Written by 太陽スミス

レックレス / ブライアン・アダムス
Reckless/ Bryan Adams

1. ワン・ナイト・ラブ・アフェアー One Night Love Affair
2. いかしたダンシング・ガール She's Only Happy When She's Dancin'
3. ラン・トゥ・ユー Run to You
4. ヘヴン Heaven
5. サムバディ Somebody
6. 想い出のサマー Summer of '69
7. キッズ・ワナ・ロック Kids Wanna Rock
8. イッツ・オンリー・ラヴ It's Only Love
9. ロング・ゴーン Long Gone
10. 涙をふきとばせ Ain't Gonna Cry


1984年 A&M/ポリドール
Produced by
Bob Clearmountain, Bryan Adams
全米1位
 「青春」とは、つくづく儚いものだと、最近つとにそう思う。「お前はまだ若いやろ!」と、ご老人…
 いや失敬、「人生の諸先輩」からお叱りを受けそうな考えだとは思う。しかし、僕は本当に歳を取る事が億劫になってきている。多分これは、抑圧された高校生活を送ったからかもしれない。
 僕の通っていた高校は男子校で、校則が厳しかった。なんせ月に一度「身装検査」というモノがあり、そこで我々は「刈り上げ」の髪型にしないといけなかったのである。で、やらなかったらシバかれる。最悪は退学である。いっぱしのロックンローラーなら「やってらんねぇぜ!」とでも言い出しそうな状況であったが、僕は品行方正な少年(笑)だったので、「ハイ、ハイ」と従順していた(個人的な意見であるが、「ロック好き」とはそういう人種が多いのではないか)。で、男子校だから女性との出会いも殆ど無く、しかも進学校だったので補習の雨嵐。で、卒業したと思ったら浪人である。まさに灰色の青春と言っても過言じゃないかと思う。だから、僕は本当に今、時が止まって欲しいと真剣に思うのだ。
 しかし、あの3年間はもう二度と戻ってこない。何事も、後悔は先に立たないのだ…そして、このアルバムを聴く度に、何故か僕の心は自分の思春期のページを勝手に開いてしまう。

 すっかり前置きが長くなってしまったが、言わずと知れたブライアンの特大ヒット作である。おそらく90%以上の人はこれを代表作として選ぶだろう。まぁそれも然るべき事であり、それほどこの作品の完成度は群を抜いている。まず、「聴きやすい」のだろう。適度にハードで、適度にポップ。そして10曲38分の全長距離。僕は、音楽を聞く際の集中力持続時間は40〜50分くらい(それを超えるとどうしてもどこかで音が耳にスンナリと入らなくなる)なので、この長さは実にイイ。気持ちの良い40分を過ごせるのだ。それに加えて、曲の完成度も貶しようがないほどに気合が入っている。前作でさえ素晴らしい曲が揃っていたのに、そのハードルを軽く飛び越えてしまったこの作品は、言葉は悪いが「奇跡」とでもしか言い様がない。また、本稿でも書いたように、25歳のブライアンだからこそ、これほどの勢いのある作品が作れたのだろう。
 まず、1 のイントロでまたしてもやられてしまう。ポップだけど、ほんのりハード、そして哀愁を帯びたナンバーである。今手元には歌詞の和訳はないのだが、原文を読む限り、一夜限りの情事を惜しむ内容だろう。その歌詞にピッタリとマッチした名曲だ。
 2 もお気に入りのナンバーである。こういうゴキゲンなロックンロールに僕は目がない。「彼女は踊っているときが一番幸せ」なんて、しょーもない(笑)どーでもいいことだが、しかしこんな曲にブライアンは映える。
 3 は哀愁満点のラブソングで、またブライアンの声に合ったナンバーだ。
 そして大ヒットの 4 は…MTV時代の典型バラードと言えば、確かにそうなのかもしれないけど…でも名曲だろう。歯が浮いてしまいそうなくらい甘い歌詞だし(「僕達は今天国にいるんだ」だの「僕は欲しいのは君だけだ」だのと、ブライアンがあの声でのたまう訳だ。反則じゃないか、そんなの)、やはりサウンドも大袈裟で装飾が過ぎるかもしれないが、一度聴けば耳から離れないこのメロディーは、彼の魅力をも表しているだろう。クサくたっていい。昔も今も、若い男は皆そうなんじゃないの? あっ、興奮しすぎて言い忘れたが、このアルバムでもキース・スコットのギタープレイは悶絶モノのカッコ良さである。ビリー・アイドルに対するスティーブ・スティーブンスのように、優れたシンガーソングライターには、大事な「相棒」が必要なのだと痛感させられる。キースが弾くソロによって、我々もまさに「Heaven」へ行ってしまいそうになる(無論いい意味で)。
 続いての 5、6 は、切なさが詰まった青春ナンバーである。5 は歌詞は稚拙かもしれないが、青春の甘美な香りを運ぶ佳曲である。そして、その香りを更に凝縮した 6 は、青春ソングの金字塔であると思う。「1969年の夏」に自己の過去像を絞り、今の自分と対比させて行く。ジャクソン・ブラウンの「Runnin' On Empty」、浜田省吾の「路地裏の少年」といった、自分の年齢を特定して過去を語る手法の歌は、どこか生々しさがでて、青春の青臭さがグッと強まる。実際に、彼らがそんな素敵な過去を過ごしたかどうかは知る由もないし、知る必要もない。聞き手の僕達が、自分を省みればいい。歌詞に加えて、実に感傷的なサウンドもニクいよなぁ。それが「狙い」だとしても、この切なさはそうそう醸し出せるものではない。
 さて、ここまで山場の連続である。7 は二分半の爆走(とは言い過ぎか)ロックンロールであり、傷心気分を吹き飛ばす曲で、我々ははっと現在へと帰還する。8 は「女ミック・ジャガー」ティナ・ターナーとのデュエット曲。これもどこか切なさを帯びていて、そこにブライアンとティナの熱唱が重なる様は「豪快」そのものである。キースのブルージーなギター(ちょっとジェフ・ヒーリーっぽい)がそれを更に盛り上げる。
 9 もブルージーな曲だが、8 よりはかなり地味である。悪い曲ではないが、この名曲群の中ではかなり見劣りもする。次作の作風に繋がる内容ではある。
 そしてラストの 10 は、爽快かつ豪快なロックンロールであり、すっごくカッコ良い。これで締められたら文句無しだろう。この曲も竜頭蛇尾に切なさが詰まっている。キースのギター、ブライアンの熱唱、それを掻き立てるバックのぶっ飛んだ演奏…これぞロックンロールの醍醐味である。曲に呼応して身体が勝手に反応してしまうのだ。イエローモンキーの僕でさえも。そして最後、歪むギターと絡むブライアンの雄叫びで、我々は再び現実へと戻ってくる。その時、40分の儚くも感傷的な時間が終わったことを知る訳だ。なんと濃密な時間であろう。
 こんな作品を前にしては、僕のこの批評も無意味かもしれない。この作品で貫かれているのは「青臭さ」「哀愁」「切なさ」である。これ即ち「青春」の構成元素である。だからこそ、僕も思春期の自分を揺さぶらされるのだろう。20年後の僕でさえこうなのだから、当時の若者への衝撃はずっと強かったのだろうか。今もこの作品をリピートし続けながら原稿を書いているが、やはり心は切なくなっている。何だか、本気で泣きそうになってきたのでひとまず決着をつけよう。とにかく、6 だけでもいいから聴いて欲しい。「ダサい」と感じるなら捨ててもらってもいい。きっとその人は過去を振り返らない強い人であるから。
 最後に…名盤とは、やはりジャケットも優れているものだ。「Reckless(向こうみず)」というタイトルの下、モノクロトーンで陰を背負い、こちらを力強く、しかし哀愁を持った目で睨みつけるブライアンは、まさにこのアルバムを体現している。25歳のブライアンの「青春」の1枚は、世界中の人々の目に映り込んで、離そうとはしない。  
2005.9太陽スミス