1972年 Roy Buchanan(ロイ・ブキャナン) お薦め度★★★☆☆

SIDE-A

1.スウィート・ドリーム
 
Sweet Dreams
2.逃亡者
 
I Am A Lonesome Fugitive
3.ケイジュン
 
Cajun
4.ジョンズ・ブルース
 
John's Blues
5.幽霊屋敷
 
Haunted House

SIDE-B

6.ピートズ・ブルー
 
Pete's Blue
7.メシアが再び
 
The Messiah Come Again
8.ヘイ・グッド・ルッキン
 
Hey,Good Lookin'

Polydor/ポリドール

ロイが初めて我々の(耳の)前に現れた時の衝撃は、絶滅したはずの生物を発見した時のような驚きに近い。日本ではこのファースト・アルバムは当初発売されず、もっと過激になった頃のロイのプレーを最初に聞いたので、なおさらだったのかも知れない。そして、このアルバムはロイが有名になった後リリースされたわけだが、セカンド・アルバム同様、当時の印象としては地味なものだった。しかし、時が経つに連れ、このアルバムに対する印象は少しづつ変わってきた。
このアルバムは、ファースト・アルバムにも関わらず、まったく「売ろう」とか「自分のテクニックがどんなに凄いかを見せつけよう」などという通常のアーチストにありがちな気負いがまったく感じられない。80年代の復帰後を除き、おそらく一番リラックスした中で、自分の気の向くままに作った作品なのではないだろうか。サウンド面においても、カントリー色は強いものの、他にもブルース、モダン・ジャズやスイング・ジャズ、ゴスペル、ケイジャンといった、ロイが育ってきた環境の中で出逢った様々な音楽要素がちりばめられており、何よりとても楽しそうにプレイしているのが目に浮かぶようだ。
もしかしたら、このままの路線で気ままにマイ・ペースでやっていれば、ロイは自身の希望通り有名にならず静かな一生を送ることができたのかも知れない。しかし、運命の悪戯か、周囲がそれを許さなかった。「世界で最高の無名なギタリスト」と騒がれ、ロイ自身も真面目な性格からその期待に応えようとしたために悲劇は始まったのだろう。確かにその後のロイの鬼神のようなプレイは、多くのギター・ファンを魅了し、名声も押し上げ、多くの収入ももたらしたのでろう。しかしながら、その結果本当にやりたいことができないような環境を自ら作り出してしまったとも言える。好き嫌いは別として、このアルバムはシャイで、生真面目で、繊細なロイの赤裸な内面を良く表している唯一のアルバムだ。特にB-7の「メシアが再び」は、後に6枚目のアルバムでもセルフ・カヴァーしているが、それよりここに収録されている原曲の方が、1音1音を丁寧に、情感を込め弾いているように感じる。へたなエフェクト効果をかけていない分、よりダイレクトにそれがリスナーに伝わってくる。
また、このアルバムのみクレジットがロイ・ブキャナン&ザ・スネイクストレッチャーズとなっていて、内ジャケットにメンバーの写真が載っていることも追記しておく。メンバーはNed Davisネッド・デイヴィス(ds)、Dick Heintzeディック・ヘインツ(key)、Teddy Irwinテディ・アーウィン(Rhythm g)、Chuck Tilleyチャック・ティリー(vo)、Pete Van Allenピート・ヴァン・アレン(b)の面々。(HINE)



1973年 Second Album(伝説のギタリスト ロイ・ブキャナン登場) お薦め度★★★★☆

SIDE-A

1.フィルシー・テディ
 
Filthy Teddy
2.アフター・アワーズ
 
After Hours
3.ファイヴ・ストリング・ブルース
 
Five String Blues
4.サンク・ユー・ロード
 
Thank You Lord

SIDE-B

1.トリート・ハー・ライト
 
Treat Her Right
2.ノー・ライズ
 
I Won't Tell You No Lies
3.エルモア・ジェイムズの賛歌
 
Tribute To Elmore James
4.シー・ワンス・リヴド・ヒア
 
She Once Lived Here


Polydor/ポリドール

日本ではデビュー・アルバムに当たるため、本作は邦題が「ロイ・ブキャナン登場」となっている。すでに海外ではロイのファースト・アルバムがプロのギタリスト達の間でかなりの評判になっており、イエスのスティーヴ・ハウ(g)がカセット・テープに録音して肌身離さず持ち歩いているとか、ハンブル・パイのクレム・クレムスン(g)やエリック・クラプトンもロイの大ファンらしいといった情報が飛び交い始めていた。しかしながら、日本においては、まだまだ無名のギタリストであり、しかもこのセカンド・アルバムの内容が、ブルースを中心にしたものなので、当時そう話題にはならなかったように思う。おそらくは次のサード・アルバム以降のアルバムを聞いてから、遡って聞いてみた人がほとんどだろう。
自分もその口だが、このアルバムからはさほどインパクトは受けず地味な印象があった。だが、今こうして聞き返してみると、このアルバムこそがロイのギタリストとしての本質的な部分を一番表わしている内容であったことに気づかされる。そして、ファースト・アルバム同様にリラックスして自然にプレイしているのも分かる。やはりこういったブルースやカントリー・ナンバーが最も弾きやすいのだろうし、その分余計なところに神経を使わずプレイに集中し、思う存分腕を発揮できるのであろう。
聞き所は、A-2、A-3、B-2のブルース・ナンバーで、ここでは有名になってからの過剰なまでのエキサイティングなプレー(これも好きだが)は控えめに、曲の雰囲気を大切にした名演が光る。ギター側のボリュームつまみやトーンつまみを変化させたり、ピッキング位置による音の変化、ピッキング1つ1つのニュアンスにまでこだわっているのもよく分かる。派手さはないが燻し銀的なこういったプレーは、エリック・クラプトンとも共通するアプローチの仕方で、クラプトンがロイの虜になってしまったというのも納得だ。
また、このアルバムでは前作でバック・バンドを務めていたスネイクストラクチャーズからディック・ヘインツ(key)、テディ・アーウィン(g)、ジェリー・メルサー(ds)、ドン・ペイン(b)の4人が再び起用されているが、ここでは特にディック・ヘインツのピアノが素晴らしく、ロイのギターをよりいっそう引き立たせている。
尚、A-3はモノラル録音になっているが、他の曲も左右の分離がはっきりしているわけではないので、さほど違和感はない。




1974年 That's What I Am Here For(サード・アルバム) お薦め度★★★★★

SIDE-A

1.ベイビー・セッズ
 
My Baby Says She's Gonna Leave Me
2.ヘイ・ジョー
 
Hey Joe(in memory Jimi Hendrix)
3.アイ・ロスト・ハー
 
Home Is Where I Lost Her
4.ロドニーの歌
 
Rodney's Song

SIDE-B

1.ザット・ホワット・アイ・アム・ヒア・フォー
 
That What I Am Here For
2.ロイズ・ブルース
 
Roys Bluz
3.ヴォイセス
 
Voices
4.ドント・ターン・ミー・アウェイ
 
Please Don't Turn Me Away
5.ネフェシ
 
Nephesh

Polydor/ポリドール

このあたりから幸か不幸(後の悲運を考えると)かロイの快進撃がはじまる。ファースト・アルバムではカントリー、セカンド・アルバムではブルースを主体とした音作りを中心に構成していたため、少々地味な印象があり、一般のロック・ファン達が聞いてもさほど面白くもない内容であったように思う。ただし同業のギタリストの間ではたいへんな話題になっていて、かのエリック・クラプトンなどはロイのレコードはブートまで含めて全部所有していたというほどだった。
そしてこの3枚目、もう出だしからギターは「ロック」しているのである。それまでになくディストーションをかけエネルギッシュに弾きまくる。・・・とは言っても、ハードロックなどを想像しては困る。あくまでロイの場合はブルースが体に染みついていて離れられないため、一般的にカテゴライズすれば、やはりブルース・ロックに入るのだろう。
今回からバック・メンバーをキーボード以外すべて一新し、ヴォーカルはBilly Priceビリー・プライスに代わっているが、この人の声はとてもソウルフルで、ジェフ・ベック・グループのボブ・テンチにも似ていて、1曲目のようなR&B調の曲にはピッタリだ。2曲目ではなんとジミヘンの「ヘイ・ジョー」をカヴァーしている。この曲ではロイの鬼神のようなプレイが炸裂。しかし、こういうブルージーな曲で、雰囲気などおかまいなしにブチち壊す弾きかたは、ジェフ・ベックにそっくりだ。このあたりが、ベックとは友達になれてもクラプトンには冷ややかな態度をとる理由の1つかもしれない。クラプトンはいつでも冷静にその曲のイメージを壊さぬよう心がけながらプレイし、決して1人で暴走することはない。ここでどちらが良いかという議論をするつもりは毛頭ないが、ロイとベックが同じタイプで、クラプトンとロリー・ギャラガーあたりが同じタイプに分けられるのだと思う。念のために言っておくと、個人的にはどちらのタイプも好きだ。そうでなければここでロイの紹介などしていない。
またA-2とB-2では珍しくロイのヴォーカルも聞けるが、ロイの声は特別良いわけでもないが、下手でもない。ロイが普段唄わないのは、ギターに専念したいという理由からだけなのだろう。3曲目になってやっとロイも落ち着きを取り戻す(笑)。この曲以降は以前の作品に近い弾き方。ギターの音色もロイのトレード・マークである「テレキャスター」が最も得意とするクリア・トーンに戻る。特にB面はブルースやインストゥルメンタル・ナンバーが連続し、ロイならではの本家ピッキング・ハーモニクス奏法を堪能できる。
ロイの全アルバムを通してみても、このアルバムと次のアルバムあたりが一番ロイがロイのままノッていた時期だろう。それ以降のロイは急に有名になったこともあり、必要以上に変わろうと無理をし、自分を見失っているようにも見受けられる。このアルバムでは、ヴォーカリストもベストの選択であるし、サウンド全体がとてもまとまっていて聞きやすい。ギター・ファンだけでなく多くのブルース・ロック・ファンが充分楽しめる内容だと太鼓判を押せる。(HINE)




1974年 In the Beginning(ギター・ルネッサンス) お薦め度★★★☆☆

SIDE-A

1.レスキュー・ミー
 
Rescue Me
2.アイム・ア・ラム
 
I'm A Ram
3.イン・ザ・ビギニング
 In The Beginning

4.シー・シー・ライダー
 
CC Ryder

SIDE-B

1.カントリー・プリーチャー
 
Country Preacher
2.キリング・マイ・ラヴ
 
Your Killing My Love
3.シー・キャント・セイ・ノー
 
She Can't Say No
4.さすらいの巡礼者
 
Wayfairing Pilgrim

Polydor/ポリドール

ひょっとしたら、このアルバムがロイの作品中一番地味かもしれない。勘違いをしないで欲しいが、それは悪いという意味でなく、ロイが派手なプレイよりも曲の雰囲気を壊さないプレイに徹しているため、とても自然でリラックスしたサウンドに仕上がっているという意味だ。全体的な曲調は、R&Bやゴスペルなど、黒っぽいサウンド傾向が強く、ホーンなども積極的に使っているようだ。ギターは比較的オーソドックスなプレイでフレーズ重視、たまにはこんなロイもいい。唯一B-3のブルース・ナンバーで少しトリッキーなところをみせるが、それにしてもロイにしては大人しい方だ(初めてロイを聞いた人はこれでもビックリするかもしれないが)。極めつけはスロー・ブルースのB-4、心に染み入るようなフレーズと耳を突き刺すようなテレキャスターの高音がなんとも心地よい。そして、ここぞというところで、ピッキング・ハーモニクスが「キィ〜ン」と効果的きまり、もう鳥肌ものだ。
尚、このアルバムではヴォーカルが前作のビリー・プライスからビル・シェフィールドに替わっているが、この人はレコーディングの時だけ起用されたようで、ライヴなどではまだプライスが担当していたらしい。プライスも非常に巧いヴォーカリストなのに、なぜわざわざ換えなければならなかったのか真意は分からないが、よりソウルフルな路線を狙ってのことかもしれない。
「聴くほどに味が出る」アルバムというのが、ときどき存在するが、このアルバムもまさしくそういった種類のアルバムで、何の気無しに1度聞いたぐらいでは、そのまま棚の奥にしまい込みかねない。しかし、ある日ふと引っ張り出してもう1度聞いてみたら、落ち着いた雰囲気でとても良かったと思い直すことだろう。もちろん一発で気に入れば、それはそれでいいのだが、地味で面白くないと感じた人も、しばらくしてからもう1度聞き直してみて欲しい。(HINE)




1975年 Live Stock(ライヴ・ストック) お薦め度★★★★★

SIDE-A

1.リーリン・アンド・ロッキン
 
Reelin' And Rockin'
2.ホット・チャ
 
Hot Cha
3.ファーザー・オン・アップ・ザ・ロード
 
Further On Up The Road
4.ロイズ・ブルース
 
Roy's Bluz

SIDE-B

1.キャン・アイ・チェンジ・マイ・マインド
 
Can I Change My Mind
2.アイム・ア・ラム
 
I'm A Ram
3.アイム・イヴィル
 
I'm Evil


Polydor/ポリドール

このライヴ・アルバムは、ロイが有名になってきた頃タイミングよく発売された。先の3枚のスタジオ盤を聞いて、ライヴも早く聞いてみたいとファン達がちょうど思い始めていた頃である。そしてその内容は、期待に余りあるくらいすごいものだった。
ロイは生涯2枚の公式ライヴ盤をリリースしているが、後の「ライヴ・イン・ジャパ」と比べても、ギタリスト「ロイ・ブキャナン」として見た場合、こちらのアルバムの方が過激でエキサイティングなプレイをしている。だが、選曲の違いから好き好きは分かれるところだろう。どちらかというと、本作はアメリカンな感じがして、乾いていて陽気。「ライヴ・イン・ジャパン」は、じっくり聴かせる曲や、みんなの知っているジミヘンのカヴァー曲など日本でも人気の高い曲をちゃんとリサーチして選曲されているようだ。
曲の内容に移る前に、まずジャケットにも注目してみよう。一見何の変哲もない古い建物の写真が写っているだけだが、よく見ると建物の屋根にはRoy Buchananという文字が書かれている。これは当時実在していたオーストラリアの肉屋さんで、オーナーがロイ・ブキャンという同姓同名らしい。古いLPのライナーにも、ロイと肉屋さんとはイメージがピッタリすぎる!と書いてあるが、ホントにこの店から本物のロイが「いらっしゃい!」と出てきてもおかしくない(笑)
さて、ここでのライヴだが、1974年11月27日ニューヨークのタウン・ホールで録音されたもので、メンバーはロイの他、ビリー・プライス(vo)、ジョン・ハリソン(b)がサード・アルバムと同じラインナップ、Byrd Fosterバード・フォスター(ds)とMalcom Lukensマルコム・ラーキンス(key)が新しい顔ぶれ。
のっけから明るくノリの良いロックンロール・ナンバーで始まり、ウォーミングアップもなくロイはすでにノリノリだ。2曲目は53年型テレキャスターから繰り出されるキンキンしたピッキング・ハーモニクス奏法の音が印象的なスロー・ナンバー。
3曲目は同時期にエリック・クラプトンが発表したライヴ・アルバムの傑作「E.C.was Here」にも収められていたボブ・マックのカヴァー曲。何でもこの頃のクラプトンは、異常なまでにロイの虜になっていて、ロイのマネージャーが録音したばかりのこの曲のテープをクラプトンにこっそり聞かせたところ、すぐに自分のライヴでも取り上げ、2週間後にはレコードにしてロイより先にリリースしてしまったということだ。これを聞いてロイは苦笑いして呆れていたらしい。しかし、この2人の演奏を聞き比べてみるとアプローチの仕方がまったく違うことがわかる。さすがにギターの神様と呼ばれるほどのお方、ただのものマネはしていない。プレイの過激さではロイの方が上手だが、流れるようなフレーズで曲の持ち味を良く出しているクラプトンもやはり巧い。
ロイの方は、最初は大人しく、ソロになるとドラマティックなほどエキサイティングなプレイをしている。
4曲目はロイのオリジナル・ソングで、得意のブルース・ナンバー。ここでのロイは本当にものすごい!ギタリスト「ロイ・ブキャン」のすべてを出しているといっても過言ではないだろう。ピッキング・ハーモニクスとヴァイオリン奏法の複合業や、ミュート奏法、例の速弾きなどロイが全身全霊をかけた演奏が堪能できる。やはりただの肉屋のおっさんではなかった!(笑)
B面の1曲目(CDでは5曲目)に移ると、またやけに爽やかな曲が入っているが、このあたりはLPならではの曲構成で、A面最後でヒートアップした状態からB面で改めて仕切り直しといったところだろうか。
B-2は「ギター・ルネッサンス」でも取り上げていたナンバーで、もともとはホーンも入ったスローなR&B調に仕上げていた曲だが、ここではもう少しアップテンポで、ブルージーなアレンジが施されている。
そしてアルバムの最後を締めくくるのは、重いスロー・ブルース・ナンバー。しかし、ロイはそんな曲調もお構いなしに弾きまくる。このライヴ・アルバムで、ついに伝説のギタリストの全貌が明かされた!(HINE)




1976年 A Street Called Straight(メシアが再び) お薦め度★★☆☆☆

SIDE-A

1.ランニン・アウト
 
Running Out
2.キープ・ホワット・ユー・ゴー
 
Keep What You Got
3.マン・オン・ザ・フロアー
 Man On The Floor

4.グッド・ゴッド・ハヴ・マーシィ
 
Good God Have Mercy
5.オーケイ
 
Okay
6.カルソー
 Caruso

SIDE-B

1.マイ・フレンド・ジェフ
 
My Friend Jeff
2.イフ・シックス・ワズ・ナイン
 
If Six Was Nine
3.ギター・カデンツァ
 
Guitar Cadenza
4.メシアが再び
 
The Messiah Will Come Again
5.アイ・スティル・シンク
 I Still Think About Ida Mae

Atlantic
/Wounded Bird
/ポリドール

75年ジェフ・ベックが「哀しみの恋人達」という曲のクレジットに「この曲をロイ・ブキャナンに捧げる」と入れたことから、一般のロック・ファンの間でもすっかり有名になったロイが、次にどんなアルバムを発表してくるのか、当時とても興味深かった。それまでひたむきにギターと向き合い、有名になることを拒んできた男だけに、そのプレッシャーはいかばかりだったのか、常人には計り知れない。しかし、このアルバムを聞く限り、プレイ自体には妙な力も入っておらず、自然体な印象さえ受ける。ただし、今までのロイのアルバムからすると、この散漫な内容は明らかにどこかヘンだ。何か新しいことをやらなければという目には見えないプレッシャーが選曲の中に感じられる。おそらく今回はアコースティックを主体にしようと当初考えていたのだろう。実際アルバム中の半分はアコースティック・サウンドで占められている。ところが、どうみても異質なB-1〜3の流れ、これは後から付け足したのではないかと思われる。B-1の「マイ・フレンド・ジェフ」にしても、何か話題性として演っているというだけで、ベックのプレイをよく研究しているわけでもないし、特別気合いを入れて弾いているわけでもない。B-3に至っては、この時代にサイケでもないだろう・・・と頭を抱えたくなる。A-1以外の唄入り曲では、リード・ヴォーカルをロイ自身がとっているのもいただけない。ついでに参加ミュージシャンで主なところをあげておこう。アンディ・ニューマーク(ds)、ビリー・コブハム(per)、ランディ・ブレッカー(horn)、マイケル・ブレッカー(horn)、ルーサー・ヴァンドロス(back vo.)などジャズやR&B系が多い。
B-4は、ファースト・アルバムにも入っていた自身の曲のセルフ・カヴァーで、オリジナルよりコンパクトにまとめている。ファースト・アルバムが当初ほとんどプライヴェート盤のような扱いで、あまり出回っていなかったことを考えると、このアルバムでこの曲を初めて聴いたファンもたくさんいたことだろう。こんな名曲を埋もれさせるのはもったいないと思ったレコード会社の戦略だろうが、この選曲はドンピシャで、ますますロイのファンを増やす結果となった。個人的にはサード・アルバムの延長線上にあるようなA-1が、いつものロイらしいトリッキーなプレイでお薦めだ。(HINE)




1977年 Loading Zone(ローディング・ゾーン) お薦め度★★★★☆

SIDE-A

1.ヒート・オブ・ザ・バトル
 
The Heat Of The Battle
2.ヒドン
 
Hidden
3.ザ・サークル
 The Circle

4.ブレア・ラビットとタール・ベイビーの冒険
 
Adventures Of Brer Rabbit And Tar Baby
5.レイモンのブルース
 
Ramon's Blues

SIDE-B

1.グリーン・オニオン
 
Green Onions
2.ジュディ
 
Judy
3.ダン・ユア・ダディ・ダーティ
 
Done Your Daddy Dirty
4.ユア・ラヴ
 
Your Love

Atlantic/ポリドール

すっかり時の人となったロイが放った通算7枚目の本作は、良くも悪くも、ロイのアルバム中一番異色の内容だ。前作で「マイ・フレンド・ジェフ」という曲をベックにお返ししたロイであったが、今度はそのベックを取り巻くミュージシャン達と(集めたのか勝手に集まってきたのかは不明)大バトルを繰り広げる。ロイ自身いつになくノリまくっている様子で、変幻自在なギターを惜しみなく披露。確かにアルバム全体としてのまとまりは今ひとつかもしれないが、ギター好きのファンにはロイのトリッキーなプレイを堪能できる、たまらないアルバムだろう。
主な参加メンバーを記しておくと、ヤン・ハマー(key)、スタンリー・クラーク(b)、スティーブ・クロッパー(g)、ドナルド“ダック”・ダン(b)、ナラダ・マイケル・ウォルデン(ds)、レイモンド・ゴメス(g)、マルコム・ラーキンス(key)など、いずれもジャズ&フュージョン界のスター達が顔を揃えている。またプロデューサーはスタンリー・クラークが担当しているが、特にジャズっぽく仕上げているわけでもなく、バラエティに富んだ内容と言った方がふさわしいだろう。
まず1曲目、いきなりフュージョン風のリズムで始まり、ロイのギターがどういう風に絡んでくるのかワクワクする。前半はまず控えめにメロディーラインからフレーズ重視のソロを弾いているが、タイトルの「ヒート・オブ・ザ・バトル」さながら、途中からロイお得意の「ヤケのヤンパチ」のような速弾きが炸裂!そのまま一気にエンディングまで速弾きで押しまくる。さすがのスタンリー・クラークも隙間に割ってはいる余地なしといった感じで、ヒートしているのはロイだけという話しもある(^_^; 
2曲目はうって変わってスローで静かな小作品。ロイには珍しくおとなしめの抑えたプレイ。3曲目はロックっぽいヴォーカル曲。ちなみに本作ではこの曲ととB-4以外はすべてインストゥルメンタルだ。面白いのはA-4、カントリー調の曲をロイのギターとスタンリー・クラークのベースだけでコミカルに掛け合いする。スタンリーはリターン・トゥ・フォーエバー時代などによくこういった他の楽器との掛け合いをやっていたが、ここでもロイとの息がピッタリと合っていて見事だ。そして昔からのロイ・ファンも喜ぶ、ブルース・ナンバーの極めつけA-5。ピッキング・ハーモニクスからヤケのヤンパチ奏法まで、ありとあらゆるロイの奏法をすべて出し尽くした迫真のプレーが聞ける。B-1はスティーヴ・クロッパーとドナルド・ダンが在籍しているブッカーT&ザ・MGズの名曲。ここではクロッパーとロイのギター・バトルが聞き所だが、クロッパーの燻し銀のようなプレイもロイのピッキング・ハーモニクスの嵐の前には、まったく目立たない。B-3では、今度はボトルネックを持ち出してくるが、さすがにロイらしく普通には弾かない(笑)スライド・ギターでも暴れ放題だ。
尚、このアルバムの成功で、さらにロイは精神的に追いつめられ、迷走してゆくことになる。(HINE)




1978年 Live In Japan(ライヴ・イン・ジャパン) お薦め度★★★★★

SIDE-A

1.ソウル・ドレッシング
 
Soul Dressing
2.スウィート・ハニー・デュー
 
Sweet Honey Dew
3.ヘイ・ジョー
 Hey Joe

4.スロー・ダウン
 
Slow Down

SIDE-B

1.ロンリー・デイズ・ロンリー・ナイツ
 
Lonly Days Lonly Nights
2.ブルース・オータニ
 
Blues Otani
3.ベイビー・セッズ
 
My Baby Says She's Gonna Leave Me
4.スウィート・ドリーム
 
Sweet Dream

ポリドール/Repertoire

本作は1977年6月14日と15日の郵便貯金ホールでの来日公演からライヴ・レコーディングされたもので、その中のベスト・テイクが収められている。来日公演自体は6月7日後楽園ホールを皮切りに大阪やその他の都市で約2週間ほど行われたらしい。
この来日公演が行われた時期は、ちょうど「メシアが再び」と「ローディング・ゾーン」の狭間で、人気絶頂期にあったわけだが、ロイ自身は決して充実していたわけではなく、戸惑い、迷う、苦悩の日々にあったように思う。だが、このライヴで聞かせる彼の演奏は実にリラックスしていて、まるで小さなライヴハウスで演奏しているように淡々としている。そう、これが本来のロイの姿なのだ。音楽を愛することと同じぐらい家族や平穏な生活を愛していたロイにとっては、大スターになることよりも、こうやってステージでギターに没頭していることが何より幸せなのだろう。
また、本当の公演ではもっと有名な曲をたくさんやっていたはずで、それをアルバムに収めベスト盤のようにすれば、セールス的にはもっと売れたのだろうが、8曲中5曲が未発表曲というところはいかにもロイらしい。
1曲目、バックのジャズっぽい伴奏に合わせてロイもオクターヴ奏法などのジャズ・テクを駆使しながら静かに弾き始める。まずはバック・バンドを引き立てるような控えめなプレイだが、途中からしだいにヒート・アップし、得意の速弾き(内輪ではヤケクソ奏法と呼んでいる)も飛び出す。A-2はヴォーカルが入ったアップ・テンポなブルース・ナンバーだが、ここでも長めのキーボード・ソロを入れるなど、バックとの一体感を強調しているようだ。
しかし、A-3でついにロイの鬼神のようなプレーが炸裂。ジミヘンのこの曲はサード・アルバムでもカヴァーしていたが、ここでは9分以上にもわたる熱演で最後にはフォクシー・レディの一節までオマケで入る。A-4は古典ロックンロール・ナンバーで、ビートルズもカヴァーしていた曲。B面へ移ると、じっくり聴かせるスロー・ナンバーが2曲が続く。ここでは生のテレキャスター・サウンドとあの本家ピッキング・ハーモニクス奏法を存分に味わいたい。そしてB-3はサード・アルバムのオープニング曲をコンパクトにまとめている。最後はファースト・アルバムより名曲「スウィート・ドリーム」。ロイにとっては古き良き時代だったであろうこの頃のナンバー、遠い異国の地で演奏しながらどう思ったのだろう?「あの頃は良かった」と思っていたのか、「初心を忘れずにいよう」と思っていたのか、はたまた別に想いを馳せていたのかは分からない。だが、少なくとも「これからもっとビッグ・スターになってやろう」とは思っていなかったはずだ。そうでなければ、これほどロイが身近な存在には感じられないだろう。まるですぐ近くでプレイしているような親近感をこのアルバムのプレイから感じ取れるからだ。
元々はこのライヴ盤、日本のみで発売されたLPで、演奏内容も良くかなりクリアな音だったが、CD時代に無くなってしまったことは、ワールド・リリースでない事を考えれば当然だろうと諦めていた。しかしながら、2003年このアルバムがデジタル・リマスターされ、しかもデジパック、英語ライナー付きの豪華さで再発売された(UK盤)ことはとても感激だ。(HINE)




1978年 You're Not Alone(レス・ポールとの遭遇) お薦め度★☆☆☆☆

SIDE-A

1.ジ・オープニング…マイルズ・フロム・アース
 
The Opening...Miles From Earth
2.ターン・トゥ・ストーン
 
Turn To Stone
3.フライ…ナイト・バード
 Fly...Night Bird

4.1841シャフル
 
1841 Shuffle

SIDE-B

1.ダウン・バイ・ザ・リヴァー
 
Down By The River
2.スーパーノヴァ
 
Supernova
3.ユーアー・ナット・アローン
 
You're Not Alone

Atlantic/Wounded Bird
/ポリドール

ロイのアルバム中もっとも評価の低いアルバム。趣味の悪いジャケットにひどいセンスの邦題(もうちょっとなんとかならなかったものか)。内容的にもシンセサイザーを導入し、スペーシーなサウンドを作り上げるなどまったくダサイ。それにも増して一番許せないのは、ロイがレスポールを弾いていることだ!これだけでもうファンなら誰もが拒否反応を起こすだろう。・・・と、この作品の発売当時は思ったものだ。そしてレコード棚の奥底にほとんど新品のまましまい込み、おそらくこの文章をかくためでなければ、2度と聞くことはなかったはずだ。しかし、今聞き返せばそれほどヒドイ内容ではなかったのではなかろうかと思い直し、もう1度聞いてみた。
確かに昔聞いた印象とは違って、けっこうカッコイイ普通のロック・アルバムだ。ギターもレス・ポールの太くよく伸びる音の特徴が現れている。だが、一聴してロイとは分からないこのサウンドを、果たしてロイがやる必要があったのか?また時代背景的にも、すでに70年代末期の時点で、こういった普通のロック・サウンドをやるのははいささか古すぎる。唯一3曲目のスロー・ナンバーでは、音質は違うものの、ロイの泣きのギターが炸裂。レス・ポールでも、得意のピッキング・ハーモニクスはもちろん健在。要所要所でキメているのがうれしい。とはいえ、やはり全体を通してみても、何か新しいことをやらねばというプレッシャーで苦し紛れに出したアルバムという印象は拭いきれない。
アルバムの内容とは関係ないが、この頃からロイは薬物にも手を出すようになり、人気も下降線をたどることになる。(HINE)




1981年 My Babe(マイ・ベイブ) お薦め度★★★☆☆

SIDE-A

1.ユー・ゴッタ・レット・ミー・ノウ
 
You Gotta Let Me Know
2.マイ・ベイブ
 
My Babe
3.イット・シュッドヴ・ビーン・ミー
 It Should've Been Me

4.シークレット・ラヴ
 
Secret Love
5.ラック・オブ・ファンク
 Lack Of Funk

SIDE-B

1.ドクター・ロックン・ロール
 
Dr.Rock & Roll
2.ディジー・ミス・リジー
 
Dizzy Miss Lizzy
3.ブルース・フォー・ゲイリー
 
Blues For Gary
4.マイ・ソナタ
 My Sonata

AJK/ポリドール

何を考えていたのか、ロイは前作発表後アトランティック・レコードを離れ、自ら「ウォーター・ハウス・レコード」という会社を興す。そこからの最初にして最後のアルバムがこの「マイ・ベイブ」だ。
ジャケットは「やっぱりお前が一番だよ」と言いたげに、愛機テレキャスターに向かって乾杯しているという、なんとも微笑ましい洒落た演出がなされている。サウンド的にも「あのロイ・ブキャナンが帰ってきた!」という感じなのだが、全体を通してどこか元気がない。まったく憶測の域をでないが、おそらくこの時期は精神的も肉体的にも一番疲れ切っていた頃で、ミュージシャンとしても経営者としてもいろいろな迷いがあり、薬物にも手を出してボロボロになってゆく寸前だったのではないだろうか。実際この後会社は倒産、ロイはアルコールと薬物の中毒に陥り、長期の休養を余儀なくされる。
それはさておき、内容的にはこのアルバム、ちょっとロイのプレイに精彩を欠く以外はよくまとまっている。今回のテーマは「ロックンロール」としているようで、A-1、A-2、B-1、B-2と4曲もロックンロール・ナンバーが入っている。もちろんB-4のようなロイお得意のブルース・ナンバーもあり、ここではかなりアグレッシヴなプレーをしているのだが、どうもいつもの切れ味がないように思える。また、珍しく静かなインストゥルメンタル・ナンバーを2曲(A-4、B-4)も入れているが、ここではかつての「メシアが再び」のようなドラマティックな展開はなく、どちらも小作品風に仕上げている。しかし、2曲ともなかなか心に染み渡る味のあるプレーで、特に最後の「マイ・ソナタ」では、何か悲壮感さえ漂っているように聞こえるのは、彼のその後の結末を知っているからなのだろうか・・・。(HINE)




1985年 When a Guitar Plays the Blues(ホエン・ア・ギター・プレイズ・ザ・ブルース) お薦め度★★★☆☆

1.ホエン・ア・ギター・プレイズ・ザ・ブルース
2.シカゴ・スモークショップ
3.ミセス・プレッシャー
4.ア・ニッケル・アンド・ネイル
5.ショート・フューズ
6.ホワイ・ドント・ユー・ウォント・ミー
7.カントリー・ボーイ
8.ゴジラ出現
9.ハワイアン・パンチ

Alligator/キングレコード

1985年、復帰後第1弾がこのアルバムで、ジャケットにはテレキャスターを抱え子供のように澄んだ瞳のロイが元気そうに写っている。これだけでもファンには嬉しいが、その1曲目では「あのロイ」が帰ってきたと思わせるに充分なすばらしいブルース・ナンバーのプレゼントだ。テレキャスターのキンキンした音と耳に突き刺さるようなピッキング・ハーモニクスの高音が懐かしくも心地よい。自分の場合、復帰後の作品を聞くのは2003年現在で初めてなので、もうホントに涙が出るくらい懐かしかった。しかし、「お帰りなさい!」と言いたくても、ロイはもうこの世にいない。このアルバムがリアルタイムで日本発売していたのかは定かでないが、もし当時聞けたならもっと感動的だったことだろう。
全体的には2〜4作目のアルバムに近い雰囲気を持っているが、80年代ということもあって、少々デジタル・リバーブ(風呂で聞いているような共鳴音を出すエフェクター)を多めにかけているのが耳に付き残念だ。80年代にはロイだけでなく他のアーチストもこぞってこういった音作りをしていたが、今となっては古くさい感じがしてしまう。とはいえ、内容自体はロイ渾身の復帰作といった印象で、グラミー賞にもノミネートされたほどの佳作だ。
ギター・プレイで特に注目なのは2曲目と4曲目。もはやロイ奏法とも呼びたくなる独奏的な速弾きの極め付けが楽しめる。また7曲目では、なんとライトハンド奏法っぽい事までやっているのが面白い。8曲目のタイトルは直訳すると「裏通りを抜けてこそこそ逃げるゴジラ」という意味だろうか!?その昔には、ブルー・オイスター・カルトが日本が誇る怪獣ヒーロー「ゴジラ」を題材に曲を作っているが、この曲もゴジラが歩く重厚感と、どこかコミカルな雰囲気をうまく表現している。ラストの9曲目では珍しくスライド・ギターを披露。しかし、別に気負った感じはなく、ごく自然にプレイしている。これは全体的にも言えることだが、一度引退に近い状態に陥ったことでへんな緊張感はなくなり、本当に好きなことができるようになった証なのだろう。尚、ヴォーカルにスペシャル・ゲストとしてオーティス・クレイ(4曲目)、と女性のグロリア・ハーディマン(6曲目)が参加しているが、これがまた、ともにすばらしく巧い。本作はぜひリマスターし、へんなリバーブ音を取り除いて聞いてみたいものだ。(HINE)




1986年 Dancing on the Edge(ダンシング・オン・ジ・エッジ) お薦め度★★★☆☆

1.ピーター・ガンのテーマ
2.チョーキン・カインド
3.ジャングル・ジム
4.ドラウニング・オン・ドライ・ランド
5.ペタル・トゥ・ザ・メタル
6.ユー・キャント・ジャッジ・ア・ブック・バイ・ザ・カヴァー
7.クリーム・オブ・ザ・クロップ
8.ビアー・ドリンキング・ウーマン
9.ホイップラッシュ
10.ベイビー・ベイビー・ベイビー
11.マシュー

Alligator/キングレコード

復帰後第2弾は、またもやレス・ポールを持ったロイが登場。しかし、1曲目を聞いただけで安心する。確かに粘りのあるず太いトーンはレス・ポール以外の何ものでもないが、特にそれを強調する風でもなく、いつもの調子でガンガン弾きまくっている。いや、弾きまくりすぎか・・・。特に1曲目では、ちょっと薬でもやっていそうなくらいにキレたプレイなのだ。ちなみに、ここでも聞けるロイお得意のハチャメチャ風速弾きは、フラメンコ・ギターの奏法を参考にして編み出したのだそうだ。
アルバム全体では陽気でポップな短編曲が多いのが本作の特徴だ。
そんな中で先の1曲目を除いて、特に注目したい曲をいくつか挙げておくと、まず2曲目のDelbert McClintonが唄うヴォーカル入りの曲、いつもロイは有能な人材を捜してくるが、ここでもこのナンバーにピッタリのヴォーカリストを起用した。ちょっとCCR(クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイバル)風で粋な曲だ。
4曲目のブルース・ナンバーは、クリーム時代のエリック・クラプトンを想わせるようなフレーズ重視の組み立てがロイにしては珍しい。ヴォーカルもロイ自らがとり、クラプトンがよく使うハーモナイズ・チョーキング(2弦をいっしょに弾き、1本をチョーキングする)も使っているので、もしかしたら意識的にやっているのかもしれない。
8曲目は酔っぱらった女性をイメージしているのだろうか!?バックのピアノもロイのギター・フレーズもそれっぽく、フニャフニャした感じを出して弾いているようで面白い。
このアルバムも、前作につづき、おそらくトラックダウン段階でデジタル・リバーブ処理を多めにかけられたのだろう。残響音がやけに耳に付く。しかし本作の内容は、まるでどこか小さなバーのステージで演奏しているような雰囲気もあり、ゆっくりと通して聞いていると、その店で飲んでいたような錯覚に陥ってしまうかもしれない。ぜひ一度ビールを片手に聞いてみてはどうだろう。(HINE)




1987年 Hot Wires(ホット・ワイヤーズ) お薦め度★★★★☆

1.ハイ・ワイヤー  High Wire
2.ザッド・ディド・イット  
That Dio It
3.グース・グリース  
Goose Grease
4.サンセット・オーヴァー・ブロードウェイ  
Sunset Over Broadway
5.エイント・ノー・ビジネス  
Ain't No Business
6.フラッシュ・コーディン  
Flash Chordin'
7.25マイル  
25 Miles
8.ジーズ・アームズ・オブ・マイン  
These Arms Of Mine
9.カントリー・ブギ  
Country Boogie
10.ザ・ブルース・ラヴァー  
The Blues Lover

Alligator/キングレコード

復帰後3作目の本作は前2作を凌ぐすばらしい内容だ。それだけに、これがロイのラスト・アルバムとなってしまったことは本当に残念だ。ミュージシャンとしてはやっと「自分」を取り戻し、初期の頃のように自由に気持ちよくプレーしている。しかしながらプライベートでは、まだアルコールとドラッグ中毒が抜けず、結局道ばたで泥良いしているところを警察官が発見し拘留したところ、留置場の中で衝動的に自殺してしまったということらしい。ロイの死は、偉大なミュージシャンがまた1人いなくなってしまったというだけでなく、ブルース&ロック・ギター界にとっても大きな財産を失ってしまったことに等しい。このラスト・アルバムが素晴らしい出来であっただけに重ね重ね残念に思う。
さて、肝心のアルバムの方だが、まず最初にレスポールを弾いているジャケットを見て「またか・・・」とガッカリした。そう、あの「レスポールとの遭遇」を思い起こしてしまったからだ。それどころか、裏ジャケにも内ジャケにも、レスポールを抱えたロイの姿がたくさん映っている。これを見て聞く気になれず、しばらく放っておいたまま、いっしょに購入した他のアルバムを先に聞いていた。
ところが、いざ聞いてみると、いきなり出だしからメイン・メロディー部分をピッキング・ハーモニクスでギンギンに弾きまくる凄いサウンド!もう1曲目から強烈なパンチにノック・ダウンさせられた感じで、すっかりロイの愛機テレキャスターの事など忘れてしまった。2曲目は打って変わって、シブ〜いブルース・ナンバー、もう泣けてきそうだ・・・。これぞロイ・ブキャナン!ファンが待ちに待ったロイの完全復活だと叫びたくなる。今作ではバック・バンドもシカゴ・ブルース界で活躍する選りすぐりを集めただけあって、特にこういったブルース・ナンバーは上手い。
また、3曲のみヴォーカルにゲスト・シンガーを使っているが、2曲目と7曲目がJohny SaylesというR&B界のベテラン、8曲目のオーティス・レディングのカヴァー曲がKanika Saylesというシカゴ・ブルース・シーンの若手(当時)で、共に全曲歌わせても良かったのでは!?と思うぐらい巧い。
余談だが、7曲目「25マイル」のイントロはマイケル・ジャクソンとミック・ジャガーのデュオで84年にヒットした「ステイト・オブ・ショック」のリフによく似ている。この曲は60年代のカヴァー曲で、多くのアーチストに影響を与えている曲らしい。
そして、ロイ最後のアルバムの最後を締めくくる曲は、「The Blues Lover」というタイトルが付けられたバリバリのブルース・ナンバー。偶然だろうが、まるでロイの人生の締めくくりのような曲ではないか・・・。8分以上にもなる力作で、前半は珍しくボトルネックを使ったソロが聞ける。バックのオルガンの音もいい雰囲気を出している。
しかしこうして全曲聞き終わった後でもう1度ジャケットに目をやると、レスポールを持ったロイもなかなかサマになっているな、と感じるのは不思議なものだ。ようするにロイが自分を見失わず、ロイらしいプレイをしていてくれさえすれば、ギターの種類などなんでもいいのだ。だが今ではもうそれさえも叶わぬ願いとなってしまった。(HINE)