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マナフォン / デイヴィッド・シルヴィアン

 僕は多くのミュージシャン、ことヴォーカリストを崇拝しているが、そのなかでもシルヴィアンはダントツだ。アイドルだった時代を振り返るもよし、孤高のアーティストとなった今もよし。
 アイドルだったことの反動から、シルヴィアンは近年ものすごくペシミスティックに、音楽というよりも芸術を追求している。インスタレーション作品を度々リリースしたり、前作『ブレミッシュ』は即興音楽に歌を乗せるという妙技に成功した。
 そして6年を経て、もやは仙人のような白髭姿になったシルヴィアンがリリースしたのが、『マナフォン』だ。
 本作は『ブレミッシュ』のノウハウを活かし、似たような路線で製作されている。だから以前のシルヴィンのアルバムのような「ポップ・アルバム」を求めてはまったく楽しめないだろう。逆に言えば、前作が好みであれば間違いなく楽しめる。
 だが、技術面ではまた前作とは違っている。デレク・ベイリーの即興ギターが話題となった前作だが、今作にはギターの音色は前作ほどなく、電子音楽というか完全に音響派な音作り。前作から続いて参加しているフェネスが大いに活躍している。ベイリーが逝去してしまったからそういう路線になったのかも知れず、存命だったらまた起用していたのかも。
 生楽器を余り使っていないためか、ひどく空間的に感じられる。それでもシルヴィアンが朗読するように歌っているので、アンビエントにはならない。そのシルヴィアンのヴォーカルが、近年の彼らしくて実にいい。まるで悟っちゃったかのようだ。前作よりもヴォーカルの度合いは強いだろう。
 デジタルで空間的ながら、血の通った鬱蒼としたアルバム。
 これはジャケのイメージにめちゃくちゃフィットする。そう、このアルバムを聴きたい場所は、森だ。神秘を思いながら、大音量ではなく、かろうじて聞き取れるぐらいの音量で聴いてみたい。
 つまりは、実に想像力を掻き立てる音世界なのだ。空間的に流してもいいし、ヴォーカルを楽しんでもいい。
 僕はこのアルバムを、睡眠時に流している。いっさい主張しない音とヴォーカルは空間をやわらかく満たし、快い眠りにいざなってくれる。
特に今の秋という季節にはかなり合う。じっくり聴いても、流してもいい。
 ゲストは相変わらず渋く豪華なメンツだが、中でも嬉しかったのは大友良英の参加。その手の音が好きなら音を想像できるだろうし、お薦めできる。
 これで秋にヘヴィ・ローテーションするアルバムが決まった。それも師と仰ぐシルヴィアンの作品で。こんなに嬉しいことはない。
 心地よい秋になりそうだ。

 なお、国内盤はボーナス1曲追加収録。さらに海外盤でDVD付きの限定仕様も出ている……が、死ぬほど高い。買うかどうか迷っている。
(KEN)
  
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