FIREHOUSE ファイアーハウス


ヘヴィ・メタル・ブーム最後の大物

アメリカと日本やヨーロッパでそれぞれ評価の分かれるバンドはたくさんいる。それは主に活動拠点などからくることが多いのだが、最近では情報網の発達や、日本も含む世界ツアーなどが当たり前になってきているので、そういった状況はかなり解消されてきたことは確かだ。
ところが依然として歴史的な背景や国民性の違いによる音楽嗜好の違いはあり、そのせいで評価が異なるバンドが存在する。
日本とドイツは比較的嗜好が近いとされるが、特に日本ではメロディーの美しさや繊細さによって感動するといった国民性がある。しかもマイナー調であったりすると、もうメロメロになってひきづり込まれてしまう。
自分もまた典型的な日本人として、そういったものに惹かれてしまうのだが、アメリカにおいては、よりハードでヘヴィなもの、もしくは完全なアコースティックなど両極のものが好まれ、ファイアーハウスもまたデビュー当時のかなりヘヴィなサウンドが好まれていた。
残念ながら現在のようなメロディック・ハード・サウンドは、彼らのみならず、どのバンドもあまり評価されない傾向にある。
最近ではやっとアメリカで認知されてきたAORというジャンルもMOR(Middle Of The Road=中庸という意味の言葉)と呼ばれ、長い間評価されずにいた。ファイアーハウスはAORではないが、サードアルバム以降MOR的だと批判され、かつてのY&Tと同じようにアメリカでは理解されず、主に日本やヨーロッパで高評価を得ている。

C.J. Snare C.J.スネア/ヴォーカル、キーボード
Michael Foster マイケル・フォスター/ドラムス
Bill Leverty ビル・レバティ/ギター
Perry Richardson ペリー・リチャードソン/ベース・ギター

メロディック・メタルあるいはポップ・メタルと呼ばれる彼らのサウンドは、デビュー前からすでに話題になっていた。それというのも、彼らのデモ・テープを聞いた、あのジョン・ボンジョヴィ(g)がとても気に入り、強力にバックアップしてくれたからである。
1988年米ヴァージニア州でビル・レバティとマイケル・フォスターが活動していたWhite Heatに元Maxx Warriorの2人、C.J.スネアとベリー・リチャードソンが加わるという形でファイアーハウスはスタートする。
だが、彼らは他のバンドのように、すぐにライブに明け暮れるようなことはせず、まずは曲作りとデモ・テープを作るためのレコーディングにじっくりと時間を費やした。これが功を奏し、トントン拍子にデビューへとこぎつけられたわけだ。
ジョン・ボンジョヴィの紹介でなんなく大手レーベル、エピック・ソニーと契約を交わした彼らは、1990年にファースト・アルバムをリリース。
90年代初頭といえば、すでにヘヴィメタ・ブームは下火となり、ミクスチャーロックやオルタナティブ、グランジといったサウンドがとって代わろうとしていた頃である。しかし、この中のシングル「Don't Treat Me Bad」と「Love Of A Lifetime」はそんなヘヴィメタにとっての逆風をものともせず全米チャートのトップ10とトップ3に入る大ヒットを記録したのだ。曲の良さと確かな歌唱力&演奏力がこの結果を生んだのだろう。
アルバムもデビュー・アルバムとしては異例のダブルプラチナムと売れまくり、翌91年にはアメリカン・ミュージック・アウォードにおいてBest New Hard Rock/Metal Band(ヘヴィメタル部門最優秀新人賞)を受賞している。
日本では91年になってこのファーストアルバムがジャケット違いで発売されたが、直後から大人気だったようで、それに応えるように、この年1回きりのライブのために来日している。
アルバム1枚にして、すでに大物の貫禄を見せていたは彼らは、92年になってやっと2枚目のアルバムをリリース。ここからも「Reach for The Sky」「Sleepin With You」「When I Look Into Your Eyes」と3曲もトップ10ヒットを放ち、すべてが順風満帆なように見えた。
しかし、このアルバム前半で見せた、その後のファイアーハウス・サウンドにつながるポップな曲は、特にアメリカで初期からファンだった層の間では評判がよくなかった。

アメリカの音楽シーンとの決別

そしてその方向性をより強め、満を持して95年にリリースしたサード・アルバム「3」では、全曲共に素晴らしく、静と動、softとHeavyをうまく使い分けた内容だったにも関わらず、シングルの「Here For You」と「I Live My Life For You」はスマッシュ・ヒットはしたものの以前のような勢いはなく、アメリカでの評価は低いものだった。
名曲「I Live My Life For You」などはその後発売されているアメリカ編集のベスト盤2枚には、どちらにも収録されていないというありさまだ。日本においては、通信カラオケなどにもリストアップされているほど有名な曲なのに・・・。
この曲はアジア編集のベスト盤には1曲目に入っているほどで、日本では多くの人が名曲にあげるはずだ。これがアメリカではまったく無視されているというのは、やはり嗜好の違いとしか思えない。尚、95年には3度目(2度目は92年)の来日公演も果たしている。ちなみに95年、97年、99年の来日公演のアンコール曲はすべて「I Live My Life For You」であったという。
1996年ファイアーハウスの正式な4枚目のアルバムとして「グッド・アコースティックス」という文字通り、前編アコースティック・ヴァージョンのアルバムをリリースした。
これがまたアメリカでは物議を醸しだし、大かたは批判的な意見が多い。もともとこういったアコースティックなサウンドは彼らの得意としたところであり、既存の曲からのベストと思える選曲に新曲3曲をプラスして、ロック・ファンならずとも愛聴できるすばらしい内容なのに・・・。
アメリカではこのアルバムを「当時流行っていたアンプラグドものを出して安易に一稼ぎしようとしている」など、厳しい意見が大勢を占めた。
その後ポニーキャニオンへ移籍し、98年には決意も新たに、セルフ・プロデュースでレバディの家で録音されたという力作アルバム「カテゴリー5」を発表。
このアルバムでは開き直ったとも思えるほど完全にアメリカ市場を無視し、自分たちのやりたいようにやったアルバムだが、残念ながら曲の良さがあまり感じられない。むろんアメリカではまったくヒットしていないが、日本やアジア、ヨーロッパでは依然としてかなり高い人気を保っていた。
また2000年には99年の来日公演(大阪)を収録したライブ盤とオリジナル・アルバムである「O2」をリリースしているが、後者では少しヘヴィさが戻ったことで、アメリカでも、そう悪くない評価を得ていた。
このことは、アメリカでの悪い評判も裏を返せば、それだけデビュー時のインパクトが強烈で、アメリカ国民は初期のヘヴィなファイアーハウスの熱烈なファンであったということも汲み取れる。そのためソフトな彼らを聞いたとき裏切られた感じがしたのではないだろうか。
尚、「O2」からオリジナル・メンバーであったベースのリチャードソンが脱退し、オールマン・ブラザーズ・バンドマーシャル・タッカー・バンドにも参加していた
Bruce Waibelブルース・ウェイベル(b,vo)が加わっている。
いずれにしろ、彼らにはこれからも日本や世界のファンのために、名曲をたくさん生み出し、いつまでも頑張ってもらいたいものだ。日本のファンは今でも新作を心待ちにしているのだから・・・。(HINE)
 2003.8更新

Special Thanks:Madoka A



Firehouse(輸入盤)
Epic Record

Hold Your Fire
Epic/Sony

3
Epic/Sony

Category 5
Mystic Music/Pony Canyon

Bring'em Out Live
Spitfire Records/Pony Canyon

O2
Spitfire Records/Pony Canyon

ディスコ・グラフィー

1990年 Firehouse(ファイアーハウス)*日本発売は91年。アメリカでデビューとともに爆発ヒットし、ダブル・プラチナムを記録
1991年 Love Of A Lifetime(ラヴ・オブ・ア・ライフタイム)*別テイクのタイトル曲と91年来日公演のライブ4曲が入った日本限定ミニアルバム
1992年 Hold Your Fire(ホールド・ユア・ファイアー)*「Reach for The Sky」「Sleepin With You」「When I Look Into Your Eyes」がトップ10ヒット
1995年 3(ファイアーハウス3)*名曲「I Live My Life For You」「Here For You」を含む、日本では特に人気のあるアルバム
1995年 
Christmas With You(クリスマス・ウィズ・ユー)*日本限定の未発表タイトル曲と95年来日公演のライブ曲を収録したミニアルバム
1996年 Good Acoustics(グッド・アコースティックス)
*全曲アコースティック・ヴァージョンによるベスト的な内容。曲がいいだけに素晴らしい!
1998年 Here For You 
*アメリカで編集された全盛期のベスト盤。日本やアジアで人気の「I Live My Life For You」は入っていない
1998年 Category 5(カテゴリー5)
*メンバー自らプロデュースし、レコーディングはビルの家で行われたという日本先行発売のアルバム
1998年 
The Best Of Firehouse *韓国のソニー・ミュージックから発売されたベスト。しっかり1曲目に「I Live My Life For You」が選曲されている
2000年 Bring'em Out Live(ブリング・ゼム・アウト〜ライヴ・イン・ジャパン)
*99年来日公演大阪でのライブ
2000年 Firehouse Super Hits 
*「Here For You」に漏れた名曲を集めたベスト盤。またもや「I Live My Life For You」が入っていない
2000年 O2(オー・トゥー)
*Bruce Waibel(b)を加え日本先行発売された最新アルバム。



★★★名盤PIC UP★★★

グッド・アコースティックス
Good Acoustics
ファイアーハウス
Firehouse

1996年 Epic/Sony

1.ユー・アー・マイ・レリジョン You Are My Religion

2.ラヴ・ドント・ケア Love Don't Care

3.イン・ユア・パーフェクト・ワールド In Your Perfect World

4.ノー・ワン・アット・オール No One At All

5.ラヴ・オブ・ア・ライフタイム Love Of A Lifetime

6.オール・シー・ロート All She Wrote

7.ホエン・アイ・ルック・イントゥ・ユア・アイズ When I Look Into Your Eyes

8.ドント・トリート・ミー・バッド Don't Treat Me Bad

9.ヒア・フォー・ユー Here For You

10.アイ・リヴ・マイ・ライフ・フォー・ユー I Live My Life For You

11.セヴン・ブリッジス・ロード Seven Bridges Road

まあ、よくもアルバム3枚をリリースしただけの間に、これだけの名曲をいっぱい作ったものだ。90年に登場以来ヘヴィメタル・バンドでありながら、楽曲の良さを最優先したサウンド作りを心がけてきたファイアーハウスではあったが、こうして全編アコースティックともなると、そのメロディーの良さがさらに浮き彫りになる。また、全曲を通じて感じられるのは、アメリカ土着のカントリーやブルースといった音楽の香り。彼らの根底には常にそういった音楽の基盤があり、聞く者に安らぎや安堵感を与える。このアルバムに限って言えば、たとえ彼らのファンでなくても、いわゆるアメリカン・ロック好きが聞けばまったく違和感なくすんなりと受け止めることができるだろう。
全編アコースティックといっても、ギター・ソロなどにはエレクトリックも併用していて、無理に何が何でもアコースティック・オンリーというわけでもない。とても自然にアコースティック・サウンドを楽しんでいるといった印象だ。
各曲を聴いてゆくと、ほとんどがそれまで彼らがリリースした3枚のアルバムからのベスト・ソングで、新曲は3曲(1〜3)、イーグルスやリタ・クーリッジもやっていたスティーヴ・ヤング(カントリー・シンガー)の曲を1曲(11)カヴァーしている。過去の発表曲はいずれも、もともとアコースティック・テイストが盛り込まれた曲であったが、本作に入っているのはすべて別アレンジの新録音で、こちらのヴァージョンの方がみな出来が良い。新曲3曲は、どれもが他の曲と同様の完成度を持ち、このアルバムから初めて彼らを聞くリスナーには、まったくどれが新曲なのか区別がつかないことだろう。9曲目、10曲目についてはアルバム「3」に入っていた原曲とほとんどアレンジも変えていないが、本当に名曲なので、変えようがなかったのかもしれない。何度聞いても良いものは良い!彼ら自身そのことはよく心得ているのだろう。
とにかく、いかにもヘヴメタ然としたバンド名は気にせず1度聞いてみて欲しい。ただ単にアンプラグド・ブームに乗って作ったアルバムではなく、彼らが真の実力を持つバンドで、このアルバムは「本物」の名盤であることがわかるはずだ。(HINE)