Written by HINE

テクニカル・エクスタシー
Technical Ecstasy

ブラック・サバス
Black Sabbath



1976年 Gimcastle/ビクター
SIDE-1

1.バック・ストリート・キッズ
 Back Street Kids

2.ユー・ウォント・チェンジ・ミー
 You Won't Change Me

3.イッツ・オーライ
 It's Alright

4.ジプシーの誘惑
 Gypsy
SIDE-B

5.ムーヴィング・パーツ
 All Moving Parts (Stand Still)

6.ロックン・ロール・ドクター
 Rock 'N' Roll Doctor

7.シーズ・ゴーン
 She's Gone

8.きたない女
 Dirty Women
 これだけの大物バンドであれば、名盤の1枚や2枚は必ずあるもので、サバスもまた例外ではなく、ファーストの「黒い安息日」、セカンドの「パラノイド」、4th.の「Vol.4」、後期では「ヘヴン&ヘル」あたりがそうではないかとの評価が一般的だ。しかし、個人的にはこの「テクニカル・エクシタシー」が最も好きで、今でも一番よく聞いている。そんなことで、サバスの名盤を1枚に絞るのに、実に丸3年もの時を費やし、頭を悩ませてしまった。
 ここに堂々と名盤として挙げることができるようになったきっかけは、時々顔を出す新宿のロックバーCrawdaddy Clubのマスターと話していた時のこと。なんとマスターもまたサバスの中では、この「テクニカル・エクスタシー」が最も好きだと言い、話している最中、おもむろに店内でこのアルバムを流し始めたのだ。それを聞きながら、自分でもまた確信し、このアルバムこそ少なくとも自分の中ではサバスの中の1番の名盤だと自信を持った。
 確かにこのアルバム、ダークで重低音のリフを黙々と刻むタイプのいわゆるサバスらしいサウンドは少ない。どちらかというとサバスのアルバムの中でもバラエティに富んだ異色作なのかもしれない。それが名盤選定に当たっての悩みの根元でもあったのだが、アルバム全体の曲構成や曲自体の良さ、演奏のすばらしさという面では群を抜いている。「サバスの・・・」というと、異論もたくさんあることと思うが、単に「ブリティッシュ・ハードの・・・」として考えれば、間違いなく名盤の中に入れても違和感はないだろう。あまり一般的な評価は高くないので、このアルバムを聞いたことがない方も多いことだろうが、ぜひ1度サバスということを忘れてじっくりと聞いてみて欲しい。
 また、ジャケットも1st.のキーフによる神秘的な名作には及ばないものの、ヒプノシスらしいエロ・グロ・ナンセンス風の佳作だ。
 さて、バンド名義にはなっているが、実質トニー・アイオミによってプロデュースされた本作は、オリジナル・メンバーで成し得るサウンドの幅の限界にチャレンジし、それをあくまでもサバス流にこだわったところで表現した意欲作だ。むろん、トニーが主導権を握っているということもあって、全体的にギターが主役ではあるのだが、音域の狭いオジーのヴォーカルで、どうやったらもっと幅広い表現ができるのか?ギーザーの重低音ベースを殺さずにどうやってバラード曲を演奏するのか?はたまた存在感の薄いビルをどうやって目立たせるか?などの答えがここにある。
 また、サバスの代表曲が「パラノイド」や「アイアン・マン」であるのは間違いないが、名曲という意味では本作2曲目の「ユー・ウォント・チェンジ・ミー」にかなうものではない。ここでのトニー渾身のギター・ソロは、サバス全楽曲のうちでも最高の出来映えだろう。左手の薬指第一関節から先を事故で失い、指サックのようなものをしてのプレイのためか、時折キュッキュッという独特の音が入るのも(失礼ながら)不気味でかっこいい。
 もちろんそれまでのサバスらしい曲もちゃんと存在する。1曲目のイントロの地の底を這うようなヘヴィ・リフはどうだ、これこそサバス・サウンドそのものではないか!そこにオジーの悪魔を想わせる高音ヴォイスがからみ、もう参りましたという感じだ。
 アルバム中最も異色な3曲目は、それまでのサバスのイメージからは考えられない、アコースティックでやけに爽やかなポップ・ソング、ヴォーカルは珍しくドラムのビルがとっている。ただし、この曲とてそのままでは終わらない。途中から急にハードな展開となりトニーの激しいソロが入のだが、その対比がなかなかいい。4曲目も少しいつものサバスとは路線の異なるタイプで、キーボードを効果的に使っているが、ギターだけはヘヴィ。いつものサバスから脱却した新しいサウンドを模索しているような印象も受ける。
 B-1は1曲の中で展開がコロコロ変わるプログレ・ハードっぽい曲。キャプテン・ビヨンドあたりのサウンドと共通するものがあり、個人的にはどうにも「好きにならずにいられない」タイプの曲だ。
 B-2はイントロのギターがやけにかっこよく、高鳴る期待感からは肩すかしを食うストレートなロックンロール・ナンバー。だが、それもまた悪くはない。
 そして、いよいよ終盤のハイライトとも言える名バラードのB-3。サバスにとって、ストリングスの入った、こういった本格的バラード・ソングは希だが、オジーがソロになってからは結構やっている。この曲がその手本になっているのではないだろうか。
 最後はいかにもサバスらしいヘヴィ&ダークな曲で締めくくり、もう少し聞きたいくらいの余韻を残して終わる。全8曲とは、この時代にしても少ない気がするが、無駄な曲が入っているよりはよっぽどいい。満腹で満たされるより腹八分目の方が、また食べたいと後々まで印象に残る。同じように、このアルバムもまた何度でも聞きたくなる8分目的な内容だ。
 サバスにとっての代表作はこのアルバムではないかも知れないが、このアルバムが名盤なのは間違いないところだろう。(HINE)