THE DARKNESS ザ・ダークネス

病める音楽業界へのリスナーからの返答

 よい音楽、良いメロディーの曲が売れるというのは当たり前のことだ。しかしながら90年代以降の英米音楽業界では、その「当たり前」が通用しなかった。これまでストレートでシンプルながらもメロディーの良さで勝負し、数多くの名曲を生み出してきたキッスのポール・スタンレーをしても、「今はどんなに良い曲をかいてもダメだから・・・」と言い、自身98年の再結成第一弾アルバムから丸9年もの間(2007年現在)、ニュー・アルバムを出さずツアーに明け暮れている。

 このレヴューの主役であるザ・ダークネスにしても、素晴らしいメロディー・センスを持ち、インディーズからの発売ながら、ファースト・シングルの名曲「愛・ビリーヴ(I Believe In A Thing Called Love)」が全英チャートの180位に食い込んだものの、メジャー・レーベルとはなかなか契約できなかった。それはレコード会社が尻込みし、個人的には好きでも商売にはなりにくいと考えられていたためらしい。

 ところが、彼らは楽曲の良さと地道なライヴ活動、サービス精神あふれるステージ・パフォーマンスだけで徐々にファン層を増やし、そのファンたちと一体化した形で成長を続けた。そして、自力で大きな会場をいっぱいにするほどのバンドへとのし上がってきたのだ。こうなると、さすがにメジャー・レーベルも無視できず、イーストウエストUKがいよいよ彼らと契約。その後は飛ぶ鳥の勢いで、あっという間に世界的な人気バンドへと登り詰め、イギリスのブレア首相までが彼らのファンだと公言したのは有名な話だ。

 そういった経緯からも分かるように、ザ・ダークネスは音楽業界側からリスナーに向け「こんなものはどうですか?」と提示された類のバンドではなく、リスナーたちが「オレたちはこれを聞きたい」と本当に望んでいたバンドなのだ。ワイルドでありながら演奏も上手く、メロディー・センスも抜群。そして見た目がロッカー然としているのもいい。思えば昔から現在までずっとトップ・スターの座に君臨し生きながらえてきたロック・バンドたちは皆ロッカー然としているじゃないか。ストーンズ然り、エアロスミス然り・・・。

 どこにでもいそうな隣のお兄さん的ロッカーはもういらない。求められているのは良質のメロディーと、どこからみてもカリスマ的なロック・スターなのだ。彼らは現代の他のロックバンドたちとはロッカーとしての資質が違う。いや、彼らを基準としてみれば他のバンドは皆「ロックもどき」とさえ思えてくる。


ブリティッシュ・ハードの伝道者たち

 英サフォークのローストフトという漁港のある田舎町で生まれたジャスティン(1975年生まれ)とダン(1976年生まれ)のホーキンス兄弟は、両親が音楽好きだったこともあり、幼少期からクイーン、フリートウッド・マックなどを始めとするクラシック・ロックを聞いていたという。学生時代になると、弟のダンは周囲の友人同様クール指向に変わっていったというが、兄のジャスティンは相変わらずそのままで、いつの間にか「クラスの変わり者」になっていた。当時ジャスティンが好んで聞いていたのは、エアロスミス、ヴァン・ヘイレンAC/DCなどで、ファッションも時代遅れのロッカー的なもので周囲にはかなり悪趣味に映っていたらしい。

 ザ・ダークネスの前身バンドはエンパイアというシンセ・ポップ路線のバンドで、ここにはホーキンス兄弟の他、フランキー・ポーレインも参加していた。このバンドではジャスティンはキーボードを担当し、ヴォーカルは他にいたということだ。
 その後ある時、ホーキンス兄弟の叔母が経営するパブでカラオケ大会があり、ジャスティンがクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」を完全に歌いこなし大絶賛を浴びるという出来事があった。この時、兄のスター性に気づいた弟ダンの後押しもあり、ジャスティンをヴォーカルにした新しいバンドを結成することを決意した。

■オリジナル・メンバー
Justin Hawkins ジャスティン・ホーキンス/ヴォーカル、ギター、キーボード
Dan Hawkins ダン・ホーキンス/ギター
Ed Graham エド・グラハム/ドラムス
Frankie Poullain フランキー・ポーレイン/ベース・ギター


 ホーキンス兄弟の学友エド・グラハムを加え、2000年にザ・ダークネスを結成した彼らは、地道に小さなパブなどでライヴを行い、口コミによる評判から徐々に知名度をあげていった。2002年には自主制作シングル「愛・ビリーヴ」が全英チャートの180位にランキングされるという快挙を成し遂げた。それでもまだ契約したがらないメジャー・レーベルを尻目に、彼らはデフ・レパードやディープ・パープルの前座も務め、2000人規模の会場を満員にするほどの人気バンドへと成長していった。

 これにはさすがにレコード会社も放ってはおけず、2003年にイーストウエストUKが契約。あとは飛ぶ鳥の勢いで、メジャー初シングルとなった「Get Your Hands Off My Woman」は全英43位、セカンド・シングル「Growing On Me」は全英初登場11位。そして再レコーディングしたサード・シングル「愛・ビリーヴ」でついに全英制覇。さらには、デビュー・アルバム「パーミッション・トゥ・ランド」も英初登場2位、後に4週連続1位(トータルでは5週)、全米でも36位まで上昇するというものすごさで、あっという間に大スターへの階段を駆け上がった。

 また、2003年のクリスマスにはシングルのみで「Chrismas Time(Don't Let The Bells Ens)」をリリースし、こちらも全英2位と絶好調。この年の暮れには初来日も果たしている。

 彼らのライヴを見た方ならお分かりの通り、ジャスティンはあのキャット・スーツ(故フレディ・マーキュリーが着ていたようなボディラインが鮮明に分かるタイトフィット・コスチューム)にファルセット・ヴォイスという個性的なスタイルもさることながら、演奏も極めて上手い。ギターの腕前などは専任ギタリストの弟ダンより数段上なのだ。2004年5月にも来日した彼らは、マドンナやアヴリル・ラヴィーン、はたまたブレア英首相までファンだという噂も手伝い、日本でも人気を爆発させた。

 その後もイギリスのグラミー賞とも言うべき「BRIT AWARD 2004」で3部門を受賞するなど、彼らの勢いはとどまるところを知らない。ところが、あまりにも急激に有名になってしまったため、メンバー達は極度の疲労、恐怖、プレッシャーで精神的にも肉体的にも追いつめられボロボロになっていたのだ。そして、ついにはドラッグに溺れ内部分裂まで始める。

 2004年、次作のアルバム・プロデュースを依頼するため、まずAC/DCやデフ・レパードのプロデュースでお馴染みのロバート"マット"ラングに声をかけたが交渉が上手くいかず、つづいて初期クイーンやジャーニーカーズなどを成功に導いた大物プロデューサーのRoy Thomas Bakerロイ・トーマス・ベイカーに声をかけた。試しにロイのプロデュースで「Get Your Hands Off My Woman Again」を再レコーディングしネット配信したところ、ダウンロード・チャートの14位まで上昇したらしい。

 これに気をよくし、ロイ・トーマス・ベイカーをプロデューサーに本格的に次作のレコーディングを開始するが、相変わらずバンド内のゴタゴタは収まらず、2005年になってベーシストのフランキーを解雇。つづいてジャスティンが突然ソロ・プロジェクト「BRITISH WHALE」を始動させ、シングル「This Town Ain't Big Enough for Both of Us」(スパークスのカヴァー)を発表してしまう。しかし、なんとかダンのギター・テクニシャンを務めていた
Ritchie Edwardsリッチー・エドワーズをフランキーの後任に迎え、レコーディングを終わらせた彼らは、この年の暮れ、ついにセカンド・アルバム「ワン・ウェイ・チケット・トゥ・ヘル…アンド・バック」のリリースにまでこぎ着けた。

 このアルバム、さすがにロイ・トーマス・ベイカーがプロデュースしただけあって、音の厚みが格段にアップし、これぞブリティッシュ・ハードというようなサウンドにはなっていたが、逆に彼らの持ち味であったワイルドさを欠き、今ひとつパッとしない内容だった。チャート上の動きも鈍く、全英11位/全米58位止まり、曲自体も悪くないのだが、彼らを最初に聞いたときの衝撃が大きかっただけに、新鮮さが無くなり期待を裏切られたような気がしてしまったのかもしれない。

 この後2006年にはワールド・ツアーに出て、途中4月に来日もするが、その年の暮れに、あろうことか中心人物であるジャスティンが薬物中毒の治療に専念するため脱退するというニュースが報じられた。
 この時、誰もがこの脱退は一時的なことだと思ったことだろう。しかしながら、いくら待ってもジャスティンは戻ってこない。そして、11月リッチー・エドワーズをヴォーカリストにして、
Toby MacFarlaineトビー・マクファーレンというベーシストを加入させるとの続報があった。だが、この時も暫定的なものだろうと思っていた。ところが、事態は最悪な方向へと展開した。

 2007年3月ザ・ダークネス公式サイトでの発表によると、リッチー、ダン、エドにトビーを加えた新体制でニュー・バンドとして再スタートする方針を固めたらしい。これでもうザ・ダークネスとしての活動には終止符が打たれた形になってしまった。

 突然現れ、嵐のように去っていったザ・ダークネス。彼らがブリティッシュ・ハードが死に絶える前の最後の輝きとならぬよう、ニュー・バンドとしてまた復活し、ぜひ今まで同様頑張ってもらいたいものだ。そして、イギリスのロック界にはまだまだこんなすごい奴がいるということを示してくれたジャスティン・ホーキンスには、いちロック・ファンとして素直に感謝する。彼の今後の活躍も静かに見守っていきたい。(HINE) 
2007.8


Christmas Time / The Darkness (YouTubeより)



★★★名盤PICK UP★★★

パーミッション・トゥ・ランド
Permission To Land

ザ・ダークネス
The Darkness



2003年 East West/Atlantic/ワーナー・ミュージック

全英4週連続1位(トータル5週)/全米36位
1. ブラック・シャック Black Shuck

2. ゲット・ユア・ハンズ・オフ・マイ・ウーマン Get Your Hands Off My Woman

3. グロウイング・オン・ミー Growing on Me

4. 愛・ビリーヴ I Believe in a Thing Called Love

5. ラヴ・イズ・オンリー・ア・フィーリング Love Is Only a Feeling

6. ギヴィン・アップ Givin' Up

7. スタック・イン・ア・ラット Stuck in a Rut

8. フライデー・ナイト Friday Night

9. ラヴ・オン・ザ・ロックス・ウィズ・ノー・アイス Love on the Rocks With No Ice

10.ホールディング・マイ・オウン Holding My Own


<Bonus Track>

11.ザ・ベスト・オブ・ミー The Best Of Me
12.メイキン・アウト Makin' Out
 本当に久しぶりにロックらしいロックが戻ってきた!いまだにこんな個性派バンドが出てくるとは、イギリスのロックもまだまだ底知れないものがある。しかも今流行の「負」のパワーを持ったバンドではなく、陽気でユーモラス、でもカッコイイという70年代ロックが持っていた外面的ロックらしさに充ち満ちている。もちろん、表面的な部分ばかりでなく楽曲もすばらしいのだが、それをも忘れてしまうくらい、ライヴやそれ以外のパフォーマンスでもロック・アーチストらしいカリスマ性にあふれている。
 そんな彼らのアルバムを紹介するにあたり、実は1年以上もの月日を要した。なぜならこのアルバムを冷静に聴けるようになったのはつい最近のことだからだ。それまでは紹介文をかこうと準備して聞いていても、途中でついつい我を忘れてノってしまい、聞き終わる頃には文章や理屈などどうでもよくなっていた。しかし、その間にもセカンド・アルバムがリリース(そちらも素晴らしいが)され、本作とはまたひと味違った完成度の高いサウンドを披露したために、逆に本作の魅力もおぼろげながら見えてきた。そこで、もう1度極力冷静になって本作を聞き直してみることにする。
 デビュー当時から彼らのサウンドについて、クイーンに似ているとかAC/DCに似ているとか、いろいろ騒がれていたが、今聞いてもそのどれもが当てはまる。それどころかレッド・ツェッペリンやザ・フー、ローリング・ストーンズ、はたまたキッスやエアロスミスにまで似ているところさえある。だが、それはただ似ている部分があるというだけの話で、彼らが生み出すサウンドの単なるエッセンスにすぎない。それよりあのチョー個性的なファルセット・ヴォイス(裏声)やワイルドだが上手い演奏、そしてメロディー・センスの良さの方が遙かに魅力的だ。
 まず、ジャケットを見ていただきたい。サイズを大きくできず申し訳ないが、アメリカでは発売禁止となりそうな、セクシー&ユーモラスなもの。裏ジャケではこの女性が正面を向いていて、宴会芸のように手に持っている卓球ラケットのようなものでバストを隠している。個人的には、スコーピオンズのジャケットのセクシーさとチープトリックのジャケットのユーモア・センスを併せ持つ名作だと感心している。
 曲の方も順に解説していこう。本作は最初からLPを想定して作られているようで、全10曲しかない。だが、この10曲の中に彼らの魅力がギッチリ凝縮されている。
 とにかく1曲目のイントロからまるで「オレたちはロッカーだぜ」と宣言しているような爆音ギターの音が飛び出す。つづいてドラムが裏で拍子を取りながら、これまたカッコよく侵入する。そしてバンドのヒーロー、ジャスティンがファルセット・ヴォイスを混ぜながら歌い出す。サウンド的には、初期のエアロスミスにも似たシンプルでワイルドな曲だが、あの独特のジャスティンの歌い方が、ちょっと普通ではないバンドだということを予感させる。
 そして、2曲目で早くもその予感が確信へと変わる。なんと出だしのメイン・メロディーをジャスティンはファルセット・ヴォイスだけで歌いきる。初めて聞いたときは「なんてバカなバンド出てきたものだ」と笑いながらも、こんなバンドを待っていたんだと、嬉しくて思わず1人でガッツ・ポーズを出していた(笑)。この曲は、後にロイ・トーマス・ベイカーとの共同プロデュースで再録音したものを「Get Your Hands Off My Woman Again」としてダウンロードのみの再リリースし、ダウンロード・チャートの14位に輝いている。
 3曲目はメジャー初シングルとなった曲で、全英11位、米ビルボード・ロック・チャートでも40位のスマッシュ・ヒットとなった。しかしこの曲、良い曲ではあるのだが、全楽曲の中ではそれほど目立つ曲ではないし、キャッチーでもない。なぜシングルに選ばれたのか理解に苦しむところだ。病める音楽業界の自信の無さがそうさせたのか!?
 4曲目の「愛・ビリーヴ」は、当初自主制作でシングル・リリースし、チャートの180位に食い込んだ名曲。後にメジャーからもシングル・リリースし、米ビルボードで35位、同モダン・ロック・チャートでは9位を記録する大ヒットとなっている。AC/DCを思わせるギター・リフから始まり、メロディーのサビでジャスティンのファルセット・ヴォイスが炸裂、そしてギター・ソロではクイーン風の多重録音と、最も彼らのサウンドが分かりやすい曲でもある。蛇足だが、日本で後からリリースされた本作のDVD付き「最強版」でのライヴ・ビデオをを見ると、最後のギター・ソロを弾いているのはジャスティンで、これがまたかなり上手い。ジャスティンは元々キーボード・プレイヤーであったはずだが、ギターの腕も弟のダンより1枚も2枚も上手だ。もちろんピアノやシンセサイザーなどのキーボードはすべて弾きこなし、曲も共同クレジットにはなっているが、おそらくはほとんどジャスティン1人で書いていると思われる。いったいこのジャスティン・ホーキンスという男の才能はどこまですごいのだろう。
 少しブルージーなハード・ギターのイントロで始まる5曲目は、ヴォーカルが入ると意表をついて綺麗なトラッド・ミュージック風に変わる。こういったところは彼らがブリティッシュ・ハードの正統的な後継者であることを強く感じさせる部分でもある。意外と言っては失礼だが、こんなラヴ・バラードにもジャスティンの変態ファルセット・ヴォイスはけっこう合う。
 つづいてはスートンズ風のシンプルなギター・イントロで始まる6曲目。どうせならというわけでもないだろうが、途中の雄叫びがやけにR&Bっぽい。ギター・ソロはまたまたクイーン風。この曲とはメドレーでつながる7曲目は、なんとツェッペリン風。ギター・ソロもかなりジミー・ペイジを意識した和音複合型だ。聞いているほうは、このあたりでもう絶頂に達しているのだが、これでもかと名曲はつづく。
 8曲目、今度は軽快な70年代ポップ風で、ニッキー・ホプキンスのようなピアノも楽しめる。個人的にもかなりお気に入りのナンバーだ。
 次はじっくり聞かせる「どハード・ロック」の9曲目。全体はまるっきりツェッペリン風だ。しかしよく聞けば途中にトニー・アイオミ(ブラック・サバス)風の図太いギター・リフもあったり、UFO時代のマイケル・シェンカー風ギター・ソロもあったり、エンディングはクイーン風だったりと、まさに70年代ブリティッシュ・ハードの塊のような曲だ。
 10曲目、最後はロック・バラードで締めるあたりも大物の風格を漂わせる。なぜか途中に10ccを思わせるコーラスも入るが、これはオマケのサービスだろうか?(笑)絡みつくようなギターもいい。ギンギンにノリまくった後の余韻を楽しむような曲だ。
 以上10曲で本来のアルバムは終わりだが、日本盤のボーナス・トラックとして2曲が追加されている。オマケはオマケでしかないのだが、2曲とも決して悪い曲ではない。編集の都合上やむなく省かれてしまったというような感じの圭作だ。特に2つ目の「メイキン・アウト」はトッド・ラングレン風でなかなかいい。

 ○○風、○○風と、いちいち紹介してきたが、間違えてもらいたくないのは冒頭でもかいた通り、彼らの真の魅力はそんなところにあるのではないということだ。その事実は、余分な装飾を取り払い、純粋な自分たちだけの音で勝負したセカンド・アルバムを聞いていただけば明白となる。だが、完成されていないワイルドさがこのファースト・アルバムのもう1つの大きな魅力でもあり、これから彼らがどんなにビッグになろうとも、2度と繰り返せない1回きりのパフォーマンスでもあるのだ。
 あのすばらしき70年代ブリティッシュ・ハードを再び現代に持ち帰ったザ・ダークネスに着陸許可(Permission to Land)を与えてくれた大英帝国に感謝する。
 (HINE)