1曲目のRadio Nowhere のイントロを聴いただけで、このアルバムに対する期待感が嫌が上にも高まる。
スプリングスティーンのパワフルなギターとヴォーカル、ロイ・ビタンのピアノ、クラレンス・クレモンズのサックス、哀愁を帯びた独特のハーモニカ・・・・。
これは、まさしくBorn To RunからBorn In The USAの頃のブルース・スプリングスティーンの音だ。
どの曲も実にスプリングスティーンらしい「痛快なロックン・ロール」であるのだが、音がキャッチーで分かり易くなっている。
特にCYour Own Worst Enemyはイントロのストリングスに驚き、後半はオーケストラの壮大な演奏に圧倒される。
この曲なんかは、私の知らないスプリングスティーンの新生面だ。
またEGirls in Their Summer Clothesはタイトルからして、今までのボスには考えられない気恥ずかしいほど爽やかな曲である。
更にスネアの強打から始まるBLivin' In The Futureは「凍てついた十番街」をF I'll Work for Your Loveのイントロのピアノの音は「ジャングルランド」を髣髴 させ、昔と変わらぬ若きスプリングスティーンが帰ってきた事を実感させてくれる。
もう一度E・ストリート・バンドと組んで昔のような音を作りたいと思ったのは、58歳の彼からみれば必然的な事だったのだろう。
ILong Walk Homeでは「俺は歩いて帰る、故郷への長い道」というフレーズが繰り返される。元気なうちに自分たちの音楽の原点に戻りたいと思ったとしても、何も不思議ではないのだ。
30年前の「闇に吠える街」のアルバム・ジャケット写真と、この「マジック」のジャケット写真の変化には年輪の重みをズシリと感じる。
スプリングスティーンには失礼かも知れないが、オヤジを通り越して初老の佇まいを漂わせている。
しかし、当時のパワーは30年経っても何一つ失っていない。これは正にスプリングスティーンの「マジック」だ。
まだまだ老け込む年では無いし、暫くの間スプリングティーンは走り続けるだろう。
何故なら彼は「走るために生まれてきた(Born To Run)」のだから。