HARD STUFF ハード・スタッフ

メンバー

John Cann ジョン・カン/ギター、ヴォーカル、チェロ
John Gustafson ジョン・ガスタフスン
/ベース・ギター、ヴォーカル、キーボード
Paul Hammond ポール・ハモンド/ドラムス

知る人ぞ知る、陰のスーパー・グループ

 ハード・スタッフは、元アトミック・ルースターカン(別名ジョン・デュ・カン)とハモンドの2人が、元クォターマスガスタフスン(グスタフスンとの表記もあり)と出逢い、1972年に英ロンドンで結成された。元々はBulletというバンド名だったがアメリカで同名のバンドがいたことから、デビュー前に改名したようだ。
 ガスタフスンがクォターマス以前に在籍したバンドEpisode Sixには、あのディープ・パープルのイアン・ギランとロジャー・グローバーもいた時期があり(ガスタフスンは彼らの後釜に加入してきたのだが、クォターマスでいっしょだったミック・アンダーウッドが2人とデビュー当初からいっしょにプレーしていた)、パープル・ファミリーたちとも親密な関わりを持っていたようで、彼らのデビュー・アルバムは、発足間もないパープル・レコード(ディープ・パープルが設立したレーベル)からリリースされた。
 ハードスタッフのサウンドはハードロックの王道を行くもので、ギター中心のスピード感、重厚感、大音量を兼ね備えていた。しかし、普通のロックが、ブルースやR&B、R&Rなどをブレンドし、きれいに精製されたサウンドに聞こえるほど、彼らのロックは粗挽きで剥き出しのサウンドだ。
 極めてシンプルでもあり、パープルなどよりも数段ワイルドなのだが、よく聞くと3人ともスゴテクで、クォターマスで緻密なサウンドを創ってきたガスタフスンや、プログレとハードロックの狭間にいたカンとハモンドのセンスも随所に光っている。察するに、わざと狙って荒削りな音を出していたのだろう。
 とにかく、彼らの音を聞いていると、そんな細かいことはどうでもいいと思えるほど文句なくかっこいい!まずはこんな文章を読む前に聞いてみて欲しいのだが、もう読んでいるのだからしょうがない。「これぞハードロック」というサウンドを聴いてみたければ、すぐにでも彼らのファースト・アルバムを捜し出して購入することをお勧めする。
 そのデビュー・アルバム「Bulletproof」では、D・パープルのイアン・ギランとロジャー・グローバーが1曲ガスタフスンと共作しているのも注目だ。この「モンスター・イン・パラダイス」という曲は、ハードポップ風な、なかなか良い曲だ。もちろん他の曲もすべて良いのはいうまでもない。しかしながら、発足当時のパープル・レコードに宣伝力がなかったためか、このアルバムはまったくヒットせず、あろうことか日本では発売さえされなかった。
 この後73年に彼らはもう1枚、やはりパープル・レコードから「Bolex Dementia」というアルバムをリリースしたが、こちらはストレートなハードロック一辺倒だった1st.とは違って、良く言えば音楽的には広がりをみせ、悪く言えば散漫な内容になった。いずれにしろ、曲の良さは1st.にかなうものではなく、あまりお薦めはできない。
 彼らはこの年、キャプテン・ビハーフ&ヒズ・マジック・バンドの前座として、いっしょにUKツアーも敢行したのだが、あまりに音楽性が違いすぎて、ビハーフのファンにはまったく受け入れたられなかったようだ。そして、そのままイギリスでも芽が出ることなく73年に解散してしまった。
 ガスタフスンはその後、スペンサー・デイビス・グループビッグ・スリーロキシー・ミュージックなどを渡り歩き、セッションマンとしても、かなりの仕事をこなしている。75年にはソロ・アルバムをリリースすると共に、イアン・ギラン・バンドへオリジナル・メンバーとして参加。78年まで在籍し、その後はスタジオ・ミュージシャンやソング・ライターとして活躍している。82年にはステイタス・クオーの「ディア・ジョン」という曲をかき、全英10位のヒットも記録している。
 カンは元々のJohn Du Cann(ジョン・デュ・カン)という名前に戻し、シンリジィに曲を提供したり、1979年ソロで“Don't Be A Dummy”のスマッシュ・ヒットを放っている。勢いを買って同年ハモンドらと共にアトミック・ルースターを再結成するが、うまくいかず、意気消沈して自ら脱退。その後は音沙汰がなかったが、最近は自分の関わったレコードを発掘音源として再リリースすることに燃えているようだ。
 ハモンドはカンが脱退後もアトミック・ルースターに残り、82年に1枚のアルバムを残すが、そのままバンドは解散。その後、またカンから誘いが来るのをずっと心待ちにしていた言われるが、93年に薬物の多量接種により帰らぬ人となってしまった。

 ハードスタッフとしての2枚のアルバムは、日本では発表当時正式リリースされていない。では、なぜ彼らの存在を知ったかというと、当時のFM放送番組「ヤング・ジョッキー」で、かの音楽評論家、渋谷陽一氏がファースト・アルバムの「タイム・ギャンブラー」と「モンスター・イン・パラダイス」を流したからだ。それがきっかけでかなり話題となり、輸入盤はかなり出回っていたように記憶している。当時、なぜこんなにかっこいいバンドが日本盤で出ないのか不思議でしょうがなかった。
 CD化も83年にはされていたものの、日本盤のリリースは長い間見送られつづけ、90年頃になってようやくファースト・アルバムのみドイツ盤に日本語の解説書をつけたCDがリリースされた(上の写真のもの)。だが、それも少量のプレスでその後ずっと廃盤状態のままだった。そして2003年、ようやくUK盤で1st.と2nd.が共に再リリースされ、日本へも輸入盤として少量だが入荷された。ところが、この情報を聞きつけ喜んで2枚同時に購入し聞いてみると、1st.アルバムは最後の曲が途中でプッツりと切れている、なんともお粗末なCDで、即返品した。2nd.は別状問題はないが、音が良くなっているわけでもなし、ジャケットも簡素な2ッ折りで、中には販売元のRed Fox Recordsの宣伝がなされているだけだ。一刻も早くリマスターした完全版を再度リリースして欲しいところだ。
(HINE) 2004.11更新

資料&情報協力:PAGE FULL OF JIMI 下坂さん


バレット・プルーフ
Bulletproof

ハード・スタッフ
Hard Stuff

1972年 Purple Records/EMI

SIDE-A

1.ジェイ・タイム
 
Jay Time

2.シニスター・ミニスター
 
Sinister Minister

3.ノーウイッチ・アット・オール
 
No Witch At All

4.テイクン・アライヴ
 
Taken Alive

5.タイム・ギャンブラー(ロドニー)
 Time Gambler(Rodney)

SIDE-B

1.ミリオネイアー
 
Millionaire

2.モンスター・イン・パラダイス
 
Monster In Paradise(*)

3.ホーボー
 
Hobo

4.ミスター・ロンジヴィティ -RIP
 
Mr Longevity-RIP

5.ザ・プロヴァイダー(パート1)
 
The Provider-Part One

*Gustafson/Gillan/Glover

 ハードロックの語源が「ハードとしか言いようのないロック」なら、彼らこそ最もそこに位置するバンドだろう。ヘヴィメタルとは一線を画す彼らのサウンドは、個人的に究極のハードロックだと思う。「音楽性とかテクニックとか、そんなものはどうでもいい、とにかく俺たちは大音量で好きにやるぜぃ!」とでも言いたげな音だ。だからといってパンクのような3コードで叫んでいるだけでは決してない。メンバー3人共が、すでに過去に在籍したバンドやスタジオ・ミュージシャンとして素晴らしい実績を残し、上手いとの評価を受けている面々なのだ。いくらラフにプレーしようとも、そんじょそこらの野郎どもよりは数段上手い。しかも本人達は意識していないのかもしれないが、様々なジャンルの音楽からのインフルエンスが、至る所にちりばめられている。それは、ブルースやロックンロールはもとより、R&Bやジャズ、ファンク、プログレ、ビート・ポップ、時にはクラシックやフォーク、ジャーマン・ロックにいたるまで(このアルバムではほとんど感じられないが、2nd.ではこれらの影響もかなり感じ取れる)発展してゆく。だが、彼らはそれを大仰なアレンジや緻密な計算による音密度として表現することなく、シンプルでストレートなハードロック・サウンドの中に封じ込めているのだ。ある意味、当時流行していた様式美追求型のハードロックとは対局に位置するものであったかもしれない。しかし、このかっこよさは、不変の輝きを持ち、いつの時代に聞いてもきっと褪せることはないだろう。事実、発売当時からレコード・ジャケットがボロボロになるまでこのアルバムをずっと聞きつづけ、CD化に驚喜してからも、今まで飽きて聞かなくなったことは一度もないのだから。(HINE)

Bolex Dementia

1973年 Purple Records/EMI

SIDE-A

1.Sick N' Tired

2.Mermany

3.Jumpin' Thumpin'(Ain't That Somethin')

4.Dazzle Dizzy

5.Bolex Dementia

SIDE-B

1.Roll A Rocket

2.Libel

3.Ragman

4.Spider's Web

5.Get Lost