ERIC CARMEN エリック・カルメン

70年代ポップ・ロックを代表するメロディ・メーカー

1949年、米オハイオ州生まれ。本名エリック・ハワード・カルメン。
6歳の頃より、ヴァイオリン奏者だった叔母の影響でクラシックを学び、11歳からピアノも弾き出す。その後音楽学校で学ぶが、理論優先のクラシックに嫌気がさし、興味はロックへ移っていった。そんな彼がプロ・デビューを果たしたのは、1969年サイラス・エリーというバンドの一員としてだった。しかし、当時はあまりぱっとせず、脱退してソロに転向したり、クイックというバンドを結成したりして、3年あまりを過ごした。
転機となったのは、1971年RASPBERRIESラズベリーズを結成し、名プロデューサー、ジミー・イエナー(GFRキッス、スリー・ドッグ・ナイトなどのプロデュースが有名)のもとレコード・デビューを飾ってからのこととなる。ラズべリーズのメンバーは、
Eric Carmenエリック・カルメン(ギター、ベース、ピアノ)
WALLY BRYSONウォリー・ブライソン(ギター)
DAVE SMALLEYデイヴ・スモーリー(ギター、ベース)
JIM BONFANITIジム・ボンファンティ(ドラムス)
の4人で、セカンド・シングルの「ゴー・オール・ザ・ウェイ」がミリオン・ヒットとなり、一躍全米で注目を集めるようになった。その後も順調にヒットを飛ばすが、73年にはデイヴとジムが脱退し、代わりにSCOTT McCARLスコット・マッカール(ベース、ギター)とMICHAEL McBRIDEマイケル・マクブライト(ドラムス)が加入している。しかし、ほとんどの曲を作り、演奏し、唄う、エリックひとりに負担がかかり、メンバー間のバランスを崩して、74年解散に追い込まれてしまう。

75年ソロとなったエリックは、あの不滅の名曲「オール・バイ・マイセルフ」でデビューし、いきなり大成功をおさめた。つづいて76年にも「恋にノータッチ」を大ヒットさせ、人気を不動のものにした。それから80年までの間、数々のヒットを生み出すが、レコード会社と出版社との間でトラブルを起こし、裁判にまで発展する事件となる。
この事件に関しては、詳細は明らかにされていないが、アルバムを売ることだけを考えているレコード会社が、無理やり他人の曲を唄わせようとしたり、売れっ子プロデューサーを連れてきたりしたため、エリックと衝突したということのようだ。
この問題で、すっかりやる気を無くしたエリックは80年の「Tonight You're Mine」を出した後、しばらく目立った活動はしていない。
もともと、天才肌のアーチストというのは、完璧主義者が多く、なかなかアルバムを出さないケースが多い。ボストンのトム・シュルツしかり、ボビー・コールドウェルしかり・・・。そして、エリックもまた、その1人といえよう。
再び、エリックが目の前に現れたのは、映画「フット・ルース」の挿入歌で大ヒットした、パラダイス〜愛のテーマ(マイク・レノ&アン・ウィルソン)の作曲家としてだった。このハードロッカー2人(マイク・レノはラヴァーボーイのヴォーカル、アン・ウィルソンはハートの女性リード・ヴォーカル)がデュエットする極上のバラードは、鳥肌が立つぐらい素晴らしかった。その直後に4年ぶりの新作「エリック・カルメン」を出すも、またも沈黙に入ってしまう。
それから、途中、ジミー・イエナーの頼みで渋々他人の曲を唄った「ハングリー・アイズ」が大ヒットしたりもしたが、オリジナルとしては、98年実に14年ぶりでニュー・アルバムをリリースするというマイ・ペースぶりで今日に至っている。尚、このアルバム実は2年前にはできていたという話だ。

ディスコグラフィー

●ラズベリーズ
1972年 RASPBERRIES(ラズベリーズ)
1972年 FRESH(明日を生きよう)
1973年 SIDE 3(サイド3)
1974年 STARTING OVER(素晴らしき再出発)
1976年 RASPBERRIES'BEST FEATURING ERIC CARMEN
1991年 THE RASPBERRIES 〜 CAPITOL COLLECTIONS SERIES
1995年 GREATEST HITS



Raspberries
Capitol/EMI

Fresh
Capitol/EMI

Side 3
Capitol/EMI

Starting Over
Capitol/EMI

●ソロ
1975年 ERIC CARMEN(サンライズ)
*名曲「オール・バイ・マイセルフ」のロング・ヴァージョンが入っている永遠の名盤。
1977年 BOATS AGAINST THE CURRENT(愛をくれたあの娘)
*ほぼ前作のサウンドを継承した内容
1978年 CHANGE OF HEART(チェンジ・オブ・ハート)
*格段に音のスケールが大きくなり、プロデューサーとしての成長ぶりも顕著
1980年 TONIGHT YOU'RE MINE(トゥナイト・ユー・アー・マイン)
*ゲストにジェフ・ポーカロやカーマイン・アピスを迎えた力作
1984年 ERIC CARMEN(エリック・カルメン)
*75年のものとは英題は同じだが別物。フット・ルースのサントラに漏れた曲も収録
1988年 THE BEST OF ERIC CARMEN *大ヒット曲「ハングリー・アイズ」を含むベスト盤
1997年 THE DEFINITIVE COLLECTION 
*アメリカで発売されているベスト
1998年 WINTER DREAM(夢の面影)
*英・米では「I Was Born To Love You」というタイトルで2年後にリリース。ジャケ写も違う


Eric Carmen
Arista

Boats Against The Current
Arista

Change Of Heart
Arista

Tonight You're Mine
Arista

I Was Born To Love You
USA盤Pyramid

日本で手に入るアルバムは、ラズベリーズのベスト盤とソロ第1作目の「エリック・カルメン」、88年の「ベスト・オブ・エリック・カルメン」、そして98年発売の最新作「夢の面影」のみだったが、最近になってArista時代のものはCD化され、大手のお店で手に入る。
またラズベリーズのオリジナル・アルバムも再リリースされたようだ。
残るgeffinの「エリック・カルメン」は輸入盤ではあるのだが、中古レコードでまだ4,500円で売られているところをみると、かなり品薄なのだろう。しかし、先日新宿のタワーレコードで発見!なんとこんな名盤CDが1,100円で売られていました(^_^;

サウンド傾向など

エリック・カルメンはよくポップス・シンガーと思われがちだが、アルバム全体を聞いてみると、正真正銘のロック・アーチストだということが分かる。
確かにヒットチャートでの彼は、バラード曲も多く、何よりオール・バイ・マイセルフ=エリック・カルメンというイメージが定着してしまっているが、全楽曲を眺めまわしてみると、ノリのよいポップなロックンロールも多く、特に初期はほとんどこのタイプの曲だ。
彼が作る曲のメロディーの良さは、やはり若年期に学んだクラシック音楽の影響が強い。そこへ、彼がもともと好きなロック(とりわけビートルズやローリングストーンズ、ビーチボーイズの影響が強い)のノリが加わり、ポップ・ロック風なエリック・カルメン・サウンドを確立させている。
また、彼は作曲家やシンガーとしてはもとより、プロデュースや、ほとんどの楽器も1人でこなしてしまうほどの才人でもある。したがって、ゲスト・ミュージシャンもジェフ・ポーカロカーマイン・アピス等と超一流。
彼自身に言わせると、1にソングライター、2にプロデューサー、3にシンガーであり、何よりも曲をつくることが大好きなようだ。しかし、完璧主義者でもあり、他人に任せたり、他人の曲を使ったりできない悲しさもある。このことが、今まで数々のトラブルを引き起こす原因にもなってきたのだが・・・。
ともかく、何年かかろうとも、また鳥肌の立つほどの名曲をひっさげて帰って来る日を楽しみに待っていよう!(HINE) 
2001.5更新


◆◆◆ 名盤PIC UP ◆◆◆

ERIC CARMEN/ERIC CARMEN




1984年 Geffin/CBS Inc./SONY

SIDE-A

1. 噂の女
 I Wanna Hear It From Your Lips
2.アイム・スルー・ウィズ・ラヴ
 I'm Through With Love
3.アップル・パイ・アメリカン
 American As Apple Pie
4.想い遙か
 Living Without Your Love
5.カム・バック・トゥ・マイ・ラヴ
 Come Back To My Love

SIDE-B

1.感傷の終わり
 She Remenbered
2.オール・ザ・ウェイ
 You Took Me All The Way
3.メイビー・マイ・ベイビー
 Maybe My Baby
4.スポットライト
 Spotlight
5.あの頃の僕達
 The Way We Used To Be

なぜこんなに時間がかかったかというと、レコード会社との間でトラブルを起こし、すっかりやる気をなくしていたかららしい。
しかし、その休養が充電期間となり、その間に素晴らしい曲をたくさん作り上げていたのだ。
はっきり言って、このアルバムはあまり売れなかった。
だが、彼の作品の中でも一番バランスのとれた名盤で、個人的に彼のアルバムとしては最高傑作だとも思っているのだが・・・。
映画フット・ルース用に書き上げ、使わなかった曲も何曲か入っているというが、全体的に陽気なアメリカン・ポップとじっくり聞かせるバラードが交互に入っていて、実に聞きやすい。おそらくここに、フット・ルース〜愛のテーマ“パラダイス”を入れていれば、もっとヒットしていたのだろうが、あえてそれをしなかったことで、全体としてのまとまりが増している。

こんな素晴らしいアルバムは一刻も早く日本盤で再リリースしてもらいたいものである。