私が選ぶ、キング・クリムゾンの名盤  Written by ぴー


クリムゾン・キングの宮殿
In The Court Of The Crimson King

1969年作 Virgin/Universal International

Robert Fripp (guitar)
Greg Lake (bass guitar, lead vocals)
Ian McDonald (reeds, woodwind, vibes, keyboards, mellotron, vocals)
Michael Giles (drums, percussion, vocals)
Peter Sinfield (words and illumination )

1. 21st Century Schizoid Man (Fripp, McDonald, Lake, Giles, Sinfield) (6:25)
2. I Talk to the Wind (McDonald, Sinfield) (5:40)
3. Epitaph (Fripp, McDonald, Lake, Giles, Sinfield) (8:30)
4. Moonchild (Fripp, McDonald, Lake, Giles, Sinfield) (12:09)
5. In The Court of the Crimson King(McDonald, Sinfield) (8:48)

 まず、オープニングの“21世紀の精神異常者 21st Century Schizoid Man”に度肝を抜かれる。
 破壊的でアグレッシブなフレーズと音色、高度なテクニックに裏付けされた個々のミュージシャンの壮絶なプレイは、精神異常者の世界を完璧に表現するほどエキサイティング。それなのに、難解なユニゾン等は実にクールにびしっときめていて、そのアンバランスがやたらスリリングだ。また、一曲通してだれる部分が全くなく、ぞくぞくするほどの緊張感が最後まで持続している。そして、その狂気じみた異常なサウンドワールドは、一変してメルヘンティックで、清涼感溢れる二曲目の“風に語りて I Talk to the Wind ”に切り替わる。その後、重厚でメッセージ性の濃い鎮魂歌のような“エピタフ Epitaph ”〜、冷ややかさと暖かさが絶妙に同居する幻想的な“ムーン・チャイルド Moonchild ”を経て、ついに、偉大なアルバムのエピローグであり、“21世紀の精神異常者”の持つ破壊感の対極にあるタイトルチューン“クリムゾンキングの宮殿”に達する。このタイトル・チューンは、クラッシックミュージックの域に到達しようかと言うぐらいに華麗で、ダイナミックな構築美を備え、この超大作のラストシーンを飾る。ロックミュージックにおいて、ここまで美しく荘厳な曲は、他にレッド・ツェッペリンの“天国への階段”しか、私は知らない。


アイランド
Islands

1971年作 Virgin/Universal International

Robert Fripp (guitar, mellotron, Peter's Pedal Harmonium, sundry implements)
Mel Collins (flute, bass flute, saxes, vocals)
Boz Burrell (bass guitar, lead vocals, choreography)
Ian Wallace (drums, percussion, vocals)
Peter Sinfield (words, sounds, visions)
Featured players:
Keith Tippett (piano)
Paulina Lucas (soprano)
Robin Miller (oboe)
Mark Charig (cornet)
Harry Miller (string bass)

1.Formentera Lady (Fripp, Sinfield) (5:20)
2.Sailor's Tale (Fripp) (12:29)
3.The Letters (Fripp, Sinfield) (4:32)
4.Ladies of the Road (Fripp, Sinfield) (5:32)
5.Prelude: Song of the Gulls (Fripp) (4:15)
6.Islands (Fripp, Sinfield) (9:16)

 優れたミュージシャン達の、ハイレベルな精神と技術によって表現される、幻想的な序章に先導され、ボズの美しく澄んだ歌声が哀愁に満ちたメロディーラインをなぞり始める。もう既に聴く者は、このオープニングの“フォーメンテラ・レディー Formentera Lady”から、優美で魅惑的な『アイランド』の世界に引き込まれていってしまう。
 そして、6/8拍子を刻むスピード感のあるドラムのリズムと、シンプルで堅実なベースラインを土台とした“船乗りの話 Sailor's Tale”が、独創的なギタープレイを絡め、広大なスケールで展開する。
 次の“レターズ The Letters”では、エピタフやムーンチャイルドに通ずる、クリムゾンらしい、
幻想的な世界が繰り広げられている。もの悲しくも、実に美しい曲である。
 4曲目の“レディーズ・オブ・ザ・ロード Ladies of the Road ”には、盛り沢山の聴き所が有る。表情豊かなリードボーカル、むせび泣くようなサックス、変拍子を交えた斬新なリズムセクション、異次元から響いてくるような独特なギターの音色、そして、ビートルズ風コーラス、等々・・・。
 5曲目の“プレリュード:かもめの歌 Prelude: Song of the Gulls”は、クリムゾンが辿りついた、ひとつの究極の形である。彼等には、音楽ジャンル(ロック)の定義は通用しない。あるテーマを突き進めて行く過程で、不必要な要素は省かれ、必要な要素は外のカテゴリーからでも取り入れられた。その結果生まれたのが、限りなくクラッシック・ミュージックに近づいてしまったこの曲である。
 そして、タイトルトラックの“アイランド Islands”が、このアルバムのラストを飾る。この曲が持つピュアな美しさに触れると、必ず心地良い感動が湧き上がってくる。
 このアルバムは、批評家達に、「クリムゾンらしくない。」とか、「クリムゾンとして聴かないほうが良い。」等と言われたが、実はこれぞ、クリムゾンミュージックにおける“美の追究”の終着点であり、集大成なのである。この高尚な美の世界を創造出来るのは、キング・クリムゾンしかあり得ない。そこには、クラッシック、ジャズ、そしてロックの持つそれぞれの要素が上手く溶け合っていて、その試みは実験的でありながら、見事に調和の取れた完全無欠のクリムゾン・ワールドが創り上げられている。このアルバムの中のほとんどの曲は、「ロックとはこうあるべきである。」という、既存の定義には当てはまらない。そんなくだらない理屈は抜きにして、クリムゾンにしか創り得ない、この魅惑の世界に触れ、癒しの空間に誘われてみれば良い。そこに答えはあるのだから。
 私は「音楽人生の中で“アイランド Islands”を聴く事が出来て良かった。」と、つくづく思う。


太陽と戦慄
Larks' Tongues In Aspic

1973年作 Virgin/Universal International

Robert Fripp (guitar, mellotron, devices)
David Cross (violin, viola, mellotron)
John Wetton (bass, vocals)
Bill Bruford (drums)
Jamie Muir (percussion and allsorts)

1.Larks' Tongues in Aspic Part One (Cross, Fripp, Wetton, Bruford, Muir) (13:36)
2.Book of Saturday (Fripp, Wetton, Palmer-James) (2:49)
3.Exiles (Cross, Fripp, Palmer-James ) (7:40)
4.Easy Money (Fripp, Wetton, Palmer-James) (7:54)
5.The Talking Drum (Cross, Fripp, Wetton, Bruford, Muir) (7:26)
6.Larks' Tongues in Aspic Part Two (Fripp) (7:12)

 “太陽と戦慄パート1 Larks' Tongues in Aspic Part One”は、バリのガムラン・ミュージックを彷彿とさせる神秘的なジェイミー・ミューアの世界から始まる。その空間に誘われ、心地良い陶酔感に浸っていると、枯れた音のヴァイオリンの調べが哀愁を漂わせながら姿を現す。そして、ベース、ギター、ドラムが加わり、ヘビーで奇抜なアンサンブルを構築する。目まぐるしく展開するこの曲は、クラッシックのシンフォニーに匹敵する構成力を持っている。
 “土曜日の本 Book of Saturday”と“放浪者 Exiles”は、クリムゾン的バラードである。情感溢れるウェットンのボーカルに、好い意味で演歌のニュアンスを感じてしまうのは私だけだろうか?
 “イージー・マネー Easy Money”は、キング・クリムゾンにしか成し得ない独創的な曲である。ベースを弾きながらあの変拍子ボーカルをよく唄えるものだ。
 “ザ・トーキング・ドラム”は、実に緊迫感溢れる曲である。ミューアのパーカッションに導かれ、最初は静かに始まり、延々と反復されるベースの単純なリフと、やはり囁く様な音量で奏でられ始めるドラムのエイトビートを基本とし、そこに、ギターとヴァイオリンのインプロビゼーション・ソロが絡み合い、ラヴェルのボレロのように、徐々に音量もフレーズのインパクトも盛り上がる。やがて、フォルテシモに辿りつくと、最終曲の“太陽と戦慄パート2 Larks' Tongues in Aspic Part Two ”へなだれ込こんでいく。
 ヘビメタにも負けないぐらい荒々しい“太陽と戦慄パート2”のギターのリフは、奇抜な変拍子であるが故に、この上なく攻撃的で、破壊的ですらある。またこの曲には、鳥肌が立つくらいかっこいいキメが絶妙に散りばめられていて、快感に近い緊張感を演出している。このアルバムにおけるメンバー全員の演奏からは、『宮殿』の頃のレベルの勢いと気迫を感じる。過激なほど凄まじくも、実に綿密に計算された非の打ち所のない超大作である。


レッド
Red

1974年作 Virgin/Universal International

Robert Fripp (guitar, mellotron)
John Wetton (bass, voice)
William Bruford (percussives)
with thanks to:
David Cross (violin)
Mel Collins (soprano sax)
Ian McDonald (alto sax)
Robin Miller (oboe)
Mark Charig (cornet)

1.Red (Fripp) (6:20)
2.Fallen Angel (Fripp, Wetton, Palmer-James) (6:00)
3.One More Red Nightmare (Fripp, Wetton) (7:07)
4.Providence (Cross, Fripp, Wetton, Bruford) (8:08)
5.Starless (Cross, Fripp, Wetton, Palmer-James) (12:18)

 この偉大なアルバムを発表して間もなく、キング・クリムゾンは、ついに解散してしまう。アルバム『レッド』における正式なメンバーは、フリップ、ウェットン、ブラッフォードの3人だけだが、ゲスト・ミュージシャンとして、まるでクリムゾンの同窓会に招かれたように、メル・コリンズ、イアン・マクドナルドといった懐かしいミュージシャンが参加している。この事からも私は、キング・クリムゾンの終焉を実感してしまう。
 オープニングを飾るタイトルチューンの“レッド Red”は、プログレッシブ・ヘビーメタルと呼べるような重厚で、タイトなインストゥルメンタル・ナンバーである。私は、この曲を聴く度にテンションが上がり、元気が沸いてくる。噂によると、この曲には当初ボーカルが入るはずだったらしい。ようするに、この曲は超極上のカラオケなのだ。作詞、作曲に自身がある方は、この偉大な曲にオリジナルのボーカル・フレーズをのせて唄ってみてはどうだろう?自分だけのレッドが出来上がるのだ。(笑) もちろん、ボーカル無しのままでも既に完璧な作品であり、クリムゾンのナンバー中でもロック史に残る指折りの傑作なので、ボーカル・バージョンを創るなら、人知れずひっそりと1人で楽しんだ方が良い。何処から石が飛んでくるか分からないから。
 2曲目の“堕落天使 Fallen Angel”は、おなじみのクリムゾン的バラードである。(あくまでクリムゾン的なので誤解のないように。)ウェットンの説得力のある叙情的なボーカルが心地良い。
 3曲目の“再び赤い悪魔 One More Red Nightmare”は、いかにもクリムゾンらしい、迫力の有る曲である。相変らず奇抜で攻撃的なギターのリフ、チャイナ・シンバルを多用したインパクトのあるドラム、ぶっとい波形のボーカル等々、実に男性的に仕上った作品である。とにかくカッコイイ!
 4曲目の“神の導き Providence”は、ロバート・フリップの追及する“インプロビゼーションにおける精神の融合”というテーマの究極の姿なのだと思う。人間の深層心理にまで訴えかける、霊験あらたかで、神聖なサウンドワールドなのである。
 そして、偉大なる70年代のクリムゾンの最後を飾るのは、まさにその大役にふさわしい超大作、“暗黒 Starless”である。荘厳なメロトロンの調べに導かれ、愁いを含んだような感情豊かなギターが印象的なイントロを奏で始めると、もう私は、この逃れられないクリムゾンの魅惑の迷宮に入り込んで行ってしまい、二度と出られなくても良いと思ってしまう。“暗黒”も、プログレッシブ・ロック史上屈指の名曲のひとつである。いくつもの世界を次々と展開させるこの曲には、今までクリムゾンが、各アルバムで表現してきた全てのテーマが、ぎっしりと詰まっている。曲の後半における、ハイスピードの17/16拍子という、とんでもないリズムでの壮絶なプレイは圧巻である。こんな凄い曲をエピローグとして解散してしまうとは、キング・クリムゾンの引き際は、何てドラマティックでカッコイイのだろう。
 これは、結果論だし、超独断ではあるが、私としては、クリムゾンはこのまま幻のスーパー・グループでいてほしかった。