JAPAN アルバム・レヴュー Written by KEN  ページ構成責任者 : HINE



果てしなき反抗
ADOLESCENT SEX

1978年 Hansa/BMGビクター

1. 魅惑への招待 Transmission

2. 奇しい絆 The Unconventional

3. 黒人ならば Wish You Were Black

4. 美しき愛欲 Performance Sylvian

5. 素通りの愛人達. Lovers on Main Street

6. パレードに雨を降らせないで Don't Rain on My Parade

7. 愛の回転木馬 Suburban Love

8. 果てしなき反抗 Adolescent Sex

9. コミュニスト・チャイナ Communist China

10. 誘惑スクリーン Television

 78年作品。記念すべき、しかし中期以降からジャパンを知った人間にとっては最も違和感のあるアルバム。よもやこのアルバムから中期以降のサウンドへと変遷していったことが信じがたい。それほどに本作は黒人音楽、それもファンク的な側面がフィーチャーされており、自分達の好きな要素をとにかくロックに詰め込んでみました、という青臭さが漂う。当時のグラム的イメージが押し出されており、ギターとリズム主体のロック・アルバムである。本国イギリスでは嫌悪と無視ばかりが浴びせられたが、日本ではそのバンド名とイメージに乗せられた婦女子のお陰でめでたく発売日のみで1万5千枚もの売り上げを記録。殺人的にダサいジャケが本国での致命傷となったのでは、という見解も。(KEN)



苦悩の旋律
OBSCURE ALTERNATIVES

1978年 Hansa/BMGビクター

1. オートマティック・ガン Automatic Gun

2. 熱きローデシア ....Rhodesia

3. 愛の伝染 Love Is Infectious

4. 孤独な安らぎ Sometimes I Feel So Low

5. 苦悩の旋律 Obscure Alternatives

6. 若き反抗 Deviation

7. 郊外ベルリン Suburban Berlin

8. 愛の住人 The Tenant

 78年作品。未だ全体的に混沌としてまとまりがなく、とらえどころのないアルバムではあるが、シルヴィアンの「個人主義」がようやく芽吹いた作品である。それは「熱きローデシア」「郊外ベルリン」などに書かれたドイツへの記述が示しており、ここに「異国情緒に想いを馳せ、現実逃避するシルヴィアン」が生まれた。この数年前に彼のヒーローのひとり、デヴィッド・ボウイが『ロウ』『ヒーローズ』でドイツを扱い、ヨーロッパの大陸的厭世観を歌っていたが、それに随従するかのようにシルヴィアンもドイツに想いを馳せたわけだ。しかし決定的に違うのは、ボウイのそれがヨーロッパの厭世観を表現手段として用いたのに対し、シルヴィアンのそれは自己否定と自己肯定のための表現手段として用いたことだ。

 しかし、未だにジャケットはどこかダサさが漂う……アリオラがジャパンをどういったイメージ戦略でもって売り出そうとしたかが一見して解るジャケットである。(KEN)



クワイエット・ライフ
QUIET LIFE

1979年 Hansa/BMGビクター

1. クワイエット・ライフ Quiet Life

2. フォール・イン・ラブ・ウィズ・ミー Fall in Love With Me

3. 絶望 Despair

4. イン・ボォウグ In Vogue

5. ハローウィーン Halloween

6. オール・トゥモロウズ・パーティーズ All Tomorrow's Parties

7. 異国人 Alien

8. ジ・アザー・サイド・オブ・ライフ The Other Side of Life

 シルヴィアン言うところの「真のジャパンのファースト・アルバム」。ロキシー・ミュージックなどの仕事で著名なジョン・パンターのプロデュースにより、ようやく彼らの音楽性が咲き出した傑作。53位ながら、初の全英チャート・インを果たした。しかしその内容はエレ・ポップを主体としているにもかかわらず、全面的にシルヴィアンの厭世観が支配している、ある種「自殺肯定アルバム」でさえもある。その鬱病にも似ていながら、しかしどこか儚げなスタンスが、本作をジャパン諸作の中で最も愛する筆者の心を惹き付けてやまないのだ。

 また本作は2曲を除く全曲に別ヴァージョンが存在するという、アリオラでの最も売れた証を持つアルバムであると同時に、ジャパンというグループを手放したアリオラの営利目的のために楽曲をいじられまくっている悲しいアルバムとも言える。それらの殆どが市川哲史氏プロデュースの『シングルズ』によって現在でも聴けるようになったというのが、まだ幸いか。その殆どがさしたる違いもないことも事実ではあるが……(KEN)



孤独な影
GENTLEMEN TAKE POLAROIDS

1980年 Virgin/東芝EMI

(9)〜(11)は、2003年時点
の追加ボーナストラック

1. 孤独な影 Gentlemen Take Polaroids

2. スウィング Swing

3. バーニング・ブリッジズ Burning Bridges

4. マイ・ニュー・キャリアー My New Career

5. メソッズ・オブ・ダンス Methods of Dance

6. エイント・ザット・ペキュリアー Ain't That Peculiar

7. ナイトポーター Nightporter

8. アイランズ・イン・アフリカ Taking Islands in Africa


(9). ジ・エクスペリエンス・オブ・スイミング The Experience of Swimming

(10). ザ・ウィドゥス・オブ・ア・ルーム The Width of a Room

(11). テイキング・アイランズ・イン・アフリカ(スティーヴ・ナイ・リミックス)

 80年作品。ヴァージンに移籍して最初の作品を求められていたため、リリースを急いだ作品だが、それゆえに前作『クワイエット・ライフ』の路線を踏襲し、さらなる進化を収めることができた。そのため全体の構成などが非常に似てはいるが、前作の路線を煮詰めた本作は、シルヴィアンの自閉的な歌詞のピークであり、ヨーロピアン・モダーン・ミュージックをベースに敷いた中期ジャパン美学の到達点といえよう。プロデュースは引き続き良き理解者ジョン・パンターであり、そのかいあって全英45位を記録。歌詞が全体的に、タイトルの如く「ポラロイド」的客観視で眺めているものが多いというのが隠れたコンセプトであったりもする。(KEN)



錻力の太鼓
TIN DRUM

1981年 Virgin/東芝EMI


※上のジャケットは2003年以降の日本盤
ポインターを乗せると切り替わるのがオリジナル
US盤では現在もオリジナルを使用している。
尚、2003年リマスター盤ではボーナスとして
DISC-2が追加されている。

1. ジ・アート・オブ・パーティーズ The Art of Parties

2. トーキング・ドラム Talking Drum

3. ゴウスツ Ghosts

4. カントン Canton

5. スティル・ライフ・イン・モウビル・ホームズ Still Life in Mobile Homes

6. ヴィジョンズ・オブ・チャイナ Visions of China

7. サンズ・オブ・パイオニアーズ Sons of Pioneers

8. カントニーズ・ボーイ Cantonese Boy


(DISC-2)

1. ジ・アート・オブ・パーティーズ(シングル・ヴァージョン) Art of parties

2. ライフ・ウィズアウト・ビルディングス Life without buildings

3. ジ・アート・オブ・パーティーズ(ライヴ) Art of parties

4. ゴウスツ(シングル・ヴァージョン) Ghosts

 81年作品。ギュンター・グラスの同名小説からシルヴィアンがインスパイアされたイメージをもとに、東洋的なビートを導入。通して土着的に、アフリカン・ビートに、であった筈の前作から一転、アルバム全体を隅から隅までオリエンタル・ビートが占拠していることが一聴して解るだろう。それも東洋、というよりはシルヴィアンの若き憧憬であった中国--ファースト収録の「コミュニスト・チャイナ」の歌詞を見るといい--が、より具体的な形でもって、それも幻想破壊という、今までのシルヴィアンからは考えられない自己破壊的かつ前向きな歌詞にした側面が目立つ。またこのアルバムに於けるオリエンタル・ビートとは寧ろ中国的イメージのことであり、さらに言い詰めるならば「広東」のそれであるが、これもシルヴィアンの「思索の逃避」が成せるワザである。(KEN)



オイル・オン・キャンヴァス
OIL ON CANVAS

1983年 Virgin/東芝EMI


※ギターは土屋昌巳

DISC-1

1. オイル・オン・キャンヴァス 
Oil on Canvas

2. サンズ・オブ・パイオニアーズ Sons of Pioneers

3. 孤独な影 Gentlemen Take Polaroids

4. スウィング Swing

5. カントニーズ・ボーイ Cantonese Boy

6. ヴィジョンズ・オブ・チャイナ Visions of China

7. ゴウスツ Ghosts

8. 歓迎の叫び,祈りの手 Voices Raised in Welcome, Hands Held in Prayer

DISC-2

1. ナイトポーター Nightporter

2. スティル・ライフ・イン・モウビル・ホームズ Still Life in Mobile Homes

3. メソッズ・オブ・ダンス Methods of Dance

4. クワイエット・ライフ Quiet Life

5. ジ・アート・オブ・パーティーズ The Art of Parties

6. カントン Canton

7. テンプル・オブ・ドーン Temple of Dawn

 83年作品。ラスト・アルバムとなる『錻力の太鼓』発表後に行われたワールド・ツアーの模様を収めたもの。ギタリスト不在であるため、準メンバーとして土屋昌巳(一風堂)が迎えられている。全面的にアレンジの少ない演奏で、楽曲の忠実な再現を心がけているのだが、原曲ではギターを使用していなかった曲にギターが多用されるなど、それと解るアレンジは多く存在する。そしてこのツアーの後に、ジャパンは解散するのだが、本作発表時には既に解散しており、ベスト盤や各種シングルのリリースと並んだ「解散しちまうなら稼がせてもらうぜ盤」のひとつという側面もある。

 なお、このライヴ盤には「聴いただけで明らかにスタジオ音源と判る」インスト3曲が収録されている。どれもアルバムの挿入曲として使うような短いものばかりだが、全曲網羅を目指す人間にはそれをもって必須の作品となるだろう。またそれらがすべて、解散へ向かうジャパンというグループに向けた、自分達からのレクイエムであるかのような深遠な曲調である。(KEN)



シングルズ
THE SINGLES

1996年 BMGビクター


※日本独自企画の編集盤

DISC-1

1.パレードに雨を降らせないで
2.ステイト・ライン
3.アンコンヴェンショナル
4.果てしなき反抗
5.孤独な安らぎ
6.ラヴ・イズ・インフェクシャス
7.ライフ・イン・トウキョウ(ショート・ヴァージョン)
8.ライフ・イン・トウキョウ(パート2)
9.セカンド・ザット・エモーション
10.クワイエット・ライフ
11.ライフ・イン・トウキョウ
12.ヨーロピアン・サン
13.クワイエット・ライフ
14.フォーリン・プレイス
15.ヨーロピアン・サン
16.異邦人
17.セカンド・ザット・エモーション
18.ハロウィーン

DISC-2

1.ライフ・イン・トウキョウ
2.ライフ・イン・トウキョウ(テーマ)
3.オール・トゥモロウズ・パーティズ
4.イン・ヴォーグ(ライヴ・イン・トウキョウ)
5.ライフ・イン・トウキョウ(12インチ・エクステンディッド・ヴァージョン)
6.ヨーロピアン・サン(12インチ・ヴァージョン)
7.孤独な安らぎ(12インチ・ヴァージョン)
8.果てしなき反抗(リレコーディッド・ヴァージョン)
9.ライフ・イン・トウキョウ(エクステンディッド・リミックス)
10.ライフ・イン・トウキョウ(12インチ・テーマ)
11.オール・トゥモロウズ・パーティズ(1983リミックス・バイ・スティーヴ・ナイ)
12.セカンド・ザット・エモーション(エクステンディッド・リミックス)
13.ハロウィーン(12インチ・ヴァージョン)
14.ヨーロピアン・サン(エクステンディッド・リミックス)
15.クワイエット・ライフ(エクステンディッド・ヴァージョン)
16.フォール・イン・ラヴ・ウィズ・ミー(12インチ・ヴァージョン)

 筆者の敬愛する市川哲史氏プロデュースの2枚組ベスト盤。「入門編にして応用編」の文句に恥じず、世にある数種の「ジャパン・ベスト」の殆どを放ってでもこのベストは手に入れるべきであろうと思う。なぜなら、他盤では小出しにされていた所謂「アリオラ時代のレア音源」が、ここに大多数集結しているからなのだ。さすがジャパンの良き理解者、市川氏の仕事である。尊敬に値するぞ、マジで!

 しかし、自分の楽曲理解度の浅さに対する批判を恐れず言ってしまうが、その殆どの別ヴァージョンに大差はない。これはアリオラがとにかく売ろう売ろうとして、別ヴァージョンを乱造したことの証ともなろう。無論、中にはまったく異なるものもあり、貴重なものばかりであるのだが……。

 願わくば、どなたかに同様の企画をヴァージン・レーベルに於いてもやってほしいものだ。シングル曲のヴァージン音源は、殆どが埋もれたまま今日に至っているのだから。(KEN)



レイン・トゥリー・クロウ
RAIN TREE CROW

レイン・トゥリー・クロウ
Rain Tree Crow

1991年 Virgin/東芝EMI

1. ビッグ・ホイールズ・イン・シャンティ・タウン Big Wheel In Shanty Town

2. エヴリ・カラー・ユー・アー Every Colour You Are

3. レイン・トゥリー・クロウ Rain Tree Crow

4. レッド・アースRead Earth (At Summertime Ends)

5. ポケット・フル・オブ・チェンジ Pocket Full Of Change

6. ボーツ・フォー・バーニング Boat's For Burning

7. ニュー・ムーン・アット・レッド・ディアー・ワロウ New Moon At Red Deer Wallow

8. ブラックウォーター Blackwater

9. ア・リアシュアリングリィ・ダル・サンデイ A Reassuringly Dull Sunday

10. ブラッククロウ・ヒッツ・シュー・シャイン・シティ Blackcrow Hits Shoe Shine Citys

11. スクラッチングス・オン・ザ・バイブル・ベルト Scratchings On The Bible Belt

12. クライズ・アンド・ウィスパーズ Cries & Whispers

(13). アイ・ドリンク・トゥ・フォーゲット I Drink To Forget (B-Sides To Blackwater)

 91年に結成された「実質的再結成ユニット」唯一のアルバム。最終作『錻力の太鼓』の延長ではなく、寧ろ土着的な『孤独な影』を拡大解釈したようなアルバム。しかし当時のヨーロピアン・モダーン・ポップではなく、インプロヴィゼイションに主体を置いた演奏主体のアルバムである。あえなく廃盤となってしまったが、後期ジャパンの理解に役立つアイテムであることは間違いない。またソロ活動に転じた4人が、折しもインプロ主体の音楽を共に実践していた頃の会合であるところも興味深いし、これを一度きりの会合としたのもシルヴィアンであること、残る3人は今でも活動を共にしているということなど……様々に、興味深い事項が連鎖しているのだ。

 別項でも書いているように、私はこれを「ジャパンのアルバム」としては取り扱いたくない。しかし「実質的な再結成」であることは間違いないし、後期ジャパンやその後の彼らへの理解に対する要素として、やはり取り上げたく思う。(KEN)



<DVD>

ビデオ・ヒッツ
VIDEO HITS

2001年 BMGファンハウス

1. パレードに雨を降らせないで Don't Rain On My Parade

2. 果てしなき反抗 Adolescent Sex

3. コミュニスト・チャイナ Communist China

4. 孤独なやすらぎ Sometimes I Feel So Low

5. クワイエット・ライフ Quiet Life

6. セカンド・ザット・エモーション I Second That Emotion

 初期アリオラ時代から6曲のビデオ・クリップを収録したフィルム。VHSも流通していたが、現在はDVDに落ち着いている。曲数は6曲と少ないながら、初期の「ケバケバ・メイク」「80年代先取り感覚」を堪能できる逸品。ヴィジュアル的にも「初期〜中期」の変遷をのぞめるので、貴重度は決して低くない。観れば観るほど、初期の彼らがいかに自分達を売ろうとしたか、そのためにいかに変化したか、が窺い知れる。(KEN)