TERRA NOVA テラ・ノヴァ


間違いなく90年代屈指の名バンドでありながら、80年代末期から続く現在の病んだ英米音楽シーンの状況下にあっては、まったく日の目を見ることがなかったバンドがいくつもある。
それでも、音楽を「ファッション」ではなく純粋な「音楽」として楽しもうとする健全なリスナーもいるわけで、比較的ロック後進国の日本やイギリス以外のヨーロッパには、そういったリスナーが多く存在する。まだまだ良質なメロディーと様式美を兼ね備えたロック黄金期のサウンドを聴いていたいのだ。
そんな期待に応えるべく、90年代になってからも英米の音楽シーンとはまったく無関係のところで、良質のロック・バンドがいくつも登場しては消えていった。テラ・ノヴァもそんなバンドの1つだろう。
まずは、メンバーを紹介しよう。
Fred Hendrix フレッド・ヘンドリックス/ヴォーカル、ギター
Gesuino Derosas ジェスイーノ・デローザス/リード・ギター
Lars Beuving ラーズ・バウヴィンク/ドラムス
Ron Hendrix ロン・ヘンドリックス/キーボード
(フレッドの実弟)
Lucien Matheeuwsen ルシアン・マテウソン/ベース・ギター

テラ・ノヴァが結成されたのは1992年のオランダ。少年時代から一緒にバンド活動をしてきたフレッド&ロン・ヘンドリックス兄弟とNINE LIVESというバンドでフレッドといっしょだったジェスイーノが中心となって活動をスタートさせた。オランダと言えばすぐに思い浮かぶのがフォーカス、オランダで初めて世界的に活躍したプログレ・バンドだった。その影響もあって、あまりオランダにハードロックやヘヴィメタルのイメージはなかったが、近年ロビー・ヴァレンタインヴァレンシアなどの活躍によって徐々にそのイメージは失われつつある。また、このテラ・ノヴァの出現によって、さらにオランダという国のイメージも変わったことだろう。
オランダ出身のバンドには、スタイルの違いはあれ、「メロディーの良さ」と「確かな演奏テクニック」いう共通の特徴を備えていることも特筆すべき点だ。他のヨーロッパ諸国と同じようにクラシック音楽の下地があり、それが強く出ているのか?はたまた、気候・風土からくる国民性なのか?は分からない。しかし、こういったメロディアスな面は、日本人にも最も好まれるところである。
ファースト・アルバムのレコーディングに入った94年の時点では、まだベースのルシアンは参加しておらず、フレッドがベースも兼任していたようだ。95年には先行シングルとして「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」をリリース。そして完成したアルバムを気に入った日本のビクターと契約が成立した。しかし、当初このデビュー・アルバムには13曲の収録曲があったらしいが、より統一感のあるバランスのとれた作品にするため、ビクターとの話し合いで10曲に絞り込まされたという話だ。出来上がったファースト・アルバム「リヴィング・イット・アップ」はメロディアスハード路線を基調にしながらも、バラードあり、アコースティックありの緩急に富んだ内容で、デビュー作とは思えないほどの完成度をみせていた。そして全曲とにかく曲がすばらしい!しかも作曲はすべてフレッドのペンによるものだというから驚きだ。フレッドはギター、ベースの他にも、キーボード、ドラムまで叩けるマルチプレイヤーで、もちろんヴォーカルも巧いし、プロデュースまで手がける。まったく恐るべき才能の持ち主・・・。また、他のメンバーも、才人フレッドが任せるぐらいだから当然技巧者揃いだ。
「テラ・ノヴァといえばバラード」と連想させるほど、彼らのどのアルバムにもバラードの名曲が収められているのだが、このファースト・アルバムでは、「サマー・ナイツ」と「ラヴ・オブ・マイ・ライフ」という極上のバラード曲が2曲も収録され、ファンの間でも人気が高い。
すぐさま日本のメロディアス・ハード・ファンの間で、このアルバムとテラ・ノヴァの名前は話題となり、あっという間に人気グループの仲間入りを果たした。
1年後の97年には、セカンド・アルバム「ブレイク・アウェイ」を順調にリリース。基本的にはファースト・アルバムと同路線で、曲構成も同じような感じだが、ファースト・アルバムでは多少荒削りな面もあったヴォーカルと演奏が巧くなり、サウンド全体がスケール・アップしていた。このアルバムからはベースもちゃんと専任のルシアンが弾いているため、フレッドにも余裕ができヴォーカルに専念できたというのも、その理由の1つだろう。しかしながら、ファースト・アルバムに酔いしれてしまったファンの耳は厳しく、アルバム後半部分に中だるみが感じられるとの指摘が多かった。1曲1曲はファースト・アルバムに劣らず良いのだが、曲数が多く、同タイプの曲が後半続くために、そう感じてしまうのかもしれない。だが、1曲目から6曲目までの流れは完璧に思えるほど素晴らしいし、特にバラード曲「オンリー・フォー・ユー」はテラ・ノヴァの全楽曲中でも1番ではないかと思うほどの名曲(自分が一番最初に聞いたのがこの曲なので思い入れもかなりある)。個人的にはファーストと甲乙つけがたい名アルバムだと思っている。
その後98年には来日し、川崎CLUB CITTAでライヴを披露した彼らであったが、次のアルバムは予定を大幅に遅らせての発表となった。この間にはベースのルシアンが脱退、本国オランダのレコード会社とのトラブル(レコーディング費用の入金が滞っていた)などがあり、98年のクリスマス前に発表する予定が、年を越してしまったようだ。
結局これらが解散の原因にもなってしまうのだが、サード・アルバム自体は時間をかけた分、逆に良くなっているというのは皮肉なものだ。
このサード・アルバムも前作同様12曲もの収録曲があるのだが、前作からの反省からか、曲が非常にバラエティに富んでいて、飽きさせない作りになっている。お得意のメロディアス・ハードやエモーショナルなバラード・ソングはもちろんのこと、カントリー調あり、インストゥルメンタルあり、ワルツありと実に色彩豊かな内容だ。また、このアルバムではリード・ギターのジェスイーノが3曲を手がけていることも良い材料となり、微妙にテラ・ノヴァ・サウンドに変化をつける役割を果たしている。個人的にはこのサードこそ彼らの最高傑作だと断言するが、HM/HRファンには、もう少しハードなファーストをお薦めする。
こんな素晴らしいアルバムを立て続けに3枚もリリースしてきた彼らであったが、サード・アルバムのレコーディング中に起きた本国のレコード会社とのトラブルから、バンド名を変更しなくてはならない事態に陥ってしまった。日本のビクターと直接契約するには、テラ・ノヴァという名前は捨てねばならず、一度解散して再出発を図るしか道はなかったからだ。そこでフレッドはソロになる決心をし、99年中にテラ・ノヴァを解散させた。

テラ・ノヴァ解散後、フレッドはソロ・アルバムの準備を進め、他のメンバー達も別々に活動してゆくことを決意し、一旦はちりぢりとなった。ところが、ロンとジェスイーノは、再びフレッドのもとへ舞い戻り、アクイラというバンドを結成することとなった。残念ながらドラムのラーズだけはV-MALEというオランダのバンドですでに活動をはじめていた。このアクイラはよりポップなサウンドになり、アルバム「セイ・イェー」を2001年にリリースしている。2002年にはTENとのジョイント・ライヴのため来日。テラ・ノヴァ時代の曲も披露し、TENとは対照的に好評を博したようだ。
実質このアクイラはテラ・ノヴァが名前を変えただけで、彼らのアルバムを聴くと、「メイク・マイ・デイ」でポップになったサウンドをさらに押し進めただけだということが分かるはずだ。だが、メロディアスで官能的なジェスイーノのギター・ソロが減ったのが個人的には少し残念・・・。(HINE)
2003.7

協力:MSG



Livin' It Up
King/ビクター

Break Away
King/ビクター

Eye To Eye
Frontiers

ディスコ・グラフィー

1996年 Livin' It Up(リヴィン・イット・アップ)*デビュー・アルバムとは思えないほどの完成度を誇る名作
1997年 Break Away(ブレイク・アウェイ)*基本的にはファーストと同路線。極上のバラード曲「オンリー・フォー・ユー」収録
1999年 Make My Day(メイク・マイ・デイ)*メロディの良さはそのままに、ひとまわりスケールが大きくなったラスト・アルバム
1999年 Eye To Eye *セカンドとサードの寄せ集め集



◆◆◆名盤PICK UP◆◆◆

メイク・マイ・デイ
Make My Day

テラ・ノヴァ
Terra Nova



1999年 King/ビクター

1 . ラヴシック Lovesick

2 . メイク・マイ・デイ Make My Day

3 . アイ・トゥ・アイ Eye To Eye

4 . ヒアズ・トゥ・ユー Here's To You

5 . アノマリー Anomaly

6 . ワイルド・シング Wild Thing

7 . アイ・キャント・ウェイト I Can't Wait

8 . ナッシング Nothing

9 . ホエア・アイ・スタンド Where I Stand

10.アイ・ウィル・ビー・ゼア I Will Be There

11.プロミス・ユー・ウェイト Promise You Wait

12.ハウ How(※終了後に隠しトラックあり)

このアルバムは、オランダが誇るメロディアス・ハードの名バンドであるテラ・ノヴァが放った3作目にしてラスト・アルバムの名盤だ。ファースト・アルバムで既に全曲完成度の高いすばらしい曲を披露していた彼らであったが、つづくセカンド・アルバムでは曲数が多くなったためか、後半もてあまし気味な感じもあった。しかしこのサード・アルバム、3枚目だというのに、いっこうに衰えないメロディセンスの良さ、ますます磨きがかかった演奏力、そして音楽的な幅を持たせ、12曲というボリュームのある曲数をまったく飽きさせない構成。まさに完璧だ!本当に恐ろしいまでの彼らの才能には驚かされる。
テラ・ノヴァと言えばバラードの素晴らしさも定評のあるところだが、このアルバムにも極上のバラード曲「ヒアズ・トゥ・ユー」と「ハウ」が入っている。特に「ヒアズ・トゥ・ユー」は良い意味でいつものテラ・ノヴァ(熱唱系)らしくない、サビの部分が静かに語りかけるようなタイプになっている名曲だ。
その他の注目曲を順に紹介すると、5曲目の彼ら初のインストゥルメンタル・ナンバーは、リード・ギターのジェスイーノがかいた曲で、曲の良さもさることながら、演奏技術の成長ぶりがうかがえる仕上がりだ。ついでに記しておくと、テラ・ノヴァのほとんどの曲を書いているのはヴォーカル&ギターのフレッド・ヘンドリックスで、単独でジェスイーノが曲をかくのは初めてのことだ。
7曲目には、これもめずらしいカントリー調の曲。アコースティック・ギターとコーラスを前面に出し、途中のギター・ソロもカントリー風のフレーズを弾いて曲を盛り上げている。アメリカン・ハードの連中はよくこういったタイプの曲をやるが、彼らほど泥臭い感じはなく、さらっとした明るい曲だ。
また、日本のためにかいたという10曲目の「アイル・ビー・ゼア」は、彼らの全楽曲中でも一番の異色ナンバーで、これがまたすばらしい!3拍子のワルツ・タイプで構成され、バイオリンやアコーディオン、オーボエ(クラリネットかも?)などを使用してノスタルジックな雰囲気を出しながらも、途中にはクイーン風多重録音によるコーラスとギターのハーモニーを思わせるパートが入り、スケールの大きなサウンドを生み出している。
緩急をつけたバランスの良い楽曲。しかもすべてが名曲揃い。そして確かな演奏技術。どれをとっても文句のつけようがない90年代最後の名盤。しかも何故かすでにデジタル・リマスターを施され、日本盤でリリースされている。これを聞かずに21世紀を迎えたメロディアス・ハード&ハード・ポップ・ファンは、即刻CDショップに駆け込もう!(HINE)