一度見たら忘れない、へんなおじさんの顔が描かれたジャケット。古くからのロック・ファンなら誰でも一度は目にしたことがあるだろう。
しかし、まともに実際の音を聴いたことがある人はそう多くないはず。
それは今ひとつパッとしないセールスが何より物語っている。何を隠そうこれをかいている自分自身、聞き始めたのは近年のことだ。それ故プログレ・マニアの方とは少々違った見解をGGに対して持っていると思うが、へんな思い入れがない分、ニュートラルな耳で全作品に接することが出来るというのも、へんな理屈だろうか?
1969年にイギリスで結成されたジェントル・ジャイアント(以下GG)の前身は、フィル、デレク、レイのシャルマン3兄弟を中心に活動していた、サイモン・デュプリー&ザ・ビッグ・サウンドというバンドで、67年に1枚だけ「ウィズアウト・リザヴェイション」というアルバムを発表している。オリジナル・メンバーは、
Derek Shulman デレク・シャルマン/ヴォーカル、ギター、ベース・ギター
Ray Shulman レイ・シャルマン/ヴォーカル、ヴァイオリン、ベース・ギター
Philip Shulman フィリップ(フィル)・シャルマン/ヴォーカル、サックス(シャルマン3兄弟の長兄)
Kerry Minnear ケリー・ミネア/キーボード(王立音楽院で学んだ音楽エリートで、実質上GGのサウンド・リーダー)
Gary Green ゲイリー・グリーン/ギター
Martin Smith マーティン・スミス/ドラムス(元サイモン・デュプリー&ザ・ビッグ・サウンドのメンバー)
翌70年に数々のマイナー有能バンドを発掘したことで知られるヴァーディゴ・レーベルと契約。さっそくこの年「ジェントル・ジャイアント」でアルバム・デビューした。セールス面ではまったく成功することはなかったが、このデビュー・アルバムは、早くも彼らの特徴である複雑な曲構成と転調・変拍子、曲芸的なマルチプレイヤーぶりを発揮し、評論家たちからは高い評価を受けた。
つづく71年発表の2作目「アクアリング・ザ・テイスト」と72年発表「スリー・フレンズ」では、ドラムがMalcolm Mortimoreマルコム・モルティモアに代わったものの、基本的には同じ路線で、やはり高い評価を受けながらまったくセールス面ではパッとしなかった。
この時点で、彼らは解散も考えたというが、73年ドラムに以降不動メンバーとなるJohn Weathersジョン・ウェザーズ(元アイズ・オブ・ブルー〜グラハム・ボンド・オーガニゼーション)を迎え心機一転。攻撃に転じたかのように、さらなるテクニカル集団と化し、変則リズムと曲芸的プレイ、繊細なコーラス・ワークを極めたアルバム「オクトパス」をリリースした。彼らは前作からアメリカ・デビューも果たしているが、このアルバムでは、ジャケットのデザインもイギリスではロジャー・ディーン、アメリカではジョン・バーグ(左写真)という力の入れようだった。(「スリー・フレンズ」にもジャケット違いがある)。だが、このアルバムもセールス的には今ひとつで、ヴァーディゴとの契約も切れ、フォノグラム傘下の新興レーベルWWAへ移籍、フィルも音楽ビジネスに疲れ脱退と、またまたピンチに陥る。しかし、アメリカではこのアルバムが発表された頃、ちょうどイエスやジェスロ・タルなどが爆発的なヒットを記録してプログレという音楽自体が注目されるようになり、GGの「オクトパス」もじわじわと評判になりはじめていた。
正念場を迎えたGGは、ここからすばらしいアルバムを連発し、以降根強い人気バンドとしての地位を確立する。まずは移籍後間髪を置かず発表された「ガラスの家(イン・ア・グラス・ハウス)」。このアルバムの出来は急ごしらえとは思えないほどすばらしく、それまでのテクニカルな面はそのままに、よりわかりやすいメロディーと、効果的なSE(Sound
Efect)などで一般のリスナーの心までもつかみ、初めてヨーロッパでヒット(英ではチャート・インなし)。当初契約の関係で発売されなかったアメリカでも輸入盤が飛ぶように売れたという。急いで作った分、肩の力が抜けコンセプチュアルになりすぎなかったのがよかったのかもしれない。また、日本でもこのアルバムがデビュー作となり、初版のみの特殊ジャケットがプレミアものになった。尚、2000年に出たデジタル・リマスター盤CDでも、この特殊ジャケットが忠実に再現されているため値段がかなり高いが、音もかなりよくなっているのでファンなら迷わず「買い」だろう。
つづく74年発表の「ザ・パワー・アンド・ザ・グローリー」では、アメリカン・マーケットも視野に入れたのか?プログレ・ハード的な味付けがなされこれが的中。全米78位まで上昇し、200位以内に13週間もチャート・インした。このアルバムは、間違いなくGGの代表作の1つと言えるのだが、2003年現在廃盤状態で日本では入手困難な状況だ。しかしながら、彼らのライヴ盤はかなりたくさん出回っており、このアルバムの曲は「プレイング・ザ・フール」や「トータリー・アウト・オブ・ザ・ウッズ」「キング・ビスケット・ライヴ」などでも聴くことが出来る。
ようやく活動が軌道に乗った彼らは、75年またもやクリサリスへと移籍する。そして75年、彼らの最高傑作と名高きアルバム「フリー・ハンド」をリリース。それまでの集大成とも言えるほどの完璧なるテクニカル・プレイとコーラス・ワーク、それにプラスしてポップになったメロディー・ライン。全体的にはハードさを押さえジャズっぽさが復活し、GGらしさが頂点を極めたと言ってもいいだろう。特に1曲目「Just the Same」と3曲目「Free Hand」のポップでジャズっぽいサウンドと、2曲目「On
Reflection」の巧みなコーラス・ワークはGGの独壇場、本当にすばらしい!当然このアルバムはヨーロッパやアメリカでも大ヒットした。
これらの大成功を受け、GGは75年〜76年にかけてヨーロッパ、アメリカ、カナダを回るワールド・ツアーへと旅立つ。そのツアーも各地で熱狂的な反響を呼び、その模様は「プレイング・ザ・フール」という2枚組のライヴ盤として、77年にアルバム・リリースしている。またこの頃から、彼らは活動拠点をアメリカへ移し、本格的にアメリカ進出をはかる。
その後も1年毎に着実にアルバムをリリースしてゆくが、しだいに彼らのサウンドは、アメリカ向きのよりポップなものへと変化する。プログレ・マニアからは評価が低いこの時期の彼らだが、もともとイギリスではなくアメリカで評価を受けたバンドであり(イギリスでは解散まで一度もチャート・インなし)、後期のサウンドの方がこのバンドの持ち味と独自性がよく表れている。それを今更初期の方が良かったというのは、ちょっと偏見がある見方ではないだろうか。売れればいいというものでもないが、多くの支持を得たという意味でも、アメリカ進出後の彼らの方がサウンド的に完成されていると言える。76年には「インタビュー」、77年には「ザ・ミッシング・ピース」、78年には「ジャイアント・フォー・ア・デイ」と、いずれもポップなメロディー・ラインとテクニカル・プレイの融合が本当にすばらしいアルバムをリリース。特にミッシング・ピースの1曲目「Two Weeks in Spain」やジャイアント・フォー・ア・デイの6曲目「Little Brown Bag」などは、GGらしさを生かしたハイテンポなテクニカル・ロック・ナンバーでかなりかっこいい。
しかし、時代はアメリカにもニュー・ウェイヴ・ブームなるモダン・ポップ・サウンド崇拝をもたらし、GGもまたそれに挑戦しようとした。シングルを連発した後、ラスト・アルバムとなってしまう「シヴィリアン」を80年にリリース。もはやプログレ色は完全に失せているが、シンプル&ハード・サウンドに、エレクトロ・モダン・サウンドをプラス、よく聴かないと分からないが、その中にはそれまで培ってきた高度な技術ももちろん内包されている。おそらくこのまま突き進めれば、ニュー・ウェイヴの大スター、ポリスのようなサウンドにまで到達していたことだろう。そういえば、なんとなくヴォーカルもスティングの声に似ていなくもない。とにかく今聴いても、このアルバムで示した彼らの新しい方向性は決して時代に取り残されたものではなく、充分に「イケてる」サウンドだった。
ところが、それは彼らが望んで進みたかった方向ではなかったらしく、しだいにやる気を失い、同80年解散を決意した。
解散後、ギターのゲイリーはセッション・プレイヤーとして、エディ・ジョブソンのソロ・アルバムへ参加するなど、今でも元気に活躍している。シャルマン兄弟のレイはイギリスへ戻り、プロデューサーとしてある程度の成功を収め、デレクはアメリカへ残り、レコード会社の幹部になりこちらもかなりの成功を収めている。実質上GGのリーダー的存在であったキーボードのケリー・ミネアやドラムのジョン・ウェザーズの消息は今のところつかめない。途中で脱退したフィル・シャルマンは以前やっていた教職に戻ったという話だ。
日本では主に解散後になってから再評価されたGGだが、何度も再発売が繰り返されているアルバムは初期のものばかりだ。プログレ・マニアによってあの難解な曲構成と曲芸的プレーが好まれているからであろう。もちろん初期のアルバムは、聴くほどにその良さがわかるスルメのようなアルバムであるのは承知の上で言うが、後期GGは一般のロック・ファンにも充分受け入れられる聞きやすい名作揃い。おそらくプログレ・ハードやアメリカン・プログレを好む層にも広く支持されるはずだ。ぜひこれら後期GGを一度聴いていただきたい!
・・・ところが、現在のところ後期GGは廃盤が多く、中古でも入手困難なものが多い。彼らのライヴはすばらしく、どれも価値あるものであることは分かっているが、やはりオリジナルがあってのライヴ。最近のライヴ・アルバムのリリース・ラッシュには少々うんざりするほどだ。ぜひとも「ザ・パワー・アンド・ザ・グローリー」以降のオリジナル・アルバムをデジタル・リマスターで発売してもらいたい。
(HINE) 2003.2
追記:後期GGファンに朗報!GG結成35周年を記念して、USデビュー以降のアルバムが続々とリマスターされ再発することとなった。特に中古でも品薄で高額取引されていた「The Power And The Glory」と「Free Hand」は、この機会にぜひ手に入れておきたい。ただし、「Free Hand」には微妙に手の形が異なるジャケ違い盤があるので、それを持っている方は手放さないよう注意していただきたい。
音源提供協力:「Do
You Know Them?」えさかさん、MIZOさん
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