サイケデリックのラストヒーロー
ホークウインドは60年代終わり頃、英ロンドンのラドブローク・グローブでヒッピーの間から産まれた6人編成のバンド、グループXが前身だった。
オリジナルメンバーは、
Dave Brock デイヴ・ブロック/ギター、ヴォーカル
Nik Turner ニック・ターナー/サックス、ヴォーカル
Mick Slattery ミック・スタットリー/リード・ギター
Dik Mik ディック・ミック/エレクトロニクス
John Harrison ジョン・ハリスン/ベース・ギター
Terry Ollis テリー・オリス/ドラムス
その後ホークウインドZooと改名した彼らはさっそくレコード会社と契約を交わした。彼らのデビュー・アルバムは1970年プリティ・シングスのギタリスト、ディック・テイラーによってプロデュースされ、早くも脱退したスタットリーに代わり、ギターにHuw Lloyd Langtonヒュー・ロイド・ラントン(g)を迎えてレコーディングされた。
この後幾度となくメンバーチェンジを繰り返しながら、もう1枚アルバムをリリースし、1972年には最強メンバーで全盛期を迎える。その時のメンバーは、
Dave Brock デイヴ・ブロック/ギター、ヴォーカル
Nik Turner ニック・ターナー/サックス、ヴォーカル
Del Dettmar デル・ダトマー/キーボード
Lemmy レミー/ベース・ギター
Simon King サイモン・キング/ドラムス
Stacia ステイシア/ダンサー
Robert Calvert ロバート・カルヴァート/ヴォーカル(詩人)
一時メンバーだったSF小説作家Michael Moorcockマイケル・ムアコックは気まぐれで、ホークウインドのいくつかのコンサートに出演し、アルバムへも何曲か参加していたが、詩人のロバート・カルヴァートが度々代理をしているうちにリードヴォーカルの座を奪われた。
この頃のバンドのSF小説イメージは、「In Search Of Space」と「Space Ritual」のタイトルとして強調されていた。
1972年、彼らは全英3位となる「シルヴァー・マシン」のヒットで一躍有名になる。だが、続くシングル「Urban Guerilla」はロンドンでテロリスト撲滅キャンペーン中に早まってリリースしたため、急遽回収され、連続ヒットの道は絶たれてしまった。ここから良くも悪くも彼らの日陰のヒーロー的イメージが定着してしまったわけだが、その後も活動は順調に行っていた。
そして、1975年レミーがアメリカ・ツアー中にドラッグで逮捕されたのを機にメンバーの大幅なリストラも敢行していくことになる。
まずレミーはそのままクビにし、ベーシストPaul
Rudolphポール・ラドルフが加入。ダトマー(key)はSimon Houseサイモン・ハウスに交代。サイモン・キングが怪我の間代理をしていたAlan Powellアラン・パウエル(ds)も正式に加入した。ちなみにレミーはこの年にモーターヘッドMoterheadを結成している。
このメンバーチェンジの結果はさっそくプログレ色が強まったサウンドに現れた。
ところが、77年にリリースした次のアルバム「Astounding Sounds, Amazing Music」を最後に、オリジナル・メンバーであるニック・ターナーまでも新加入のラドルフとパウエルとの諍いを理由にクビを宣告され、新人2人も脱退。ついにこの年、バンドは解散に追い込まれてしまう。
解散後、 サイモン・ハウスはデビット・ボウイ・バンドへ一時加入。だが、すぐにブロック、カルヴァート、サイモン・キングと共に、複雑な契約から合法的に逃れるためにHawklordsという名前で活動を再開した。その後、グループ名は1979年カルヴァートがソロシンガーとなった時に元のホークウインドに戻している。この時のメンバーは、
Dave Brock デイヴ・ブロック/ギター、ヴォーカル
Harvey Bainbridge ハーヴェイ・ベインブリッジ/ベース・ギター
Simon King サイモン・キング/ドラムス
Huw Lloyd Langton ヒュー・ロイド・ラントン/リード・ギター
Tim Blake ティム・ブレイク/キーボード、ヴォーカル
尚、カルヴァートは88年に他界している。
80年代に入ると、ブロック、ベインブリッジ、ラントンの3人を核にしながら、メンバーがまた入れ替わり立ち替わりした。ニック・ターナーやムアコックも再び現れ、たびたびゲスト参加している。
一時はあのCREAMの大物ドラマー、Ginger Bakerジンジャー・ベイカーを起用し、アルバム「Levitation」も発表するのだ。聞いてみると、さすがにベイカーはこのバンドにはもったいないほど上手いが、リズムがピリッと引き締まり、個人的にはこのアルバムなかなか良いと思う。だがこの年行われたツアーを最後に結局彼は1年で脱退してしまう。
1990年彼らはサイモン・ハウスをヴァイオリンに再起用、新加入でドラムのRichard Chadwickリチャード・チャドウィック、初の女性ヴォーカリストBridget Wishartブリジット・ウィスハートを加え、アルバム「Space Bandits」をリリースした。
これが、当時流行りだしたレイブ(rave)・カルチャーの成長と昔の彼らを知らない若者達の興味で突然売れ出した。まあ、それ無しにも、このアルバムはポップな要素もあって比較的聞きやすく、なかなかの名盤なのだが・・・。
再びロック界の表舞台に舞い戻った彼らは、1992年アメリカンツアーでの成功をも手中にした。
だが、それもつかの間、本国へ戻ってきたときには、結局ブロック、リチャードとAlan Davyアラン・デイヴィー(b,vo)の3人になっていた。
その後ブロック、リチャードの他、Ron Treeロン・ティー(b,vo)、Jerry
Richardsジェリー・リチャード(g,key)、Capt. Rizzキャプテン・リズ(vo)、Crumクラム(key)というメンバーになったが、99年にはブロックとニック・ターナーの2人だけでホークウインド名義のアルバムをリリースしている。
自ら「サイケデリック最後のヒーローだ」と言ってのけるくらい、初期のホークウインド・サウンドはサイケっぽく、わけのわからない効果音がギンギンに唸っていた。しかし、イギリス出身ということもあって、アメリカのバンド達とは少し違った要素も持ち合わせていた。ヴォーカルにSF作家や詩人を起用したり、トータル・コンセプト・アルバムを作ってみたり、また、スペース・サイケデリック・ロックと言われていたことからも分かるとおり、リバーブを多用した宇宙的な広がりを感じさせるサウンドが特徴でもあった。全盛期の70年代中期にはメタル・ファンのカリスマ、レミーの加入もあって、ハードロック寄りなサウンドが多かった。レミー脱退後はピンク・フロイドのデイヴ・ギルモアがミキサーを担当するなど、プログレ路線にシフトしてゆく。そして迷える80年代は、メンバーも代わればサウンドもコロコロと変わった。
90年代には突然の最前線復帰によって、一時レイブ・カルチャーの影響を受けた売れ筋路線に走るが、自分たちのオリジナリティーを再確認し、また元のスペース・サイケっぽいサウンドを現代調にしようと模索している。
サイケ時代のヒーロー達が次々と去っていく中、彼らにはいつまでも末長く生きて活動していってもらいたいものだ。(HINE) 2002.9更新
もっと詳しく知りたい方は→参考サイト:Hawkwind
Daze
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