Written by HINE

ノーボディズ・フール
NOBODY'S FOOLS

スレイド
SLADE



1976年 Polydoor/ポリドール
SIDE-1

1.ノーボディズ・フール
Nobody's Fools

2.ドゥ・ザ・ダーティ
Do The Dirty

3.レッツ・コール
Le's Call It Quits

4.バック・アップ・ユア・トラブル
Pack Up Your Troubles

5.イン・フォー・ア・ペニー
In For A Penny

6.ゲット・オン・アップ
Get On Up
SIDE-B

1.ロスアンジェルス・ジンクス
L.A. Jinx

2.ジャックとジル
Did Your MamaEver Tell Ya

3.スクラッチ・マイ・バック
Scratch My Back

4.私は話し手
I'm A Talker

5.世界はステージ
All The World Is A Stage
 「Cum On Feel The Noize(邦題:カモン!!)」に代表されるスレイドのヒット曲は知ってはいるが、アルバムとなるとどうもピンとこないというロック・ファンも多いのではないだろうか!?編集盤のSLADESTは別(これはシングルの寄せ集め)として、一般的にスレイドの代表作と言われる「SLADE?」あたりをじっくり聞いてみたとしてもそれは変わらないかもしれない。それどころか、さらにイン・フレイムぐらいまでを聞き進めてみて、「あぁ、スレイドっていうのはシングル・ヒットだけを狙っているポップ・ロック・バンドなのだろうな」という結論に達してしまう可能性が大だ。
 確かにレコード会社サイドの要望でシングルを優先させ、アルバムはヒット曲と捨て曲を適当に寄せ集めただけというものが、この時期のグラム・ロッカーたちにはよくあった。スイートしかり、スージー・クアトロしかりである。
 ところがである。落ち目だと言われ始めた時期に、彼らはこんな名盤も出していたのだ。本作はもう1曲目からラストまですべてが名曲揃い。曲調はバラエティに富み、ハードロックあり、レゲエあり、カントリーあり、ブギーあり、バラードありでまったく飽きさせない。いったいなぜこの中から地味な「イン・フォー・ア・ペニー」だけがシングル・ヒット(全英11位)したのか理解に苦しむほどだ。もちろんこの曲も良い曲ではあるのだが、もっとスレイドらしくノリの良い1曲目や6、7曲目あたりを第1弾シングルにした方が良かったのではないか?と個人的には当時から思っていた。単なる1リスナーがそんなことを思ってどうなることでもないが、それほどこのアルバムには他にも良い曲があり、スレイドが単なるヒット曲製造マシンではないということを、もっと多くの人たちに知ってもらいたかった。本作のリリースは1976年、ちょうどこの頃からイギリスではロンドン・パンク旋風が巻き起こっていた。その騒ぎに埋もれてしまった隠れた名盤として、今改めて再評価すべき作品だろう。

 アルバム・タイトルともなった1曲目は、ヘヴィ・メタル・キッズを想わせるピアノの音が印象的なハード・ポップ・ナンバー。この曲こそ第一弾シングルに相応しいポップで軽快な名曲だ。もしかしたら、4分以上あるという理由でシングルからはずされたのかもしれない。
 2曲目は最初の「ブギ〜〜!」というかけ声通りのハード・ブギ。イントロ〜出だし部のギター・リフこそかなりヘヴィだが、途中からポップなメロディーに変わるのが彼ららしい。
 3曲目はスロー・テンポのストレートなロックンロール。ギターのデイヴが多重録音でかなり頑張っている。
 4曲目は一転してほのぼのとしたカントリー・ナンバー。この曲でもデイヴがアコースティックのスライド・ギターとエレクトリックで大活躍。
 5曲目がシングルにもなった「イン・フォー・ア・ペニー」で、彼らにはめずらしいちょっとマイナー調のミディアム・バラード。メロディもそうだが、バックの演奏もビートルズっぽい。これは意識的にやっているのだろう。
 上の曲目リストではA面になっているが、もしかしたら次の「ゲット・オン・アップ」からがB面だったかもしれない。手元にはレコードの本体が無く帯しかないので、記憶を頼りにかいていることをお許しいただきたい。この曲は「まさにスレイド」といった、ノリの良いハードでポップな曲調。なぜかBTOやトッド・ラングレンを思い起こさせるイントロ。おそらくギター・リフの音質が似ているのだろう。個人的にはセカンド・シングルにしたい曲。
 B-1もまたスレイドらしいノリの良い名曲。あの「Cum On Feel The Noize」にも似た曲調だが、バッキングのギターはフュージョンっぽいコードを使ったりしている。この曲もシングルにしてもおかしくないほどだ。
 B-2は何かつぶやく声が入った後、いきなりハードなスライド・ギターで始まるレゲエ・ナンバー。ノディ・ホルダーのダミ声もうまくこのサウンドにマッチし、どんなサウンドでもやはり彼が唄えばスレイドになるということを印象づける。
 B-3は、このアルバム中でも最もハードなナンバー。デイヴのギターはたいしたフレーズを弾いているわけでもないが、センス良くかっこいい。
 B-4はジョージ・マイケルの大ヒット曲「Faith」に似た(こちらの方が全然早い時期だが)、アコースティック・ギターのリフで始まるラテン風味の曲。
 そして最後は初期のポップなストーンズを想わせるような曲で、ギターもそれらしく、激しく歪ませたファズっぽい音で絡んでくる。

 よくグラム・ロックには音楽的共通性がないといわれるが、個人的には「強烈な個性を持ったヴォーカル」「ストレートでポップな曲調」という少なくとも2つの共通性はあるように思える。T・レックスや初期のデヴィッド・ボウイ、スイート、スージー・クアトロ、シルヴァーヘッドなどなど、そしてこのスレイドの音楽性もそれにピッタリと当てはまる。もちろんビジュアル面も含め、スレイドはまさにグラム・ロックの極めつけのような存在だった。(HINE)