FOCUS フォーカス

オランダの生んだプログレの異端児

タイス・ヴァン・レアマーティン・ドレスデンハンス・クーパーの3人で作ったトリオに、後からヤン・アッカーマンが加わる形で「フォーカス」は結成された。本国オランダでは1970年にファーストアルバム「イン・アンド・アウト・オブ・フォーカス」が発表された。しかし、直後にアッカーマンは脱退。そして、直ちにピエール・ファン・リンデンと共にニューグループを結成し、タイスもフォーカスより引き抜き、実質的には乗っ取ったような形で新生フォーカスを作ってしまった。この時ベースにシリル・ハーヴァーマンスも加え、セカンドアルバム「ムーヴィング・ウェイヴス」を発表。その後1972年第11回ナショナル・ジャズ・ブルース&ロックフェスティバルにおいて、イギリスでのセンセーショナルデビューを果たし、大成功を納める。
それまで、プログレッシヴ・ロックといえば「ブリティッシュ」だった常識を、そのユニークで高度なサウンドと確かなテクニックによって打ち破った。
その成功の要因としては、彼らがインストゥルメンタル主体のサウンドであったため、言葉の壁が無かったことと、サウンド自体が他のプログレバンドと同じように、クラシック音楽やジャズを基調にしていながらも、他の様々なヨーロッパ民族音楽を取り入れ、最終的には全てを消化し、フュージョン的な域にまで到達してしまった先進性にある。もちろん、当時はクロスオーヴァーやフュージョンという言葉自体生まれておらず、ただの「プログレバンド」として、片づけられていたのだが・・・。
もう1つは、彼らの音楽はインストゥルメンタルでありながら非常にポップなメロディーづくりをするという点だ。ヴォーカルがなくとも、まるでギターや他の楽器で唄っているかのごとく演奏されるフレーズはとてもキャチーで覚えやすい。またクラシカルな楽器が度々登場するのもフォーカス・サウンドの魅力だろう。
フォーカスとしては7枚のオリジナルアルバムと1枚の未発表音源集を残し解散しているが、ヤンとタイスはその後ソロとして細々と活動していった。
1985年にはヤンとタイスによる「Focus〜青い旅路」というアルバムも製作され、再結成も噂されたが、結局はアルバム発表だけにとどまっている。
そして2002年、ついにタイスと新しいメンバーによる新生フォーカスが誕生。この新しいメンバーとはフォーカスのトリビュート・バンドであった「HOCUS POCUS」というバンドのメンバー達らしいが、そこへタイスが呼ばれてゲスト参加したのをきっかけに意気投合し、本物のフォーカスとして再結成する決心をしたのだそうだ。
同年「フォーカス8」と題されたアルバムをリリースし、2003年には来日も果たしている。
(HINE)2003.7更新


ディスコグラフィ★


IN AND OUT OF FOCUS(イン・アンド・アウト・オブ・フォーカス)
1970年 PORYDOR KK MP2330


THIJS VAN LEER/キーボード、フルート、ヴォーカル
JAN AKKERMAN/ギター
HANS CLEUVER/ドラムス&パーカッション
MARTIJN DRESDEN/ベースギター

A
1.フォーカス(インストゥルメンタル)
2.ハウス・オブ・ザ・キング 
3.ホワイ・ドリーム 
4.ハピー・ナイトメアー

B
1.アノニマス
2.ブラック・ビューティ
3.フォーカス(ヴォーカル)

1970年にオランダで発売のデビューアルバム。その後イギリスでの成功を受けて1974年に日本やアメリカでも発売され、日の目を見た作品。
上にも書いた通り、実質的には違うバンドと言おうか、こちらが本当と言うべきか、オリジナルメンバーによる唯一の作品。
まだサウンド的にも成熟しておらず、時々ちらっと、フォーカスらしさを覗かせるものの、下手なヴォーカルも入った、方向性がどっちつかずの内容。

MOVING WAVES (ムーヴィング・ウェイヴス)
1971年 POLYDOR KK MP2311


THIJS VAN LEER/キーボード、フルート、ヴォーカル
JAN AKKERMAN/ギター
PIERRE VAN DER LINDEN/ドラムス
CYRIL HAVERMANS/ベースギター

A
1.HOCUS POCUS
2.LE CLOCHARD
3.JANIS
4.MOVING WAVES
5.FOCUS II

B
ERUPTION
a.ORFEUS b.ANSWER c.ORFEUS
d.ANSWER e.PUPILLA f.TOMMY
g.PUPILLA h.ANSWER i.THE BRIDGE
j.BREAK k.EURIDICE l.DAYGLOW
m.ENDLESS ROAD n.ANSWER
o.ORFEUS p.EURIDICE

実質ヤン・アッカーマンのバンドをフォーカスという名前にしてしまった新生フォーカスの初アルバム。
サウンド的にも、ほとんどこのアルバムで独自の“フォーカス・サウンド”が確立されたと言ってさしつかえないだろう。本作のヒットにより、ヨーロッパや日本での人気を決定づけた。
今ではすっかりフォーカスのテーマ曲になってしまった、ヨーデルおじさんの声(笑)でお馴染みHOCUS POCUS収録


FOCUS III(フォーカス3)
1972年 POLYDOR KK MP9445〜6


THIJS VAN LEER/キーボード、フルート、ヴォーカル
JAN AKKERMAN/ギター
PIERRE VAN DER LINDEN/ドラムス
BERT RUITER/ベースギター

A
1.ROUND GOES THE GOSSIP
2.LOVE REMEMBERED
3.SYLVIA
4.CARNIVAL FUGUE

B
1.FOCUS III
2.ANSWERS?QUESTIONS!QUESTIONS?ANSWERS!

C
1.ANONYMUS II
(Part1)

D
1.ANONYMUS II
(Conclusion)
2.ELSPETH OF NOTTINGHAM
3.HOUSE OF THE KING

名曲「シルヴィア」を生んだ2枚組のさらなる出世作。この曲は、インストゥルメンタルでありながら異例の全英大ヒットを記録。これにより世界的な成功をも手中に入れた。
キャッチーなメロディとは裏腹に、よく聴くとかなりハイレベルな演奏をしていて奥が深い。ジャズっぽいアプローチや実験的要素は、このあとの名作「ハンバーガーコンチェルト」への予兆を示している。LPでは日本盤と輸入盤のジャケットが異っていたが、CDでは統一されたようだ。(ポインターをジャケット写真に合わせると切り替わるものはLPの輸入盤)

FOCUS at the rainbow(フォーカス・アット・ザ・レインボウ)
1974年 POLYDOR KK MP2348


THIJS VAN LEER/オルガン、フルート、ヴォーカル
JAN AKKERMAN/ギター
PIERRE VAN DER LINDEN/ドラムス
BERT RUITER/ベースギター、ヴォーカル

A
1.FOCUS III
2.ANSWERS?QUESTIONS!QUESTIONS!ANSWERS?
3.FOCUS II

B
1.ERUPTION
i Orfeus
ii Answer
iii Orfeus
iv Answer
v Pupilla
vi Tommy
vii Pupilla
2.HOCUS POCUS
3.SYLVIA
4.HOCUS POCUS(Reprise)

1973年のロンドン、レインボーシアターでのライブを収録したもので、初期の名作が演奏されている。
録音状態はあまり良くないが、ライブで評価を得たバンドだけに、その模様が聞ける唯一のアルバムは貴重だ。
これもLPとCDではジャケットが異なり、上がCDのもの(下になっているのがLP盤オリジナル・変型ジャケット)。しかし、CDのデジタル・リマスター化に伴い紙ジャケでオリジナル・ジャケットが復刻された。

HAMBURGER CONCERTO(ハンバーガー・コンチェルト)
1974年 POLYDOR KK MP2385


THIJS VAN LEER/キーボード、フルート、リコーダー、メロトロン、ヴォーカル
JAN AKKERMAN/ギター、リュート、ティンパニー
COLIN ALLEN/ドラムス、パーカッション
BERT RUITER/ベースギター、パーカッション

A
1.リュートとコーダーの為の小品(音楽の歓び)
2.ハーレム・スカーレム
3.ストラスブルグの聖堂
4.バース

B
ハンバーガー・コンチェルト
I.スターター
II.レア
III.ミディアムI
IV.ミディアムII
V.ウェルダン
VI.ワン・フォー・ザ・ロード

フォーカスの代表作とも言える名盤中の名盤。全曲をタイスとアッカーマンの2人で作り、2人の個性のぶつかり合いから生まれる素晴らしいサウンドが広がる。
特にSIDE-B全てを占める組曲の超大作、「ハンバーガー・コンチェルト」はフォーカスの魅力を全て出し尽くしたような出来映えだ。アッカーマンのFenderストラトキャスター+マーシャル(ギターとアンプの種類)の組み合わせから繰り出される泣きのギターはもう最高!
かのリッチー・ブラックモアが絶賛していたという話しにもうなずける。
SIDE-Aは静と動が交互に現れる構成で、最初にリュートの静かな音色で滑り出し、最後はちょっとハードなアッカーマンのギターで終わるといったところ。
また、このアルバムではクラシカルなアナログ楽器を随所に使用し、中世ヨーロッパ的な音作りがなされているのも魅力だ。
曲良し、演奏良しのまったくスキのない内容。

MOTHER FOCUS(マザー・フォーカス)
1975年 POLYDOR KK MP2514


THIJS VAN LEER/キーボード、フルート、ヴォーカル
JAN AKKERMAN/ギター
DAVID KEMPER/ドラムス
BERT RUITER/ベースギター、ヴォーカル

A
1.マザー・フォーカス
2.アイ・ニード・ア・バスルーム
3.ベニー・ヘルダー
4.ソフト・ヴァニラ
5.ハード・ヴァニラ
6.トロピック・バード

B
1.フォーカスIV
2.サムワンズ・クライング…ホワット!
3.オール・トゥゲザー…オー・ザット!
4.ノー・ハング・アップス
5.マイ・スウィートハート
6.ファーザー・バッハ

前作とは打って変わって、小作品の寄せ集めみたいな内容だが、その各曲はなかなかいい。
ここでは、もうプログレというカテゴリーには入り切れないサウンドになり、今で言うフュージョンサウンドに近いものになっている。
ドラマティックな展開はない代わりに、心地良く気軽に聞けるサウンドでもある。
しかし、ついにここで個性の強すぎるタイスとヤンの確執が表面化。残念ながら、このアルバムを最後にヤン・アッカーマンは脱退。実質“フォーカス・サウンド”が聞けるのは最後となってしまった。

SHIPS OF MEMORIES
(シップスオブメモリーズ〜美の魔術)
1976年 EMI-Bovema CDM 7 48858 2
FOCUS CON PROBY
(新しき伝説)
1978年 EMI CDM 7 48339 2

ヤン・アッカーマン脱退後に出た未発表テイク集 ヤン・アッカーマン脱退後唯一にしてフォーカスとしてのラストアルバム

FOCUS 8(フォーカス8)
2002年 Victor VICP-62150


THIJS VAN LEER/キーボード、フルート、ヴォーカル
BOBBY JACOBS/ベース・ギター
JAN DUMEE/ギター
BERT SMAAK/ドラムス

1.ロック・アンド・リオ
2.タマラズ・ムーヴ
3.フレットレス・ラヴ
4.ハーキー・ターキー
5.デ・ティ・オ・デ・ミ
6.フォーカス8
7.スト・セ・ラディーティ・オスタタク・ジヴォータ?
8.ニューロティッカ
9.ブラザー
10.ブリズ・テーベ
11.フラワー・シャワー
この再結成後初のアルバムは「ムーヴィング・ウェイヴス」あたりのサウンドとそっくりで、良い悪いは別として、とても懐かしい感じのする内容に仕上がっている。ギターのヤン・デュメーもかなり頑張ってアッカーマン風の音作りを忠実に再現しているが、それだけに、もしこれが本物のアッカーマンだったら・・・と思わずにはいられない。
だが、その想いはアッカーマンの熱烈なファンであるからこその願いであり、普通のプログレ・ファン並びに初めて聞いた若いリスナーの方々には、まったく問題なくすばらしいアルバムだとお薦めできる。