SOLARIS ソラリス


 古くさいのに新しい、なんとも奇妙なサウンド。それがソラリスのサウンド特徴だ。現代のバンド達が忘れてしまった純粋な創作意欲を感じ取ることができるのは、東欧というロック後進国ならではの音楽環境も影響しているのだろうか。
 楽器の使い方も独創的。フルートやリコーダー、パーカッションなどの素朴なアナログ楽器と、恥ずかしいぐらいに派手で古臭い使い方のシンセサイザーを対比させ、さらにそこへ、やけにハードなギターが絡んでくる。例えれば、「鎖国していた日本へ突然西欧文明が入ってきて、日本の伝統と調和をはかろうとしているような」とでも言えば伝わるだろうか?音楽コンセプトや演奏はしっかりしていながらも、電子楽器の使い方がへんてこなのだ。しかし、それが逆に新鮮な魅力となり、他にない個性として聞く者に強烈なインパクトを与える。むろん、これを理解できないリスナーたちにとっては、ただのへんてこな音楽なのだが・・・。
 ソラリスは、1980年にハンガリーのブダペスト大学の友達が集まって結成された。ソラリスというバンド名はSF作家のスタニスワフ・レム(Stanislaw Lem)の本「ソラリスの陽のもとに」からとられている。あるタレント・コンテストで好評を博した彼らは、さっそくレコードを作るチャンスを得て、同年、ファースト・シングル「Rock Hullam」(トラック曲はSolaris SPというタイトル1曲のみ)をリリースした。その時のレコーディング・メンバーは、
István Cziglán(g)、Róbert Erdész(key)、Attila Kollár(flute)、Attila Seres(b)、Vilmos Tóth(ds)だったが、メンバーは他にもいて、流動的であったようだ。
 81年には「Eden」と「Counter Point」の入ったセカンド・シングル「PENTA」をリリース。ベースが
Gáor Kisszabóに代わり、もう1人のギタリストCsaba Bogdán(彼は元々ソラリスのオリジナル・メンバーだったようだ)を加えている。
 その後さらにメンバーを替え、84年にファースト・アルバム「火星年代記」を発表した。すると、この1st.アルバムは国内で4万枚(東欧としては異例)ものセールスをあげ、一躍ハンガリーで最も知名度のあるバンドへと躍進した。また、このアルバムは西側諸国でも発売され、かなりのセールスを記録した。この時のメンバー及びゲスト・プレイヤー達が、だいたい第一期ソラリスのメンバーとみてよいだろう。改めて記しておくと、
István Cziglán/ギター、キーボード、パーカッション
Róbert Erdész
/キーボード
László Gömör
/ドラムス、パーカッション、シンセサイザー
Attila Kollár/フルート、リコーダー、パーカッション、ヴォーカル、キーボード
Tamás Pócs/ベース・ギター

ゲスト参加:
Csaba Bogdán / ギター
Gáor Kisszabó / ベース・ギター
Ferenc Raus / ドラムス・パーカッション
Vilmos Tóth / パーカッション

 しかし、この第一期ソラリスは、翌85年に自主制作のカセット・アルバムも作るが、LPとして発表せずにバンドを解散してしまう。そして、彼らはバンド名を「Napoleon Boulevard」と変え、女性ヴォーカル迎えて、NAPOLEON BOULEVARDプロダクションまで設立し、ポップス界へ進出した。
 これが国内で大成功を収め、自らのソラリス・スタジオや直営のレコード・ショップまで経営するに至ったらしい。そのバンド名義では、85年から90年までの5年間に5枚のアルバムを発表し、いずれもゴールド・ディスクを獲得したということだ。
 その後、90年になって突然ソラリスは活動再開。2枚組LPとして「ソラリス1990」を発表した。このアルバムは、ほぼ同時にCDも発売されたが、CDの方は曲数が少なかった。ただし、CDも96年に2枚組として再発売され完全版になったようだ。このアルバムの内容は4つに構成され、A面は1980と題された彼らのラジオ用ファースト・レコーディングとなっているが、1980年に録音されたものなのかは不明。B面は85年に自主制作し、お蔵入りした幻のセカンド・アルバムの音源、C面は85年のフェアウェル(解散)・コンサートの時にレコーディングされたもので、D面が新しい録音のようだが、資料が乏しく詳細はよくわからない。だが、この時の活動は単発に終わり、ソラリスとしての活動を本格的に再開するのはもう少し後のことだ。
 1995年、アメリカのプログレ専門レーベルが主催する世界最大のプログレ・フェスティバル「Progfest」に招待された彼らは、そこで予定演奏時間を大幅に越える熱演を繰り広げ、多くのプログレ・ファンたちから喝采を浴びた。この時の模様は96年に「Live In Los Angeles」としてCD化もされている。だが、これを最後に創設メンバーでありギタリストのIstván Cziglánが、不治の病に冒され、98年にとうとう帰らぬ人となってしまった。
 一時はバンド存続も危ぶまれたが、99年にはギタリストやサックス奏者、声楽家など計7人のゲスト・プレイヤーを迎えてのすばらしい力作アルバム「ノストラダムス(予言者の本)」を完成させ見事にカムバックした。このアルバムは、ご存じ16世紀のフランスの占星術師ノストラダムスを題材にしたコンセプト・アルバムで、キーボードのRóbert Erdészが中心となり制作されたようだ。彼はプロデューサー&エンジニアとしてもクレジットされている。
 いきなり宗教っぽいコーラスや、アフリカの少数民族またはアメリカン・インディアンのような笛と太鼓で始まるこの作品は、壮大にして神秘的な雰囲気が全編に漂い、これぞ「プログレ」という内容。また、Istvánのいなくなった穴は完全に埋められており、
Csaba Bogdánとゲスト・プレイヤー2人のギターは、まるでIstvánが乗り移ったかのごとく、激しく弾きまくっている。トータル60分以上、近年希に見る正当派プログレの大作だ。
 その後、2000年に「Live in Los Angeles」のリマスター盤や、ブートレグを公式アルバムとした「Back To The Roots」「NOAB」の2作、2001年に「Los Angeles 2026」という、これまた公式ブートレグ、そして2002年にフルート奏者Attila Kollárのソロ・アルバム(Attilaは98年にもソロ・アルバムを発表している)などをリリースしているものの、ソラリスとしてのオリジナル・アルバムのリリースは今のところない。「プログレ」というと、昔の作品しか聞いたことがない若いファンたちのためにも、ぜひともまた壮大なプログレ作品を発表し、リアルタイムでその素晴らしさを伝えて欲しいと願っている。尚、彼らのファースト・アルバム「火星年代記」の95年以降の再発輸入盤には、ボーナストラックが2曲追加されていることも追記しておく。
(HINE)
2004.11

音源提供協力:HIROさん




Marsbéli Krónikák
Crime/キング

Solaris1990
Gong/Hungaroton

Live in Los Angeles
SMP

Nostradamus Book Of Prophecies
Periferic/ベルアンティーク

Back to the Roots
Periferic/ベルアンティーク

ディスコ・グラフィー

1984年 Marsbéli Krónikák(火星年代記)*クラシカルな伝統音楽と遅れたハイテクが混ざり合う東欧ならではの音
1990年 Solaris1990(ソラリス1990)*LP2枚組の大作。ジャケットデザインの違うCD盤もあり
1996年 Live in Los Angeles  *Progfestの熱演を収めた正式ライヴ盤にスタジオ・レコーディングの未発表曲をプラスしたCD2枚組。2000年にも再発
1999年 Nostradamus Book Of Prophecies (ノストラダムス〜予言者の本)*ノストラダムスを題材にした壮大なコンセプト・アルバム
2000年 Back to the Roots (official bootleg) *公式ブートレグ。初期のライヴのようだ。日本盤もあり
2000年 NOAB (official bootleg)
2001年 Los Angeles 2026 (official bootleg)