CACTUS カクタス


爆音ロックからアメリカン・ハードを切り開いた名バンド

Tim Bogert ティム・ボガート/ベース・ギター、ヴォーカル
Carmine Appice カーマイン・アピス/ドラムス、ヴォーカル
Jim McCarty ジム・マッカーティー/ギター
(*ヤードバーズルネッサンスの同姓同名人物とは別人)
Rusty Day ラスティー・デイ/リード・ヴォーカル

ジェフ・ベックから熱烈なラブ・コールを送られていた、元ヴァニラ・ファッジのリズム・セクション、ボガートとアピスがベックの交通事故によりBB&Aをあきらめ別に結成したバンドとして有名なのがこのカクタス。
ボガートとアピス2人にとっては、ただのつなぎにすぎなかったのかもしれないが、アメリカのロック界にとっては、とても重要な役割を果たした名バンドであった。
60年代半ば、アメリカのロック・シーンはサイケデリック・ブームに沸き、多くの有能アーチストをドラッグ漬けにし、亡くしていった。しかしこれを見ていたイギリスの連中は、やはりドラッグ漬けにはなりながらも、ドラッグによって引き起こされる幻覚症状とロックを組み合わせることによって、さまざまなサウンドを生み出し、70年代初頭から半ばにかけて一大ブリティッシュ・ロック・ブームを築き上げていった。
その間、アメリカのロック・シーンは低迷し、70年代後期にアメリカン・ハード旋風を巻き起こすまでは、唯一音の大きさで対抗できるグランド・ファンク・レイルロードぐらいしか大スターが生まれないという状況であった。
しかし、アンダー・グラウンドではMC5、ブルー・チアー、テッド・ニュージェント率いるアンボイ・デュークスなど爆音系と言われる大音量のロック・バンドや、ストゥージーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドといった、パンクの元祖のようなバンドが数多く活動していた。
60年代末期、アメリカン・バンドの中にあって都会的なセンスと完璧なリズムセクションで異彩を放ち、イギリスからも注目されていたヴァニラ・ファッジのメンバー2人と、この爆音系ロックの代表アンボイ・デュークスの元シンガー、ラスティー・デイ、R&Bとロックを組み合わせたバンド、ミッチ・ライダー&デトロイト・ホイールズにいたギタリスト、ジム・マッカーティーがバンドを組んだことで、かなり野性的でブルージーでありながら、どこか洗練されたサウンドが誕生した。これはブリティッシュ・ハードにも対抗できる音で、アメリカのバンドとしてはかなり異色だった。今聴いても、セカンド・アルバムのタイトル曲「ワン・ウェイ...オア・アナザー」などは、かなりハードだが印象的なギター・リフの繰り返しと変則リズムがとてもかっこいい!

既に語り尽くされた諸事情(J.B.G.参照)によって生まれたカクタスは、1970年にボガートとアピスが共に知り合いだったマッカーティーを誘い、そのマッカーティーの推薦でラスティが加わるという形で結成された。この年発表されたファースト・アルバムはかなりヘヴィな部分を強調したアルバムで、ラスティの音楽嗜好が色濃く反映したアルバムだった。それを最高のリズム・ユニットが支えているため、ラスティが以前やっていた爆音ロックと比較しても格段にヘヴィさを増している。またアルバムのジャケットは、そそり立つ1本のサボテンがまるで男の象徴のようでかなり笑えた(^_^)
このジャケットはリリース前にレコード会社から変更を要求されていたが、メンバー達がこのジャケットと同じイラストをステッカーにして、先にあちこちにばらまいてしまったため、やむなくOKが出たという話だ。
翌71年にはセカンド・アルバム「ワン・ウェイ... オア・アナザー」をリリース。ここでは、ジム・マッカーティーのギターを強調しながらも、ボガートのベースとアピスのドラムがパワー炸裂!特にこのタイトル曲は、ブリティッシュ・ハードの雄ツェッペリンなどよりさらにハードでヘヴィ、しかも泥臭い本物のブルースっぽさも感じられ、“これぞアメリカン・ハード”というサウンドをいち早く確立している。また、アピスのドラミングのすばらしさは最高潮に達し、手がつけられないほどエネルギッシュでかっこいい!
さらに同年もう1枚のアルバム「リストリクションズ」も発表。このアルバムでは、ほとんどオーヴァー・ダビング無しのスタジオ・ライブ風に仕上がっていて、彼らの演奏の巧さがいっそう引き立つものであった。メンバー自身も一番気に入っているアルバムらしい。
しかしこのレコーディング中、もっとギターを前面に押し出したいマッカーティーと、ギター並に激しいベースを弾くボガートとの間に確執が生まれ、とりあえずセカンド・ギタリストの
Ron Leejackロン・リージャックを加えることで、ギターに厚みを出し、この危機を乗り越えようとしたが、結局うまくいかずリージャックはすぐに脱退。アルバムは完成したものの、この後全盛期のカクタス・サウンドは崩壊していくのだった。
そしてついに不満を募らせたマッカーティーは、72年になってバンドを去ってしまう。
さらに、前々から素行の良くないラスティを煙たがっていたレコード会社やマネージャー達は、ボガートとアピスにこの機会に彼と離れるようにと説得していたのだ。これを知ったラスティは自らバンドを去り、ソロへと転向していった。代わりには
Peter Frenchピーター・フレンチ(元アトミック・ルースター/vo)、Werner Fritzschingワーナー・フリッツシング(g)、Duane Hitchings デュアン・ヒッチングス(kb)の3人が加わり、72年中にこのメンバーでアルバム「汗と熱気」を発表した。このアルバムは片面スタジオ、片面ライブの変則的な内容だったが、当然のことながらボガートとアピス色が濃厚になり、ファンキーっぽさとエネルギッシュでありながら洗練されたサウンドとが混ざり合い、良くも悪くもヴァニラファッジ時代末期を連想させるものになっていた。個人的には、こちらの方を先に聴いたためか、けっこうこのアルバムも気に入ってよく聴いたものだが、そのあと聴いた1st.や2nd.と比べると、彼ら本来の魅力であるワイルドで泥臭いところが弱まり、魅力半減といった感じは否めない。実際、セールス的にも前の3作を上回ることはできなかった。
このアルバム発表後、ボガートとアピスのもとへ、ジェフ・ベックから「OK、こっちは準備ができたぞ!」という連絡が入ってきた。ベックをよく知るロッド・スチュワート(J.B.G.時代にさんざんベックの音楽的なわがままぶりを見てきた)は彼らに止めた方がいいと忠告するが、2人ともまったく耳を貸さずに、あっさりとカクタスのバンド名をヒッチングスに譲り、ベックと合流してしまうのだった。彼ら2人にとってジェフ・ベックは憧れのスター、その本人から誘いを受けては、「やるしかなかった」と後に2人も語っている。
一方、カクタスは新たに
Mike Pinera マイク・ピネーラ(元アイアン・バタフライ/g)を迎え、73年ニュー・カクタス・バンドとして1枚のアルバムを残したあと解散している。
その後、ボガートとアピスはBB&Aを結成し、ベックの期待に応えるすばらしいスーパー・プレイを披露したが、ロッドの忠告通りバンドは長くはつづかなかった。しかし、彼らの夢は実現し、ベックとプレイした名プレイヤー達の1人として後世まで語り継がれることは、決してマイナスにはならないだろう。
マッカーティーはミッチ・ライダー時代の仲間とロケッツというバンドを結成し、そこそこの成功を収めながら10年間活動した後、デトロイト・ブルース・バンドへ参加し2枚のアルバムを残している。最近ではブルース・バンド“ミステリー・トレイン”を結成し活動中らしい。
ラスティ・デイはソロを経てミッチ・ライダーズ・デトロイトへ参加したが、たいした成功も収められず、76年メンバーをローリング・ストーン誌で募集し、カクタスを再結成している。この再結成カクタスはフロリダ周辺ではなかなか人気があったといわれるが、アルバムは1枚も制作されていない。尚、80年にはAC/DCが亡くなったボン・スコット(vo)の代わりにとラスティへ働きかけていたということだが実現しなかった。この頃彼はドラッグの売買にも手を染め、本物のワルになっていたせいもあったのだろうか!?そしてとうとう82年に、自宅で麻薬売買に絡む何者かにサブ・マシンガンで射殺され、息子や友人を道連れにこの世を去っている。なんというダーティーな末路だろう・・・。

カクタス・サウンドは、ボガート&アピスの生み出す超強力リズムが売りものであったが、同時に、ラスティの持つワイルドさや暴力性、マッカーティーのブルース感覚あふれるギターなどが相まって、荒削りだが骨太でごまかしのない本物の魅力を放っていた。カクタスはセールス的には恵まれなかったバンドではあったが、その後登場するアメリカのロッカー達へのよき指針となり、アメリカン・ハードの原型をつくりあげたバンドとして、忘れることはできない名バンドだ。(HINE) 2001.10



Cactus
Atlantic/ワーナー

One Way...or Another
Atlantic/ワーナー

Restrictions
Atlantic/ワーナー

'Ot 'N' Sweaty
Atlantic/ワーナー

Son Of Cactus
Atco

Cactology
Rhino/East West

ディスコ・グラフィー

1970年 Cactus(カクタス)*かなり荒削りだが、メンバーそれぞれのサウンド・ルーツを結集し、独自の新しいロックを切り開いた。ジャケットも名盤
1971年 One Way...or Another(ワン・ウェイ... オア・アナザー)*圧倒的にハードでヘヴィ。爆音系ロックを並のロックに換えてしまうほどの衝撃
1971年 Restrictions(リストリクションズ)*「イーヴィル」「アラスカ」といった彼らの代表曲を収録
1972年 'Ot 'N' Sweaty(汗と熱気)*メンバーチェンジにより、ファンキーでポップになった。スタジオとライブ半々の変則アルバム
1973年 Son of Cactus(サン・オブ・カクタス)*ニュー・カクタス・バンドとしてボガート&アピス脱退後にリリースされた唯一の作品。極めて入手困難
1996年 Cactology: The Cactus Collection(カクトロジー:カクタス・コレクション)*ボガート&アピス在籍時のベスト盤