●JAPAN アルバム・レヴュー Written by KEN ページ構成責任者 : HINE |
果てしなき反抗
ADOLESCENT SEX 1978年 Hansa/BMGビクター |
1. 魅惑への招待 Transmission |
78年作品。記念すべき、しかし中期以降からジャパンを知った人間にとっては最も違和感のあるアルバム。よもやこのアルバムから中期以降のサウンドへと変遷していったことが信じがたい。それほどに本作は黒人音楽、それもファンク的な側面がフィーチャーされており、自分達の好きな要素をとにかくロックに詰め込んでみました、という青臭さが漂う。当時のグラム的イメージが押し出されており、ギターとリズム主体のロック・アルバムである。本国イギリスでは嫌悪と無視ばかりが浴びせられたが、日本ではそのバンド名とイメージに乗せられた婦女子のお陰でめでたく発売日のみで1万5千枚もの売り上げを記録。殺人的にダサいジャケが本国での致命傷となったのでは、という見解も。(KEN) |
苦悩の旋律
OBSCURE ALTERNATIVES 1978年 Hansa/BMGビクター |
1. オートマティック・ガン Automatic Gun |
78年作品。未だ全体的に混沌としてまとまりがなく、とらえどころのないアルバムではあるが、シルヴィアンの「個人主義」がようやく芽吹いた作品である。それは「熱きローデシア」「郊外ベルリン」などに書かれたドイツへの記述が示しており、ここに「異国情緒に想いを馳せ、現実逃避するシルヴィアン」が生まれた。この数年前に彼のヒーローのひとり、デヴィッド・ボウイが『ロウ』『ヒーローズ』でドイツを扱い、ヨーロッパの大陸的厭世観を歌っていたが、それに随従するかのようにシルヴィアンもドイツに想いを馳せたわけだ。しかし決定的に違うのは、ボウイのそれがヨーロッパの厭世観を表現手段として用いたのに対し、シルヴィアンのそれは自己否定と自己肯定のための表現手段として用いたことだ。 |
クワイエット・ライフ
QUIET LIFE 1979年 Hansa/BMGビクター |
1. クワイエット・ライフ Quiet Life |
シルヴィアン言うところの「真のジャパンのファースト・アルバム」。ロキシー・ミュージックなどの仕事で著名なジョン・パンターのプロデュースにより、ようやく彼らの音楽性が咲き出した傑作。53位ながら、初の全英チャート・インを果たした。しかしその内容はエレ・ポップを主体としているにもかかわらず、全面的にシルヴィアンの厭世観が支配している、ある種「自殺肯定アルバム」でさえもある。その鬱病にも似ていながら、しかしどこか儚げなスタンスが、本作をジャパン諸作の中で最も愛する筆者の心を惹き付けてやまないのだ。 |
孤独な影
GENTLEMEN TAKE POLAROIDS 1980年 Virgin/東芝EMI |
1. 孤独な影 Gentlemen Take Polaroids |
80年作品。ヴァージンに移籍して最初の作品を求められていたため、リリースを急いだ作品だが、それゆえに前作『クワイエット・ライフ』の路線を踏襲し、さらなる進化を収めることができた。そのため全体の構成などが非常に似てはいるが、前作の路線を煮詰めた本作は、シルヴィアンの自閉的な歌詞のピークであり、ヨーロピアン・モダーン・ミュージックをベースに敷いた中期ジャパン美学の到達点といえよう。プロデュースは引き続き良き理解者ジョン・パンターであり、そのかいあって全英45位を記録。歌詞が全体的に、タイトルの如く「ポラロイド」的客観視で眺めているものが多いというのが隠れたコンセプトであったりもする。(KEN) |
1. ジ・アート・オブ・パーティーズ The Art of Parties 1. ジ・アート・オブ・パーティーズ(シングル・ヴァージョン) Art of parties |
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81年作品。ギュンター・グラスの同名小説からシルヴィアンがインスパイアされたイメージをもとに、東洋的なビートを導入。通して土着的に、アフリカン・ビートに、であった筈の前作から一転、アルバム全体を隅から隅までオリエンタル・ビートが占拠していることが一聴して解るだろう。それも東洋、というよりはシルヴィアンの若き憧憬であった中国--ファースト収録の「コミュニスト・チャイナ」の歌詞を見るといい--が、より具体的な形でもって、それも幻想破壊という、今までのシルヴィアンからは考えられない自己破壊的かつ前向きな歌詞にした側面が目立つ。またこのアルバムに於けるオリエンタル・ビートとは寧ろ中国的イメージのことであり、さらに言い詰めるならば「広東」のそれであるが、これもシルヴィアンの「思索の逃避」が成せるワザである。(KEN) |
オイル・オン・キャンヴァス
OIL ON CANVAS 1983年 Virgin/東芝EMI |
DISC-1 |
83年作品。ラスト・アルバムとなる『錻力の太鼓』発表後に行われたワールド・ツアーの模様を収めたもの。ギタリスト不在であるため、準メンバーとして土屋昌巳(一風堂)が迎えられている。全面的にアレンジの少ない演奏で、楽曲の忠実な再現を心がけているのだが、原曲ではギターを使用していなかった曲にギターが多用されるなど、それと解るアレンジは多く存在する。そしてこのツアーの後に、ジャパンは解散するのだが、本作発表時には既に解散しており、ベスト盤や各種シングルのリリースと並んだ「解散しちまうなら稼がせてもらうぜ盤」のひとつという側面もある。 |
シングルズ
THE SINGLES 1996年 BMGビクター |
DISC-1 |
筆者の敬愛する市川哲史氏プロデュースの2枚組ベスト盤。「入門編にして応用編」の文句に恥じず、世にある数種の「ジャパン・ベスト」の殆どを放ってでもこのベストは手に入れるべきであろうと思う。なぜなら、他盤では小出しにされていた所謂「アリオラ時代のレア音源」が、ここに大多数集結しているからなのだ。さすがジャパンの良き理解者、市川氏の仕事である。尊敬に値するぞ、マジで! |
レイン・トゥリー・クロウ
RAIN TREE CROW レイン・トゥリー・クロウ Rain Tree Crow 1991年 Virgin/東芝EMI |
1. ビッグ・ホイールズ・イン・シャンティ・タウン Big Wheel In Shanty Town |
91年に結成された「実質的再結成ユニット」唯一のアルバム。最終作『錻力の太鼓』の延長ではなく、寧ろ土着的な『孤独な影』を拡大解釈したようなアルバム。しかし当時のヨーロピアン・モダーン・ポップではなく、インプロヴィゼイションに主体を置いた演奏主体のアルバムである。あえなく廃盤となってしまったが、後期ジャパンの理解に役立つアイテムであることは間違いない。またソロ活動に転じた4人が、折しもインプロ主体の音楽を共に実践していた頃の会合であるところも興味深いし、これを一度きりの会合としたのもシルヴィアンであること、残る3人は今でも活動を共にしているということなど……様々に、興味深い事項が連鎖しているのだ。 |
<DVD>
ビデオ・ヒッツ VIDEO HITS 2001年 BMGファンハウス |
1. パレードに雨を降らせないで Don't Rain On My Parade 2. 果てしなき反抗 Adolescent Sex 3. コミュニスト・チャイナ Communist China 4. 孤独なやすらぎ Sometimes I Feel So Low 5. クワイエット・ライフ Quiet Life 6. セカンド・ザット・エモーション I Second That Emotion |
初期アリオラ時代から6曲のビデオ・クリップを収録したフィルム。VHSも流通していたが、現在はDVDに落ち着いている。曲数は6曲と少ないながら、初期の「ケバケバ・メイク」「80年代先取り感覚」を堪能できる逸品。ヴィジュアル的にも「初期〜中期」の変遷をのぞめるので、貴重度は決して低くない。観れば観るほど、初期の彼らがいかに自分達を売ろうとしたか、そのためにいかに変化したか、が窺い知れる。(KEN) |