|
UK、そしてプログレとの出会い
私が高校三年生だった1979年の5月の終わり頃、学校の休み時間に教室でくつろいでいると、同級生だが他のクラスのU君が、興奮気味に息を切らし、私のいるクラスに飛び込んで来た。U君とは、高校の軽音楽クラブでハードロック・バンドを組んでいて、私がボーカル、彼がギター担当という関係であった。
|
John Wetton
|
ジョン・ウェットンは、キング・クリムゾン、ユーライア・ヒープ等に在籍、常に堅実かつハイセンスなベースラインを刻み、クリムゾンでのライブのインプロビゼーションなどでは、鷹が隠していた爪のごときハイレベルなテクニックをも披露する。また、ボーカリストとしても超一流で、テクニック志向で冷たい印象が否めないUKのサウンドの中にあっても、彼の歌声が唯一人間の体温を感じさせていた。複雑で変拍子だらけの曲でも、正確にベースラインを刻みながら、情感溢れるボーカルを表現できるあたりは、さすがの一言。かなりの日本びいきであるが、エイジア日本公演には同行せず、代役をグレック・レイクが務めていた。 |
Eddie Jobson
|
エディー・ジョブソンは、カーヴド・エアー、フランク・ザッパ・グループ、ロキシー・ミュージック等に在籍。オンコードを多用する彼の楽曲構成は、信じられぬ程の宇宙的なサウンドの広がりを表現する。キーボード・ソロにおいては、世界トップレベルのテクニックとセンスを確認でき、彼の奏でるヴァイオリンの調べも、ソフトでメロディアスなうえ、リズミカルで心地良い。UKサウンドの中では、エディーの音楽性が占める比率が最も高いと私は思っている。綺麗なブロンドヘアーをなびかせて、エレクトリック・ヴァイオリンを奏でる姿は、来日時女性ファンのハートをつかんで放さなかった。実は彼はUKで始めて、それまで未知数であった才能と実力を開花させた感がある。 |
Allan Holdsworth
|
アラン・ホールズワースは、テンペスト、ゴング、ソフト・マシーン等のロック系グループの他に、 トニー・ウィリアム、ジャン・リュック・ポンティーといったアメリカの一流ジャズメンとも活動を共にしてきた。いわばプロ好みの職人気質ギタリストで、一流ミュージシャンの間でひっぱりだこであり、実際、数多くのグループを渡り歩いて来た。しかし、何処に行っても自分のプレーと音楽性に満足せず、ついには、マイナーレーベルより、自主製作のアルバムを出すに至る。UKにおいては、アメリカのジャズ畑でのレコーディングを経験しているからか、ギターパートだけを後から個別に録音する方法などに疑問を持ち、また、商業的にビッグ・セールスを狙う姿勢にも同意できず、ファースト・アルバムのみの参加で脱退してしまう。彼のソロ・フレーズは、ホールトーン・スケールを程好く絡めた、独特で不思議なサウンドで、後に彼がフリージャズを極めていくうえでも効果的な音使いであったといえる。余談だが、某音楽雑誌が世界一の早弾きギタリストは誰か?というテーマで色々と分析した結果、フレーズの難しさや正確さ等を加味すると、アラン・ホールズワースこそがギタリストの早弾き世界一であると確定した。エドワード・ヴァンヘイレン、ジョージ・ベンソンといったロック界、ジャズ界、屈指のトップギタリストが、尊敬する同業者としてホールズワースの名を挙げている事でも、その実力を窺い知る事ができる。 |
Bill Bruford
|
ビル・ブラッフォードは、創世期のイエス、円熟期のキング・クリムゾン等に在籍。プログレ界、いや、ロック界ナンバーワンの重鎮である。彼のドラムという楽器に対する取り組みは実に素晴らしく、常に新しい試みを加えようとする姿勢がある。まさにプログレッシブ(進歩的)ドラマーである。彼のドラミングの醍醐味は、これでもかというくらい複雑で奇抜な変拍子を多用する所。空気を切り裂くようにスコーン、スコーンと決まり、快感さえも覚えてしまうスネアの音、リズム・パターンを明示し、聴くものを複雑な変拍子であるにも関わらず、のせてしまおうとナビゲートするバスドラム。そして、ここぞという時に聴かせる、独特で鳥肌が立つくらい絶妙なタイミングのハイテクニックなフィルイン。彼は、よりジャズ志向の強い音楽性を求め、ホールズワースと共にファースト・アルバムのみの参加でUKを去ってしまう。 |
彼等4人がUKのオリジナルメンバーである。 ファースト・アルバムのみの参加で脱退したアランとビルは、UK参加前に立ち上げかけ、ビルのソロ・アルバムという形で作品も出していた『ブラッフォード』というグループを正式に結成するも、ここでもアランは長続きせず、更なる音楽の進歩を求めグループを離れる。 |
|
Terry Bozzio
|
テリィー・ボジオは、セカンドアルバムより参加。もともとは本場アメリカのジャズ、フュージョン畑で活躍していた。UKに参加する少し前に発売されたブレッカー・ブラザースの『ヘビーメタル・ビ ィ・バップ』というアルバムは、私の超お勧めであり、彼の壮絶なドラミングを全編で聴く事ができるファンキーなフュージョン・アルバムである。ビルのドラムが空気を切り裂く心地良さを与えてくれるなら、テリィーのそれは、まさに大地を揺るがすような、重厚さによる興奮を与えてくれる。フランク・ザッパ・グループに在籍していたこともあり、譜面に滅法強いドラマーでもある。楽曲のコンセプトに対する理解力が抜群で、全てのコンビネーションやオカズが作品の一部として成り立っている。まるで歌を唄うかのようなドラムフレーズなのだ。また、タムとスネアを行き交う連打のスピードと正確さは世界一であろう。UK解散後は、ミッシング・パーソンズという、自分のワイフがリード・ボーカルを務めるニューウェーブ系のバンドを結成し活動していた期間もある。現在は、一流ミュージシャン達のプロジェクトに次々と参加する等、世界ナンバーワンのセッション・ドラマーであり、依頼主のニーズに確実に応えられる世界一の職人でもあろう。実際にUKのライブを生で見たU君は、あまりにドラムが凄いので、ついついテリィーに目がいってしまったという。あの複雑でテクニカルなドラム技を繰り広げながら、物凄いオーバーアクションで見る者を惹きつけるのだそうだ。彼は本物のエンターテイナーである。 |
UKのサウンドと作品 ドラマーが叩き出す複雑で高度な変拍子を多用した、スピード感と緊張感がみなぎるリズム・パターン。重低音を帯びたベースラインは常に適切で、心地良くサウンドの骨格を形作る。 そこに、キーボードの分厚い膨らみのあるファンタスティックな和音がかぶさり、まるで宇宙の果てまで広がって行ってしまうような、荘厳なスケールのアンサンブルを構築する。そして、情感溢れ、温かみの有る歌声が、一見すると無機質で冷ややかな感のある空間をタイミング良く和らげ、人の体温と息吹を与える。 |
UK(1978)
|
1.In The Dead Of Night 5:36 2.By The Light Of Day 4:40 3.Presto Vivace And Reprise 3:06 4.Thirty Years 8:02 5.Alaska 4:38 6.Time To Kill 5:00 7.Evermore 8:09 8.Mental Medication 7:24 |
1曲目から3曲目までは組曲となっている。1曲目のIn The Dead Of Nightは、4人組みUKの代表作と言ってもいい曲で、プログレ的なテクニカルな部分と、軽快ではつらつとしたポップ的要素が同居している。これがUKだ!と言える名曲である。7/8拍子を基本としているが、リズムセクションもリフもメロディーも、違和感無くスムーズに流れていく。彼等の作曲センスは桁外れである。 Presto Vivaceはスーパーテクニカル集団の本領発揮とも言える曲で、複雑なドラムパターン、ポイントを的確に極めるべース、そして、エディーとアランの超ハイスピードのユニゾン。思わずため息が出てしまう超絶プレイだ。 Alaskaはエディーの真骨頂とも言うべき曲で、重厚で荘厳かつハイセンスな、サウンドの芸術であり、彼の音作りに対する優れた才能を確信できる。 そして、Alaskaから勇壮なTime To Killへとなだれ込んでいくのだが、まさに4人の勇猛果敢なミュージシャン(憂国の四士)が挑む、懇親のスペクタクルである。 |
DANGER MONEY(1979)
|
1.Danger Money 8:15 2.Rendezvous 6:02 5:02 3.The Only Thing She Needs 7:56 4.Caesar's Palace Blues 4:46 5.Nothing To Lose 3:56 6.Carrying No Cross 12:23 |
前作に比べるとポップ性が増したのは間違い無い。ただ、楽曲の完成度とクオリィティーの高さは、 確実にアップしている。 タイトルチューンのDanger Moneyは、広がりまくるキーボードの和音と重低音のベース、正確にビートを刻むドラムのイントロから始まり、比較的ポップなボーカルの主題へと移行し、中間部では、あのクリムゾンの「レッド」を彷彿させる、コントラバスの音色のような重厚なベース・フレーズを聴くことができる。実に計算されたドラマティックな楽曲構成である。 Rendezvous 6:02とNothing To Loseは、このアルバムの中でも特にポップだが、どちらもまとまりのある秀作である。 Caesar's Palace Bluesは、ツインバスを駆使した手足のコンビネーションが凄まじい、ヘビーでいてスピード感をも併せ持つテリィーのドラム、そしてエディーのバイオリンのテクニックと音使いのセンスを堪能できる曲。 The Only Thing She Needsは、私がUKで最も好きな曲である。とにかく3人全員が凄まじすぎる。こんなにも難解で複雑な曲を、良くもまあこうも攻撃的に、クールに、完璧に演奏できるものだ。 |
NIGHT AFTER NIGHT(1979)
|
1. Night After Night 4:48 2. Rendezvous 6:02 5:12 3. Nothing To Lose 5:05 4. As Long As You Want Me Here 5:00 5. Alaska 4:15 6. Time To Kill 4:07 7. Presto Vivace 1:03 8. In The Dead Of Night 5:59 9. Caesar's Palace Blues 4:18 |
UKのあのハイレベルな楽曲の数々は、ライブにおいて臨場感とスピード感が加味され、全てがスタジオ盤を越えるレベルに達していた。このライブを聴くと、3人の演奏能力の高さに感服せざるを得ない。 Presto Vivaceも、「よくこの“ブッ叩き方”でビルのリズムパターンをこなせるものだ」と感心してしまう。オープニングのNight After Nightと4曲目のAs Long As You Want Me Hereは、このツアーに合わせて作られた新曲であり、特にNight After Nightは名曲である。いきなり壮絶なドラムの連打とキーボードの早弾きのユニゾンによるイントロからはじまる。エディーのフレーズは、きらめく宝石のごとく、一粒一粒の音が輝いているし、テリィーの連打も高性能のマシンガンのごときスピードと正確さで、タムからタムへと移動する。びしっと要所を締めるジョンのベースも心地良い。 イントロの後はミディアムテンポの本編へと移行していくが、実に都会的で洗練されたUKの到達点を思わせる優れたナンバーだと思う。 この日本でのライブアルバムを最後として、UKは解散してしまう。今、このアルバムの中の 「キミタチ、サイコダヨ 」と言うジョンの言葉を聞くと、つい熱いものがこみ上げてくる。 |
1.Alaska, Pt. 1 1:33 2.Alaska, Pt. 2 7:16 3.Time to Kill 7:21 4.Carrying No Cross 9:56 5.Thirty Years 10:05 6.In the Dead of Night 7:50 7.Caesar's Palace Blues 4:23 |
|
はっきり言ってブートレベル、それも中の下ぐらいのブートだ。ライン録音ということで、客席にてカセットレコーダーで録音したブートよりはもちろん音は良いが、彼等の“アルバム”としては評価しない方が良いだろう。演奏面では、ホールズワースのミストーンが多く、ブラッフォードは身体の具合でも悪いのか、リズムもメタメタでキメも外すし、何より全体的なテンションが低すぎる。ウェットンのボーカルも出だしからボリュームがオフ気味で、ミキサーが途中あわてて調節し、バランスを合わせるみたいな部分もある。発売権のいざこざで廃盤になったようだし、この作品?のリリースはメンバーの本意では無いのだろう。 だが、4人組U.K.のライブが、いつもこのレベルなわけではない。このCDと一緒に入手することができた、同メンバーによる同時期のブート作品に収められているプレイは、凄まじい程のハイレベルで、4人の実力が充分に発揮されているものであった。ブートということで、100%無修正の彼等の極上のステージを満喫できるうえ、それはナイト・アフター・ナイトと同格の演奏クオリティーなのである。こちらを、正規のライブ・アルバムとしてリリースできたら、ファンは大喜びであろうに。 |