ジャケットの名盤を手がけた著名アーチスト・ファイル

File No.9
JOHN KOSH ジョン・コッシュ

ジョン・コッシュは、60年代末期から80年代にかけ、ビートルズやイーグルスといった英米の大物アーチスト達のアルバム・ジャケットを次々と手がけ、グラミー賞も受賞している超売れっ子デザイナーであった。
ブック・デザイナーとして働いていたというコッシュが頭角を現すのは、ビートルズが設立したアップル・レコードで、クリエイティブ・ディレクターとして働くようになってからのことだ。当時24歳であった彼が最初に手がけたのは、ビートルズの「アビイロード」。しかし、ここには彼のクレジットは入っていない。デザイナーとしてコッシュの名を著名にしたのは、70年ビートルズの最後のアルバム「レット・イット・ビー」のジャケット・デザインを手がけてからのこと。以降、ブリティッシュ・ロックの名ジャケットを次々と発表していった。
75年にはロッド・スチュワートがアメリカ進出を果たすのと同調するようにアメリカへ渡り、ピーター・アッシャーという良きパートナーと共に、ウエストコースト系のアーチストをメインに活躍。アサイラム・レーベルを中心に、ジャンルを問わずアメリカのビッグ・アーチストの作品も数多く残している。彼はデザイナーとしての活動が多いが、フォトグラファー、アートディレクターとしての顔も併せ持つ。尚、70年代の終わり頃からは名前のクレジットを短く「KOSH」と変えている。
現在はロスに在住し、テレビ番組のタイトル・デザインなどを制作している。


Eagles/Hotel California
1976年 Asylum/WEA

The Beatles/Let It Be
1970年 EMI/Capitol/東芝EMI

King Crimson/Red
1974年 EG

Rod Stewart/Atlantic Crossing
1975年 Warner

Bad Finger/Bad Finger
1974年 Warner

T.Rex/Tanx
1973年 Mercury

The Who/ Who's Next
1971年 Track/Polydor

Humble Pie/Eat It
1973年 A&M

上にあるコッシュの代表作は、ご覧になってお分かりの通り、ロック界では屈指の名盤揃いだ。このことからも、如何に彼が業界内で信頼されている人物かを想像することができる。曲のイメージを最大限に表現したイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」、解散をイメージさせる黒を基調とし、それぞれの将来の活躍を暗示するように4人を別々の空間に閉じこめたビートルズ「レット・イット・ビー」、いかにも「大スター」をイメージさせ、全米制覇をも視野に入れたロッドの「アトランティック・クロッシング」など、別に奇抜なデザインでもないなのだが、妙に心を捉えて離さないものがある。それだけ深くリスナー達の心を読みとっているからだろう。例えばリスナー達は名曲「ホテル・カリフォルニア」を聞けば、間違いなくこういった南国リゾートっぽいホテルで、しかも薄暗いような感じを頭に思い浮かべるだろうし、「レット・イット・ビー」や「レッド」では、解散という悲しい現実を受け止めながら最後の名作を噛みしめ余韻に浸ったことだろう。こういったリスナー・サイドの気持ちをさらに増幅させるような効果的デザインなのだ。個人的に一番好きなバッド・フィンガーのジャケットでは、ポップで粋なバンドのセンスとイメージが一致する。
コッシュの手がけたジャケットには、グラミー賞を受賞したリンダ・ロンシュタットやキム・カーンズなどポップス系のアーチストの作品も多いが、エアロスミス、バッド・カンパニー、ELO、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ、REOスピード・ワゴン、W.A.S.P、エリック・クラプトンローリング・ストーンズ、ムーディー・ブルースなど、ロック系にかなりの作品を残している。
コッシュ・デザインの魅力の1つには、変形ジャケットもある。ファミリー、マーク・ボラン&T・レックス、リンダ・ロンシュタットの作品などが有名だ。また、彼はもともと本のデザインをしていたため、内ジャケやインナー・スリーブ、ブックレットなどにも力を入れ、すべてが完璧にデザインされているものも少なくない。
作風も時代と共に変化し、70年代初頭〜半ばには直線を基調としたアール・デコ調の物も多く見られるが、70年代後半にはAORっぽい雰囲気の洒落たデザイン、80年代に入るとニュー・ウェイヴからの影響さえうかがわせるモノトーン使いやオプティカル・アートっぽいもの、そしてLPからCDに移り変わる80年代半ばには、それまでのLP時代を名残惜しむようにノスタルジーを感じさせるデザインへと移り変わっていった。そういった変化も、彼が業界内で長きにわたって活躍できた要因であろう。

協力:Mr. Koichi Tabata HPはこちらから