HARDLINE ハードライン


ジャーニーベイビーズの融合で話題になった、バッド・イングリッシュのセカンド・アルバムが日本でリリースされる頃、すでにニール・ショーンは音楽的な食い違いからバンドを脱退し、ニュー・グループを結成していた。
それがこのハードラインなのだが、ここではニールが理想のバンドを目指し、ギタリスト、コンポーザーとしてだけではなくプロデュースまで手がけている。
しかしながら、"ギタリスト"ニールとしての欲求は、またもや満たされることがなかった。ニール・ファンとて同じ事。初めて聞いたとき、コンパクトにまとめられたギター・ソロに、またかという感じで、欲求不満が募った。思えばジャーニーの後期以来、アルバムでのニールのギターはずっとこんな調子だ。
ギタリストが3人もいて、確かにギターは分厚い音にはなっている。だが、それはヴォーカルが入っているときのリフが強化されているだけのこと。いわゆるヘヴィメタ風になっただけだ。
ギター・ソロはあっという間に終わってしまい、全てがシングル向きな曲に仕上がっている。ジャーニーで培ったノウハウが逆に作用して、知らず知らずのうちに、手軽な売れ線の音を作ってしまったのではないだろうか!?
しかも彼らがデビューした90年代初頭には、ヘヴィメタ・ブームも急沈下し、こういった音に反応する者はほとんどいなかった。それではこのバンドの作ったアルバムは駄作か?というと、そんなことはない。今聞き返してみると、けっして悪い内容ではないのだ。さすがにニールが認めただけあって、メンバー達の技量もまずまず高いレベルではあるし、曲自体もなかなか良い。

1991年、バッド・イングリッシュを脱退したニールは、同バンドからディーン・カストロノヴォ(ds)も誘い、ニュー・バンド結成に向け準備を始める。ディーンとニールとは、バッド・イングリッシュ結成以前から親交があり、ジョナサン・ケイン(元べイビーズ〜ジャーニー/key)から同バンドへ誘われた折り、「ディーンがいっしょならば」という条件付きで加入した経緯がある。
ニールがバッド・イングリッシュを脱退した理由は、バンドがあまりにもソフィスティケイトされていくことに我慢できなかったということだ。
確かにバッド・イングリッシュの中にあっては、ジョン・ウェイト(vo)ら元ベイビーズの色が濃かったように思う。その傾向はバラード曲での大ヒットもあって、なおさら加速していったようだ。
ジョニー&ジョーイ・ジョエリは実の兄弟で、以前Brunetteというバンドで活動していた。たまたまバッド・イングリッシュとスタジオが隣だったこともあり、その演奏を聞いたニールが気に入り、プロデュースを引き受けたのがきっかけで親交を深めハードライン結成へと発展したようだ。

Neal Schon ニール・ショーン/リード・ギター、ヴォーカル
Johnny Gioeli ジョニー・ジョエリ/リード・ヴォーカル、ギター
Deen Castronovo ディーン・カストロノヴォ/ドラムス、ヴォーカル
Joey Gioeli ジョーイ・ジョエリ/リズム・ギター、ヴォーカル
Todd Jensen トッド・ジェンセン/ベース・ギター、ヴォーカル

トッド・ジェンセンは元デヴィット・リー・ロス・バンドのベーシストで、みんなの強い要望で入ってもらったらしい。
そしてこの年ハードラインを結成。92年にはデビュー・アルバム「ダブル・エクリプス」もリリースした。
このアルバムは全12曲に、日本盤のみボーナス・トラック1曲が追加されるという、当時としてはかなりのボリュームだった。それにも関わらず、手抜きは一切感じられない。
シングルは2曲、1st.シングルが「ホット・シェリー」で、これはジョエル兄弟が前に在籍していたBrunetteのレパートリーであった曲だ。2nd.シングルは「キャント・ファインド・マイ・ウェイ」で、こちらはジョエル兄弟とニールの合作。2nd.シングルの方はけっこうラジオで流れていたらしいが、いずれも大きなヒットには至らず、不発といってもいいだろう。
他の曲もほとんどはジョエル兄弟とニールの合作だが、中にはジョナサン・ケインの名も2曲で見つけることが出来る。さすがにそのジョナサンとの共作「アイル・ビーゼア」はジャーニーっぽい。しかし、個人的にはグレッグ・ジェフリア(元エンジェルジェフリア)率いるハウス・オブ・ローズなどにも曲提供しているマーク・ベイカーとマイク・スレイマーの合作「ドクター・ラヴ」がハードラインには1番よく合っていてカッコイイように思う。唯一この曲のイントロではニール節も炸裂!
しかし、ハードライン全体でのニールのギターは、バッド・イングリッシュ時代やヤン・ハマーとのセッション時代と同様、ジャーニーっぽさを出さないよう、わざと違ったアプローチをしているようだ。後の再結成ジャーニーでは、ジャーニーならではのフレーズを連発しているところをみると、ニールはバンドによって弾き方を使い分けられる、かなり器用な人だということが分かる。

結局、ハードラインはこの1枚のアルバムをリリースしたのみで、その後まったく音沙汰がないまま、ニールがポール・ロジャース(元フリー〜バッド・カンパニー/vo)のツアーへ参加し始めたことによって消滅してしまった。ディーンとトッドもこの後、ポール・ロジャース・アンド・カンパンニー名義でリリースされた、ジミ・ヘンドリックスのトリビュート・ミニ・アルバムへニールと共に参加した後、ディーンはスティーヴ・ヴァイ(元フランク・ザッパ&マザーズアルカトラスホワイトスネイク/g)のソロ・アルバムへ数枚参加し、再結成ジャーニーへ迎え入れられている。トッドはアリス・クーパーのバックバンドで活動してゆくことになる。
ジョニーは、ドイツのアクセル・ルディ・ペルというギタリストと行動を共にし、アルバムへも3枚参加した後、98年にはセガのゲームソフト「ソニック・アドベンチャー」のメイン・テーマを唄って話題になった。また、2000年には日本のバンドSons of Angelsのメンバーとしてヴォーカルで参加したようだ。ジョーイは、ジョニーと別行動をとり、ほぼ音楽活動を停止してしまった。

そして2002年、なんの前触れもなくハードラインのセカンド・アルバムが発表されるというニュースが舞い込んできた。しかもニールが参加しているというではないか!!思わず、すぐにそのアルバムを予約してしまったのだが、リリース直前になってニールはメンバーでないことが判明。実際には1曲にコンポーザーとゲスト・プレイヤーとして名を連ねているだけで、ほとんどこの再編成ハードライン自体とは関係ないようだ。
それから約1カ月、かなりがっかりしたままニュー・アルバムが到着し、期待もなく聞いてみた。
だが、この10年ぶりとなるセカンド・アルバムを聞くなり、「あっ、ハードラインの音だ!」と少し安心するとともに、なぜニールがアルバム1枚で辞めたのかがわかったような気がした。このサウンドは、はじめからジョエリ兄弟の音だったのだ・・・と。
特に1曲目「ホールド・ミー・ダウン」などは重低音を効かせた、さらにスケールの大きくなったサウンドとヴォーカルのジョニーの巧さが光るなかなかの力作だ。3曲目の「パラライズド」はジャーニーのハードな部分を継承し、4曲目「フェイス・ザ・ナイト」ではジャーニーのバラードを思わせるような見事な出来映え。彼らは前作からのオリジナリティは保ちながらも、ニールと関わった事で、ジャーニーのサウンドさえ飲み込んでしまったようである。もうニールの居場所はないようだ。それが証拠に、ニールが唯一参加している「ディス・ギフト」が、このアルバム中一番の手抜き作に聞こえてしまう・・・。ついでに言わせてもらえば、個人的には変則リズムがカッコイイ9曲目の「ウェイト」もお薦めだ。
最後に現在のラインナップを記しておこう。

Johnny Gioeli ジョニー・ジョエリ/リード・ヴォーカル、ギター
Joey Gioeli ジョーイ・ジョエリ/ギター、ヴォーカル
Josh Ramos ジョッシュ・ラモス/リード・ギター 
*元The Storm(元ジャーニーの3人からなるバンド)
Christopher Maloney クリス・マロニー/ベース・ギター 
*ドゥジール・ザッパとのセッションで知られる
Michael T. Ross マイケル・ロス/キーボード
 *デレク・シュリニアン(元ドリームシアター)やサイモン・フィリップスと交流をもつ実力派
Bob Rock ボブ・ロック/ドラムス
 *元ネルソン

再始動したハードライン、このセカンド・アルバムの出来は良いにしろ、日本では大手のビクターから発売されたこと、宣伝もそれなりにしてもらったことなど、ニール・ショーンの影がまだチラついていたことは確かだ。
彼らの真価が問われるのはこれから。数少ない正当派アメリカン・ハードの後継者だけに、これからも末永く頑張って欲しいものである。
(HINE)2002.9


ダブル・エクリプス
DOUBLE ECLIPSE

1992年 MCA/Victor
ハードラインII
II

2002年 Avalon/Victor