お薦め名盤Vol.9(POP&JAZZY)

恋のオブジェ / マイケル・フランクス
Onjects Of Desire / Michael Franks

1982年 Warner Bros. Records Inc.

SIDE-A

1 ジェラシー
 Jealousy

2 淑女たちの夜
 Ladies' Nite

3 うつろな恋
 No Deposit Love

4 ラーフィング・ギャス
 Laughing Gas

5 ワンダーランド
 Wonderland

SIDE-B

1 タヒチアン・ムーン
 Tahitian Moon

2 愛の戯れ
 Flirtation

3 愛のデュエット
 Love Duet

4 君だけを
 No One But You

主な参加メンバー
Vocal / Bonnie Raitt、S.Renee Diggs
Back Vocal / Luther Vandross、Randy Vanwarmer、Yvonne Lewis、Kacey Cisyk、Leslie Miller
Drums / Andy Newmark、Harvey Mason、Buddy Williams、Rick Cutler
Bass / Neil Jason、Francisco Centeno、Mark Egan
Guitar / Larry Carlton、Steve Khan、Niki Moroch、Joe Caro、Hugh McCracken
Sax / David Sanborn、Michael Brecker、Lawrence Feldman
Trumpet / Randy Brecker

 AORとはアダルト・オリエンテッド・ロックの略だが、その音楽的境界は曖昧であり、ソフト・ロックからフォーク、ポップス、フュージョンまで様々なサウンドのものがある。ただ、そこには「しゃれた」とか「大人の」とかいう共通の要素が含まれているだけである。
 マイケル・フランクスの音楽は、その中でもかなり「フュージョン」寄り、もっと言えば「ジャズに近いフュージョン」寄りのものだ。ただし、彼の生み出す音楽には、フォーク・グループ→ロック・バンド→ジャズ・バンドといった彼のそれまでの音楽キャリアとカリフォルニア大学で音楽博士として働いていたという知性が随所に見え隠れし、ただのフュージョンだとも割り切れないものがある。
 高い音楽性をオブラートに包んで隠してしまったようなサウンド・アレンジは実に巧妙で、様々な音楽に精通したリスナーをも唸らせながら、一般リスナーへも自然な心地よさとして受け入れられた。あまり上手くはないマイケル自身のヴォーカルも、逆手にとって声を1つの楽器のごとく扱うことにより、サウンド全体の中であまり目立たせないように工夫したのも計算内のことだろう。彼のヘタウマなヴォーカルは、むしろ親近感として、広い層へもアピールしたのではないだろうか。
 僕が彼の音楽に初めて接した時も、「こいつ下手くそだな〜」という第一印象だった。しかしそれがどうも耳から離れない。気になってもう1度聞いているうちにバックのミュージシャンのすごさに気づく。ますます気になって何度も聞いているうちに、メロディの良さと高い音楽性にも少しづつ気づかされる。その時点でもう計算し尽くされたマイケルの術中にはまっていたのだ。
 さて本作だが、これはマイケルの7枚目のアルバムとして1982年に発表されたものだ。その頃彼はもう既にベテランの域にも達していたが、いっこうに衰えないどころか、ますます冴えを増す作曲能力には脱帽もの。一般的にはサード・アルバムの「スリーピング・ジプシー」が最高傑作とされているが、アルバム全体としては本作の方が楽曲の良さは上回るのではないだろうか。ただし、僕が初めて聞いた彼のアルバムが本作であり、思い入れもかなりあると思うので、彼をデビュー当初から聞いていた方からは「そんなことはない!」と怒られるかもしれない。だが、今、初期のアルバムから順に聞いてみると、サウンド的にはすでにセカンド・アルバム「アート・オブ・ティー」の頃から完成されていて、本作あたりではもう新鮮みが薄いが、それでもやはり曲のメロディーが抜群にいいのは本作だ。
 参加ミュージシャンは上記の通りの豪華さで、特に1音弾いただけでそれと分かるA-3でのラリー・カールトンのギター、またこれもすぐにそれと分かるB-3でのデイヴィッド・サンボーンのアルト・サックスは心に染み入るほどすばらしい。A-4で派手なテナー・サックスを吹くマイケル・ブレッカーも印象的だ。逆に地味だが良い仕事をしているのは、A-3のここぞという時に見事なチョッパーを入れるベースのニール・ジェイスンや不規則なパターンを何気なく叩くドラムのアンディ・ニューマーク、B-4「君だけを」で静かにクラシック・ギターで伴奏をつけるスティーヴ・カーンなどだろう。
 また、本作には珍しくデュエット曲が2曲もあり、そのどちらもが共にすばらしい。A-2はボニー・レイットとのデュエットだが、マイケル以上にそっけないボニーの声が入ることにより、マイケルの声がとても温かく感じるのは不思議だ。逆にB-3のレニー・ディッグスとのデュエットでは、繊細なレニーの声が素朴なマイケルの声との対比でより生き生きと聞こえる。いずれにしろこの2曲の存在は、アルバム全体が単調になることを避ける効果があり、この2曲があるからこそ、個人的には本作が一番いいと思えるのかも知れない。
 もし、このアルバムを気に入ったなら、セカンド、サード・アルバムに加え、85年リリースの「スキン・ダイヴ」もかなりの秀作なのでぜひ聞いてみていただきい。