NIGHTWISH ナイトウィッシュ


 まだ半年も経っていない最近のことだが、新宿にある大型ミュージック・ショップ店内の視聴コーナー前に、ひときわ異彩を放つ女性が写っているバンドの写真が立てかけてあったので、なんとなく惹かれそのCDを聞いてみた。それはヘヴィメタルなのだが、オペラティックな歌唱法の女性ヴォーカルを中心にした斬新なサウンドで、とてもインパクトあるものだった。しかし、その場では曲がキャッチーではなかったので良さが分からず、買わずに帰った。ところが、帰ってからも、どうも「あの声」と見事なサウンド・アレンジが頭から離れない。そこで、このサイトの掲示板に「ナイトウィッシュというバンドが、かなり期待のできるニュー・アルバムを発表した」とだけお伝えした。すると、このバンドを知っていた方からサード・アルバムも良かったとの情報を得、早速そのサードを聴いてみることにした。
 聴いてみると、ニュー・アルバムである「ワンス」よりポップな仕上がりのせいか、一回聞いただけですぐに気に入り、彼らの生み出す不思議な音世界にどんどん引きずり込まれていったのだった。その後いろいろと調べてみた結果、5th.アルバムの「センチュリー・チャイルド」が一番のセールスをあげている(その時点で)ことが分かり、それもすぐに購入したが、そのアルバムは何度聴いても、どうもピンとこない。デビュー当初は良くても、だんだんマンネリ化し、才能枯れするということはよくある。このバンドもそうなのかと諦め(本当は的はずれだったのだが)、次にはさかのぼってセカンドも聞いてみた。するとこれはかなりいい!こうなると勢い、全部揃えてしまおうかという気になり、「ワンス」やファーストと4th.のライヴ・アルバムも手に入れた。
 こうして全アルバムを揃えた後、聴き込んでいくうちに、近年の2作はわざとポップ&キャッチーにしていないということがだんだん分かってきた。ポップな曲はあえてはずしボーナス・トラックに回していたのだ。なんという余裕!もしかしたら、このバンドはとてつもない潜在能力を秘めているのかもしれない・・・しだいにそう思えてきた。

 ナイトウィッシュが生まれたのは1996年のこと。キーボード・プレイヤーであり、実質バンドの中心人物であるツォーマスが、まだ故郷のフィンランドKiteeで臨時教師をしていた頃の話だ。彼はまず3曲のアコースティック・ナンバーを書き上げ、それをレコーディングするために、地元の友人でギタリストでもあるエンプに声をかけた。エンプは、やはり地元kiteeで生まれ育ちクラシック・ヴォーカルと演劇を学んでいたターヤも誘い込み、3人でデモ・テープのレコーディングを開始した(エンプがベースとギターを兼任)。
 このファースト・デモは、97年の1月までには完成し、レコード会社やプレス用に配られたが、まったく反応はなかった。そこで、新たにエレクトリック・ギターとドラムの導入を考え、エンプの幼なじみであるドラマーのユッカをバンドに引き入れることにした。このメンバーでレコーディングした7曲のデモ・テープを持ち、再びレコード会社とプレスへ働きかけると、今度はめでたくフィンランド屈指のヘヴィ・メタル・レーベル「Spinefarm」の目にとまり契約が成立。同年のうちにさっそくファースト・アルバムの制作に取りかかった。
 このデビュー・アルバムが発表されたのは、フィンランドでは97年10月、他のヨーロッパ諸国では98年3月で(日本は未発売)、本国フィンランドでは、いきなりトップ40入りし、シングル・カットされた「The Carpenter」はトップ10入りまで果たしたという。だが、今聴いてみると、このアルバムでのサウンドには、まだまだ素人っぽさが残り、世界レベルには到底なり得ていない。もしこの時点でワールド・リリースしても、成功はしなかったことだろう。特にツォーマスのヴォーカルはひどいもので、聴いているこちらが恥ずかしくなるほどだ。楽曲的には民族音楽やクラシック・ミュージックをヘヴィメタルと組み合わせ、さらにターヤの独特な歌唱法によって、すでに後の成功につながる片鱗をみせてはいるが、それも完成度が低いものだ。
 この後、ターヤがまだシベリウス・アカデミーという音楽名門校に通っていたり、エンプとユッカが兵役を終えていなかった(フィンランドでは軍隊に6ヶ月もしくは公共サービスを390日経験しなければならない)ため、一時活動を休止し、98年夏になって再びセカンド・アルバムのレコーディングのため集結した。尚、このセカンド・アルバムでは、ツォーマスの幼なじみであるサミにベース・ギターを依頼し、そのまま彼をメンバーとして迎え入れた。このメンバーが実質ワールド・デビューのオリジナル・ラインナップともいうべきものなので、改めて整理しておこう。

Tarja Turunen ターヤ・トゥルネン/ヴォーカル
Tuomas Holopainen ツォーマス・ホロパイネン/キーボード、ヴォーカル
Emppu(Erno) Vuorinen エンプ(エルノ)・ヴオリネン/ギター
Jukka Nevalainen ユッカ・ネヴァライネン/ドラムス、パーカッション
Sami Vänskä サミ・ヴェンスケ/ベース・ギター

 98年12月にリリース(日本では99年3月)となったこのセカンド・アルバム「オーシャン・ボーン」での彼らは、前作とは比較とならないほどの成長を遂げ、曲の良さやサウンド・アレンジ面でも大幅に前作を上回っていた。特にターヤのオペラ的歌唱法をうまく利用し、悪魔の語り手と思われる男の太い声との掛け合いを繰り広げさせた3曲目「デヴィル&ディープ・ダーク・オーシャン」や、5曲目の「パッション・アンド・ジ・オペラ」の後半に出てくる、オペラ歌手の発声練習のような部分を取り入れたセンス、また、北欧系の民謡をうまく取り入れた7曲目のインストゥルメンタル・ナンバー「ムーン・ダンス」などは本当に素晴らしい。しかしながら厳しい見方をすると、それでもまだスケール感が並のバンドと言わざるを得ないのも事実で、使用機材などのせいもあろうが、シンセサイザーやストリングスの音が、よくあるB級北欧メタル風でプアーなのだ。
 だが、本国ではこのアルバムが9位に入る大ヒット作となり、シングル「サクラメント・オブ・ウィルダーネス」も国内チャートでNo.1に輝いたことから、彼らはフィンランドでは押しも押されぬ大スターへと躍進し、自信と多くの富を得たようだ。その結果が、さらにスケールを大きくした次作となって反映されている。
 2年を費やし(もちろんこの間にはツアーなどもしているが)、満を持して2000年にリリースしたサード・アルバム「ウイッシュマスター」では、まず一聴して音の奥行きが深く繊細になり、「本物」っぽくなっていることが分かる。ターヤのヴォーカルも表現力を増し、楽曲もツォーマスがほぼ一人で作曲しているにも関わらず、才能枯れするどころか、ますますメロディックになり、大ヒットを望めるポップさをも身につけていた。もちろんこれが売れない理由はなく、フィンランドでは初登場1位、ドイツでも21位、フランスでも66位にチャート・インし、いよいよ世界的にも注目を集める存在となってきた。
 この後、大規模なワールド・ツアーを行った後、ゲイリー・ムーアのカヴァー曲をリーダ・トラックとし、新曲2曲と1st.アルバムに入っていた「アストラル・ロマンス」のリメイク・ヴァージョン、ワールド・ツアーのライヴ音源から6曲を収録した企画アルバム「オーヴァー・ザ・ヒルズ・アンド・ファー・アウェイ」を2001年に発表(フィンランドではこのアルバムも1位に輝く)。ライヴでの実力の高さもみせつけた。
 ところが、そんな成功の裏では、音楽的意見の食い違いからメンバー内に亀裂が生じ、ツォーマスはナイトウィッシュを続けるべきか解散すべきか真剣に悩んでいたという。結局それは、ベーシストのサミが「ナイトウィッシュでの活動に情熱が注げなくなった」という理由で脱退という形で表面化した。だが、それは結果的にバンドにとって良い方向へ作用し、さらにバンドを飛躍させるきっかけとなった。
 サムの代わりに加入した元TAROTの
Marco Hietala マルコ・ヒエタラ(b,vo)は、ベーシストとしてだけではなく、リード・ヴォーカルもこなせる歌唱力もあり(TAROTではリード・ヴォーカルも兼任していた)、作曲能力にも優れる逸材だったのだ。おまけにルックス面でのインパクト(長い顎髭を2つに分け結んでいる)も相当なもので、ますますナイトウッシュの魅力を増幅させた。
 2002年には、マルコが加入して初めてのアルバム「センチュリー・チャイルド」を発表。このアルバムは、冒頭にも記した通り、表面的なポップさを廃し、静と動をうまく使い分けた奥行きのあるサウンドへと変化している。初めて聞いたときはもちろん、2,3回聞いただけではよく分からないというのが、正直なところだろう。最初はむしろ、前作までのような曲調のボーナストラックの方が良いのでは?とさえ思ったほどだ。しかし、4回、5回、と聞くうちにじわじわとジャブのような効き方で良さが伝わってくる不思議なアルバムだ。マルコもすでに、9曲目のミュージカルのカヴァー曲「オペラ座の怪人」でのデュエットで、十分すぎるほどの存在感を示し、新しいナイトウィッシュの方向性をも決定づけている。またこのアルバムは、これほどポップさを抑えたにも関わらず、フィンランドでは発売開始からたったの2時間でゴールドディスク、2週間でプラチナディスク、その後ダブルプラチナムという快挙を成し遂げ、当然のごとくチャートでもシングル「エヴァー・ドリーム」と共にNo.1を獲得した。さらに、このアルバムはドイツでも5位、オーストリアでも15位を記録している。
 この大成功を受けて、彼らの契約レーベル会社であるSpinefarm Recordsは、メジャー・レーベルのUniversalと配給契約を締結し大勝負に出た。もちろん配給会社を通せば売り上げ単価は落ちるのを覚悟で、自国が誇るバンドを世界的なメジャー・バンドへと押し上げたいという熱意から、このような行動に出たのだろう。そして2004年、ナイトウィッシュは、その期待に応えてあまりある、とてつもないスケールのアルバム「ワンス」を完成させた。すでにこのアルバムは自国でダブル・プラチナムを獲得した他、ヨーロッパ各地(ドイツ、スイス、オーストリアなど)でもゴールド・ディスクを獲得、アメリカでは9月に発売され、ビルボードでも「ヨーロッパで最も売れているバンド」として紹介されている(実際ビルボードのユーロ・チャートでは1位)。

 売れたことにおごることなく、次にもっと良い音楽を作るために機材や環境を整え、それをフル活用して次に臨む彼らの姿勢は、ロック・ミュージックに対してフィンランドという欧米に比べれば決して恵まれた環境ではないからこそ生まれる、ハングリー精神のようなものかもしれない。彼らの理想は高く、それを実現するために稼いだお金はすべて機材やレコーディングのためにつぎ込んでいる印象だ。
 さて、今作「ワンス」も大成功に終わった。これで得た富を次にどう生かしてくるのか、今から楽しみで待ちきれない。
(HINE) 
2004.10

音源提供協力:HIROさん 情報提供協力:まっちゃん


WISH I HAD AN ANGEL/NIGHTWISH (YouTubeより)



Angel Fall First
spinefarm/トイズファクトリー

Oceanborn
spinefarm/トイズファクトリー

Wishmaster
spinefarm/トイズファクトリー

Over The Hills And Far Away
spinefarm/トイズファクトリー

Centurey Child
spinefarm/トイズファクトリー

ディスコ・グラフィー

1997年 Angel Fall First(エンジェル・フォール・ファースト)*随所に後の彼らのサウンドが見え隠れするが、かなり素人っぽさが残るデビュー作
1998年 Oceanborn(オーシャンボーン)*生まれ変わったかのように完成度が高く、曲もいい
2000年 Wishmaster(ウィッシュマスター)*彼ら独自のサウンドを突き詰め独特の個性を確立した記念碑的名作
2001年 Over The Hills And Far Away(オーヴァー・ザ・ヒルズ・アンド・ファー・アウェイ)*新曲2曲とカヴァー曲を含む2000年のライヴ音源
2002年 Centurey Child(センチュリー・チャイルド)*ベース&ヴォーカルにマルコ・ヒエタラを迎えサウンド的にも厚みを増した
2004年 Once(ワンス)*本物のオーケストラをバックにターヤとマルコのヴォーカルが絡み、ヴォルテージは最高潮!今のところ彼らの最高傑作



★★★名盤PICK UP★★★

ワンス
Once

ナイトウィッシュ
Nightwish

2004年 Universal/ユニヴァーサル

1.ダーク・チェスト・オブ・ワンダーズ
 
Dark Chest of Wonders

2.ウィッシュ・アイ・ハド・アン・エンジェル
 
Wish I Had an Angel

3.ニモ
 
Nemo

4.プラネット・ヘル
 
Planet Hell

5.クリーク・メリーズ・ブラッド
 
Creek Mary's Blood

6.ザ・サイレン
 
The Siren

7.デッド・ガーデンズ
 
Dead Gardens

8.ロマンティサイド
 
Romanticide

9.ゴースト・ラヴ・スコア
 
Ghost Love Score

10.クオレマ・テキー・タイテイヤン(デス・メイクス・アン・アーティスト)
 
Kuolema Tekke Taiteilijan(Death Makes An Artist)

11.ハイアー・ザン・ホープ
 
Higher Than Hope

12.ホワイト・ナイト・ファンタジー
 
White Night Fantasy
*(bonus track)

13.リヴ・トゥ・テル・ザ・テイル
 
Live to Tell the Tale
*(bonus track)

 初めてこのアルバムを聞いたとき、そのサウンド・スケールの大きさやターヤ(vo)のオペラ歌手そのままの歌声に驚いたと共に、70年代に活躍した(今も再結成して活動しているが)プログレッシヴ・ロックの名バンド、「ルネッサンス」を思い起こした。もし、ルネッサンスがラウドロック全盛の今現れたらこんな感じになっていたのだろうかと・・・(ルネッサンスのアニー・ハズラムもオペラ出身)。まさにヘヴィメタル+オペラ。かつてフレディ・マーキュリー(クイーン/vo)はソロで本物のオペラ歌手と共演し、ロックとオペラをうまくた融合させたアルバムを出しているが、ナイトウィッシュはそれよりもっとハード&ヘヴィに、オペラティックなシンフォニック・サウンドとヘヴィメタルの融合にチャレンジしている。
 そして、このアルバムが実質その完成型ともいえるのだが、惜しくもヴォーカルのターヤがこれを最後に脱退してしまい、彼ら自身もう二度とこの素晴らしいサウンドを再現できないのは残念でしかたがない。

 確かに次のアルバム「ダーク・パッション・プレイ」も普通にみれば文句の付けようがないくらい素晴らしい名盤だろう。新ヴォーカルのアネットも、何でも歌いこなせる優れた資質を持っている。しかしながら、ターヤ+ナイトウィッシュという組み合わせには、それ以上の神秘的な魅力を感じるのだ。それはターヤの放つ強烈な個性による「魔力」とでも表現するしかない。そして、そのターヤの声とマルコ・ヒエタラの荒々しいメタル・ヴォイスとの相性がまた抜群に良かった。バンドリーダーであるツォーマスが創り出す曲も、ターヤの声を最大限に生かすべく考え抜かれたものだ。その証拠に、相性の悪いポップな曲(曲自体は良い出来)はあえて外され、ボーナストラックとなっている。

 本作の曲についても、少しかいつまんでだが触れておこう。まず1曲目は前作までの流れを汲むアップテンポでハードな曲。イントロだけでもうやられた感じだ。オーケストレーションの使い方も素晴らしい!初期にはシンセだけでかなりチープな音を出していたオーケストラ風のバックも今では本物のオーケストラになり、重厚感ではあのラプソディに肩を並べるまでに成長した。
 2曲目の「Wish I Had An Angel」は、ナイトウィッシュの全楽曲中でも特にファンたちから人気がある曲で、ターヤとヒエタラのヴォーカルの掛け合いがたまらなくかっこいい!まるで天女と野獣に扮した二人が唄うロック・オペラのようだ。
 つづく3曲目の「Nemo」は真っ先にシングル・カットもされた曲で、伸び伸びと唄うターヤの透き通るような声を堪能できるミディアム・テンポ・ナンバー。
 4曲目も素晴らしいコーラス・アレンジが冴えわたる曲。特にイントロの入り方とエンディングが特徴的。
 5曲目は後半に名作映画「ダンス・ウィズ・ウルブス」にも登場したラコタというインディアンの部族の言葉で詩を朗読する異色作。曲自体も雄大な自然を思わせるスケール感あふれる曲だ。
 
少し飛ぶが、9曲目は本作のクライマックスともいえる10分以上にわたる大作。ダイナミックなオーケストレーション・アレンジ、時に優しく、時に激しく唄うターヤのオペラティックな歌唱、ドラマティックな曲展開、どれをとっても素晴らしい。
 ラストの11曲目も聴かせる名曲。アコースティック・ギター1本で静かに始まり、やさしくターヤが歌いだす。中盤からはハードなギター、ヒエタラの叫び鳴くようなコーラスに、ぐっと引き込まれ、最後はオーケストラも加わって、完全燃焼するかのように激さは頂点を迎える。そして、最後は余韻を残しながら静かに終わる。まるで、3曲のアコースティック・ナンバーのデモテープから始まった、彼らの今までの道のりを凝縮したかのような曲ではないか。 (HINE)