Mr.BIG ミスター・ビッグ

ツイン・ドラムの衝撃

イギリス/オックスフォード生まれのディッケン(g,vo)による実質ワンマン・バンドであったMr.BIGは、70年代に活躍したハード・ポップ風サウンドにアジアン・テイストまである幅広い音楽性をもった個性派バンドであった。
また驚くことに、デビュー当時から2人のドラマーがいるツイン・ドラム体制だった。
最初にことわっておくが、80年代〜90年代に活躍したハードロック・バンドのMR.BIGとは同名異バンドである。

■オリジナル・メンバー
Dicken ディッケン/リード・ヴォーカル、リード・ギター、ハーモニカ、キーボード
Pete Crowther ピート・クロウザー/ベース&アコースティック・ギター
Vince Chaulk ヴィンス・チョーク/ドラムス、パーカション、バック・ヴォーカル
John Burnip ジョン・バーニップ/ドラムス、パーカッション、キーボード

ディッケン(vo,g)とヴィンス(ds)、ピート(b)は60年代末に自ら結成したBurnt Oakというバンドでロンドンを中心に活動していた。しかしヴィンスが神経症になり、一時バンドを離脱している。その時代役に入ってきたのがジョン(ds)で、その後ヴィンスが復帰後もそのままバンドに残ることになり、この変則的なメンバー構成ツインドラムが生まれた。
1972年Mr.BIGにバンド名を改めた彼らはマーキュリー・クラブでデビューを果たしている。
74年にはエピック・レコードと契約を結び「Eee I'm Alright」でシングル・レコード・デビュー。翌75年にも3枚のシングルをリリースするが、いずれもまったくの不発であった。
だが、マーキュリー・クラブにレギュラー出演していた彼らは、モット・ザ・フープルのマネージャーの目に止まり、マネージメント契約をする。それとと共にイメージチェンジを図り、サウンドもポップからハード路線へと変身を遂げた。
75年にはまずEMIに移籍してシングル「ワンダフル・クリエイション」をリリース、そしてクイーンのツアーをサポートし、ファースト・アルバム「甘美のハード・ロッカー」も発表した。
このアルバムはイギリスで“ポスト「クイーン」”“次世代ブリティッシュ・ロックの主役”と絶賛され、日本でもかなりのセールスを記録し、特にシングル・カットされた「フォー・ザ・ファン・トゥ・ファインド」と「麗しのザンビア」は有名だ。
76年
Eddie Carterエディ・カーター(vo,g)を加えた彼らは、つづくセカンド・アルバムをレコーディングするが、なんとドラマーが2人もいるにも関わらず、さらにジム・ケルトナーとサイモン・フィリップスという超一流セッション・ドラマーを参加させ、さらなるサウンド強化を図った。
しかしアメリカでレコード会社との間にトラブルが起こり、いろいろもめたあげく、77年になってやっとこのセカンド・アルバムは日本やヨーロッパでのみリリース。アメリカではAristaからファーストとセカンドを編集したアルバムが「Photographic Smile」というタイトルでリリースされた。その間にドラムのジョン・バーニップはキーボードに転向、新たに
Jhon Marterジョン・マーターをドラマーに迎えている。
このセカンド・アルバムからシングル・カットされた「恋するロメオ」は全英4位のヒットを記録。勢いにのる彼らはすぐにサード・アルバムの製作にとりかかるのだが、これが2ndアルバム以上に問題を抱えることになるのであった・・・。尚、セカンド・アルバムの邦題は「フォトグラフィック・スマイル」、欧州では「MR BIG」。
イギリスでサード・アルバムの製作を始めた彼らだったが、先の2ndアルバム問題の怒りが静まらず、途中でアメリカへ渡り、つづきを録音することにした。しかし、ここでもArista側から曲の変更を求められたり歌について口出しされたため、激怒したディッケンはレコーディングを放りだしてそのままバンドもろともイギリスに帰ってしまった。
困ったマネージャーは元モット・ザ・フープルのイアン・ハンターにプロデューサーを頼みイギリスでレコーディングを再開させた。
イアン・ハンターは彼らに曲もプレゼントし、積極的にレコーディングにも参加したようだ。そして、そのハンターとの共作曲「セニョーラ」は78年にシングルとしてリリースされた。だが、肝心のアルバムの方は、紆余曲折しながらやっと出来上がったにも関わらず、EMIとの契約切れから、ついに発売されることはなかったのだ。
時代はパンク〜ニュー・ウェイヴが主流、彼らと契約する会社は既になかった・・・。バンドもこの78年には解散。
その後ディッケンはブロークン・ホームやいくつかのバンドを結成したあと、ほぼ音楽界から遠ざかり、絵描きになっていたが、86年頃から音楽活動を再開。90年にはMr.BIG UK(アメリカにMR.BIGという同名のバンドが出現したためUKを付けている)を再結成したが99年にまたもや解散している。
現在はザ・ニューアドヴェンチャーというバンドを結成し活動中。

尚、この幻のサード・アルバム「SEPPUKU」がリマスターされ、ついにAngel Airレーベルより2001年2月発売された。
よりポップになった印象のこのアルバムは、アコースティックな部分も随所にいかされ、1,2作目よりサウンド的にはおとなしい。このあたりはイアン・ハンターの影響だろうか・・・?
だが、相変わらず幅広い音楽性を持っており、今聞いてもあまり古さは感じない圭作だ。(HINE)
2001.4 

参考・推薦サイト:SatoshiさんのHPSweet Silence



甘美のハード・ロッカー
Sweet Silence

1975年 EMI/東芝EMI
フォトグラフィック・スマイル
Photographic Smile

1977年 EMI/東芝EMI
SEPPUKU


2001年 Angel Air

ディスコ・グラフィー

1975年 Sweet Silence(甘美のハード・ロッカー)*アジア風、カントリー風など実に多彩な音楽性で日欧で絶賛されたデビューLP
1977年 Mr.BIG-Photographic Smile(フォトグラフィック・スマイル)*日本盤のみこのタイトルで発売のセカンド・アルバム
1977年 Mr.BIG *イギリス盤のセカンドアルバム。内容は日本盤のフォトグラフィック・スマイルと同じ
1977年 Photographic Smile *アメリカでのみ発売されたファーストとセカンドの編集もの
2001年 Seppuku *ついに発売されました!輸入盤で手に入ります。