Of Taste(ベスト・オブ・テイスト)*第2期テイストのライブとスタジオごちゃ混ぜのベスト盤

<RORY GALLAGHER>

1971年 Rory Gallagher(ロリー・ギャラガー)*自らプロデュースし、自分のやりたいようにやってみたソロ・デビュー作
1972年 Deuce(デュース)
*ライブの雰囲気をそのままスタジオに持ち込もうと試みたセカンド・アルバム
1972年 Live In Europe(ライヴ・イン・ヨーロッパ)
*全英9位に輝き一躍彼の名を世界に知らしめたライブ盤
1973年 Blue Print(ブルー・プリント)
*新たにキーボードを加えパワーアップした全英12位のヒット作
1973年 Tattoo(タトゥー)*名曲「いれずみの女」や「100万マイルも離れて」「フーズ・ザット・カミング」などを含む彼のスタジオ盤代表作
1974年 Irish Tour'74(ライヴ・イン・アイルランド)*彼の最高傑作と名高きアイルランドツアーを収録したライブ盤
1974年 The Story So Far
*本国アイルランドで発売されたベスト盤
1975年 Sinner... and Saint *本国アイルランドで発売されたファーストとセカンドのカップリング・アルバム
1975年 Against The Grain(アゲインスト・ザ・グレイン)
*クリサリス・レーベルに移籍して少しポップになった作品
1976年 Calling Card(コーリング・カード)*ディープ・パープルのロジャー・グローバー(b)がプロデュースしたハードでポップな作品
1978年 Photo Finish(フォト・フィニッシュ)
*キーボードを廃し、トリオ編成に戻しての原点回帰的アルバム
1979年 Top Priority(トップ・プライオリティ)*この時ドラムを叩いていたテッド・マッケンナは後にMSGへ加入
1980年 Stage Struck(ステージ・ストラック)
*クリサリス時代の曲で構成されたライブ・アルバム
1982年 Jinx(ジンクス)
*このアルバムを最後に長い沈黙の時期に入る。今思えばこの時すでに・・・
1988年 Diffender(ディフェンダー)
*なんと自分の会社「capo」を設立しての突然の復帰作
1991年 Fresh Evidence(フレッシュ・エヴィデンス)
*多彩なゲスト・ミュージシャンを迎えた意欲作だったが、これが最後となってしまう
1992年 Edge In Blue(エッヂ・イン・ブルー)*沈黙中(治療中?)にリリースされたベスト盤
1995年 A Blue Day For The Blues
*未発表テイクなどを集めたコンピレーション・アルバム
1995年 Last Of The Independence *彼の追悼盤としてリリースされた2枚組CDのベスト盤
1999年 BBC Sessions 
*71〜78年の未発表スタジオ・テイクと71〜81年のヨーロッパ・ツアーを編集した2枚組CD



Tattoo
Chrysalis/TDK

Against The Grain
Chrysalis/アルファ

Calling Card
Chrysalis/アルファ

Photo Finish
Chrysalis/アルファ

Jinx
Chrysalis/アルファ

Diffender
Capo/アルファ

Fresh Evidence
IRS


◆◆◆名盤PICK UP◆◆◆

ライヴ・イン・アイルランド
Irish Tour'74

ロリー・ギャラガー
Rory Gallagher



1974年 Polydor/アルファ

SIDE-A

1.クレイドル・ロック Cradle Rock

2.アイ・ワンダー・フー I Wonder Who (Who's Gonna Be Your Sweet Man)

3.いれずみの女 Tattoo'd Lady

SIDE-B

1.アルコール中毒 Too Much Alcohol

2.鳥が飛ぶように As The Crow Flies

3.100万マイルも離れて A Million Miles Away

SIDE-C

1.ウォーク・オン・ホット・コールズ Walk On Hot Coals

2.フーズ・ザット・カミング Who's That Coming

SIDE-D

1.ストンピン・グラウンド Back On My (Stompin' Ground)

2.ジャスト・ア・リトル・ビット Just A Little Bit

実はこのアルバム、74年(一部73年)にロリーが紛争中の祖国アイルランドで行ったツアーを、映画監督のトニー・パーマーが撮影したドキュメンタリー映画のサントラ盤らしい。映画自体はあまり話題にならず、放映されたのかさえも定かではない。遠い日本にいると、あまりアイルランド紛争のことなどは伝わってこななかったが、このアルバムやウイングスの「アイルランドに平和を」などで知り、ずいぶん長い間紛争がつづいていたんだなと、改めて認識し直したものだ。このアルバムは、そうした状況の中、なんとか一瞬でも悪夢を忘れさせてあげたいという、ロリーの優しい想いと情熱がひしひしと伝わる傑作ライヴと言えるだろう。
ロリーのライヴではいつもそうだが、1曲目からハイテンションだ。この1曲目は途中からボトルネック奏法に切り替わるが、これがまた巧い!ボトルネックをはめたまま、通常のスライド奏法をしたり、はめていない指で、和音や短音を普通に弾いたりと自由自在。名手デュアン・オールマンをも彷彿とさせる。2曲目はマディ・ウォーターズのカヴァー曲で、イントロからピッキング・ハーモニクス奏法とミュート奏法の併せ技がキマるブルース・ナンバー。間奏では、ヴァイオリン奏法も飛び出すなど、エフェクター類をまったく使わず、実に多彩な表現をギター1本で弾き出す。B-2はドブロ・ギターに持ち替えるが、エレクトリック同様、スリリングなギター・プレイが冴え渡る。途中にはブルース・ハープも巧みに吹きこなし、ロリーの1人舞台といったところか・・・。B-3のイントロはアルペジオとオクターヴ奏法から入り、ハーモニクスでしめる。また途中のソロでは、ギター1本で出せる音の限界にチャレンジするかの如く、惜しげもなくあらゆるテクニックを披露。フット・ペダルも使わず、ワウワウ効果をギター側の音質つまみで出すのは、ジェフ・ベックとロリーぐらいなものだろう。C-1は10分を越す大作。ギター・ソロでは、流れるようなミュート奏法の速弾きを披露する。こういった弾き方は、正確なピッキングが要求され、左手だけで弾くことに慣れたヘヴィメタ系のギタリストには、できない芸当だ。また、ピッキング位置も微妙に変えて、トーンを変化させることにより、細かいニュアンスまで伝えようとしているのがわかる。D-1とD-2はセッションによるオマケ・テイクだが、CD盤ではD-2が省略されている。もともとオマケなので無くても大きな影響はないが、やはり元のレコードより曲が少ないというのは寂しい限りだ。1枚に無理矢理詰め込まなくてもよかったのではないだろうか?中途半端に1曲だけ入れるのなら、ヴォルテージが最高潮に達したC-2で終わっていた方が、まだアルバムとしてのまとまりはあったような気がする。CD化に対して、もうひとこと言わせて貰えば、ジャケットがあまりにもお粗末。LPでは地がシルヴァーで印刷されていたが、CDでは、ペラペラの紙にただのグレー印刷。もう少しなんとかならなかったものか・・・・。
いずれにしても、スタジオ・レコーディングでは決して味わうことが出来ない、ロリー本来の魅力を充分に伝えるライヴ・アルバムの傑作。ロリーの音楽には、オーヴァーダビングもエフェクターもまったく必要ない。ありのままを伝えるライヴが一番の演出なのだ。(HINE)